3──悪役ムーブ
かなり根本的と言うか、現実的な問題なのだが、そもそもどうやってスキルとか技を発動させるんだ?
ゲームでやってた時は○ボタンとか✕ボタンとか△□押してりゃなんとかなったが、ここは今現実の世界。
ボタンなんて無いし、当然コントローラーも無い。
「どうすりゃいいんだ?」
やっぱりここはお決まりの······
「よし! 発動!我が力、クラフト! 今こそ形となりて我が僕と化せ!」
詠唱だ!
──シーン······──
何も起きなかった。
「ええっ?! ちげえの?! 普通こういうので何とかなるもんだろ!?」
いや、それは流石にゲーム、アニメ脳過ぎるか。
だが、使えないなんて事ないはずなんだが······。
「あ、そうだ」
大事な事忘れてた。
一応この世界は魔法の世界なんだ。
そして、魔法と言えば詠唱よりも大事で根本的な発動条件があるじゃないか。
そう、それは
「············」
──ズズズッ──
イメージだ。
頭の中で、UFOの形と、それを組み立てるイメージをした。
すると、どうだろう。
辺りに落ちてる岩や木、そして廃材などが独りでに動き出して集結、合体していくじゃないか。
──ガタガタッゴンゴンッゴドッ──
それはスクラップUFOとでも称すべき形の物体へと変貌した。
「おお~っ! すげーっ!」
ゲームプレイ時に見たイルスの戦闘マシーンとはまた少しデザインが違うが、確かにスクラップUFOだ。小型で一人乗り用。自動車よりも一回り小さい。
やはり、俺はイルスだ。この能力が何よりの証だ。
「ふぅむ」
それにしても、何となくのイメージをしただけなのにちゃんとそれっぽい形になってるのは不思議だ。
なんて言えばいいんだろう? こっちが『~~的な感じで頼むわー』と注文したら設計図を勝手に作って組み立ててくれてるみたいな?
ま、いっか。これで足は出来た。後は好きな所へ行くだけだ。
問題は行って何をするか、だ。
「うーん··················ま、いいかテキトーで!」
考えてたってしょうがない。とにかく発進だ。難しい事考えるよりも早く飛んでみたい。
UFOに乗る。パイプ椅子で作った操縦桿を手に取り、足元のアクセルとブレーキのペダルらしき物を踏んでみる。
「飛べ! 俺様のUFO!」
──シーン······──
あれ? 動かない。
そういや、動力ってどうなってんだ?
確か、魔力で浮いてる設定だったはずだが。
「またイメージか?」
自分の中の力を操縦桿に注ぎ込むイメージをしながら強く握りしめた。
すると──
──フイイィーン──
なんかモーターが動きだしたっぽい。
操縦桿となるパイプを握り、倒してみると機体が浮いた。
「おおっ! すげー!」
なんとなくの直感操作で動かしてみると、その通りになるので楽しい。いやに手に馴染む。まるでコントローラーを扱ってた時と変わらないような感覚だ。
あっという間に機体は空へ舞い上がり、高度を上げた。
下を見ると、森が海のように広がっていて、遠くの地平線や山の稜線が青く霞んでいる。
「おおっ! 飛んでる! 俺、空飛んでるぞ!」
こんな簡単に空を飛べる事に思わず感動した。
「よっしゃー! 町へゴー!」
テンションが上がったまま操縦桿を倒し、猛スピードを出して町を目指す。
ゲームプレイ時の記憶を辿れば、道案内がなくとも、山の位置やら地形やらで大体の方角が分かる。
「おっ!」
町が見えてきた。
主人公達の町『ユートピアタウン』だ。
その象徴とでも言える東京タワーもどきがあるので間違いない。
「おー、見えてきた。見えてきた。ん?」
郊外に差し掛かった辺りで、野原で動く何かを発見した。
「あれは······」
離れているが、遠目でも分かった。
「アバとユサにキャト?」
決して難解な呪文を呟いてる訳じゃない。これは名前だ。
そう、野原で花を摘んでる三人のマスコットのモブ子供の名前だ。
「おお、モブまで居るのか」
名前こそあるものの、攻略対象キャラでもなく、一緒に戦う事も出来ないNPCキャラだ。ファンからは『モブガキ』『マスガキ』『違法ロリショタ』などと言われていた。
マスコット的な妖精の姿だが、早い話、人語を操る二足歩行の動物だ。ケモナー勢歓喜。
アバが猪みたいな男子で、ユサがウサギみたいな女子、キャトが猫みたいな女子。
三人とも主人公を凄く慕っており、何かあるたびに主人公を応援したり手助けしたり、逆に主人公に助けられたり。まあ、仲の良い元気マスコット三人衆だ。
「······おっ」
そうだ。
ちょうど良い。
せっかく悪役になってるんだ。
ちょいとここらで悪役ムーヴかましてイルスに成りきって楽しむのもアリだな。
「よーし。くくく、ガキどもめイルス様の登場だぜぇ」
機体を傾けて三人の元に急降下させる。
かがんで花を摘んでいた三人がハッとして顔を上げた。
間違いなく、あの三人だ。実物を見ると不思議な感覚だ。
さて、それでは。
やるか。
三人の前まで行き、中指立てながら舌をベロンベロン出して決め台詞をヒャッハーな感じで吐き散らす。
「ギャハハハッピバースデー! クソガキども、元気にやってたか~? 今日もたくさんいじめてやるぜ~、ヒャーッ!」
我ながら完璧じゃないか。イルスの真似。
だが、改めて考えると子供相手にこんな感じで絡む奴って結構ヤバいよな。
ま、それはともかく。さあて、ガキどもの反応は~?
『う、うぅ······』
「ん?」
『わあああああああんっ!!』
「?!」
三人揃ってギャン泣きし始めた。
ちょっと想像以上のリアクションなんだが······。
「あいや、別にそこまで泣く事もねえだろ」
あまりの泣き声に俺も動揺した。近づいて声をかけてみる。
「おいおい、いくら俺の登場だからってよ、そこまでガチ泣きしなくてもよ──」
『わあああああああ!!』
声を揃えて、振り絞るように泣き叫ぶ三人。
もう涙で顔をぐしゃぐしゃにして、座り込んだまま泣きじゃくるだけだ。
本来なら、『あっ! イルスだ!』『また悪さしに来たんだ!』『わあっ、逃げろー!』くらいのリアクションのはずなのだが······。
ちょっといくらなんでも怯えすぎじゃないか?
『うわあああんっ、わああああんっ!』
「お、おいおい、そんな泣くなよ、どうしたんだよ。まだ何もしてないだろ?」
流石に心配になってUFOを降りようとした時だ。
『イルスっ!!』
誰かの鋭い声が聞こえた。
お疲れ様です。次話に続きます。