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37──また見る悪夢

 




『なんじゃこりゃあ? 随分シケた所だな~。つうか、いつの間に夜になったんだ~?』








 この荒野はなんだ?


 なんて重苦しい空気だ。昼間のはずなのに夜のように暗い。







『だけど俺には分かるゼ~? あっちの方から妙な気配がプンプンだぜぇ! ギャハハハハッ! なーんか面白そー!』






 そうだ。ここは駄目だ。


 イルス、ここから立ち去れ。







『おん? なんだぁ? あの気持ち悪いのは?

肉の塊······かぁ? よくわかんねえけど、行ってみっかあ!』







 行っちゃいけない、ここは駄目なんだ。








『おおっ! あっちで何か動いたぜー! ギャハハハハ! 楽しくなってきやがったぜー!』







 駄目だ! 帰るんだ! すぐにここから帰れ!





『ククク~、こんなヤバそうな所だったらよ~、あのクソリゲルをボコせる物あるだろ~! ギャハハハハ! 嬉しすぎてクソ漏れそうだぜえ!』





 どれだけ馬鹿なんだ! 早くっ、早く──














「帰れええええええええええええ!!!」



 思わず叫んでいた。



「ハッ!?」



 叫んだ瞬間、荒野も消え、どんよりとした不気味な空気も全て無くなっていた。


 身体が動く。俺の意思で。


 反射的に起き上がっていた。



「はぁっ、はあっ、はあっ、こ、ここは······」


 ベットの上だ。俺の、イルスの部屋だ。


「はあっ、はあっ、い、今のは······」


 前に見た事がある。

 ハッキリは思い出せないが······。


 夢······にしては妙に生々しいこの感覚。


 あの不気味な空気、荒涼とした世界、この世の物とは思えない地獄のような光景。


 紫色の大地や岩、骨のように炭化した木々が寂しげにポツポツと立ち、山のように(そび)えた肉塊のような物体。


 思い出すだけで気分が悪くなる。

 心臓が激しく脈打っている。



「ふぅ~······はぁ~······」



 ゆっくり深呼吸して気分を落ち着かせる。心臓の音が段々と静かに戻っていった。



「あれは············記憶?」



 誰の?










 洗面台で冷たい水を面に叩きつけたら、意識が覚醒した。


「ふうっ!」


 目が覚めた。やっぱ朝の顔洗いって大事だわ。



「あ~。やっと気分がスッキリした」



 なんか立て続けに悪夢を見てる気がするわ。

 しかもよく思い出せん。起きたばっかりの時はなんとなく覚えているんだが······。



 とにかく、朝飯だな。




 食堂に行くと、キエラの足にダスト達が纏わり付いてヒョーヒョー叫んでいた。


「ちょっと、あんたら! 足にくっつかないでよ」

「アネゴ、ビジン、ビジン!」

「アネゴ、ステキ!」

「アネゴ、カワイイ! カワイイ!」

「な、なによ急に」


「よー、みんな。おはようさん」

「あ、イルス」

『ヒョヒョー!!』


 キエラに纏わり付いていたダスト達が俺に雪崩れてくる。


「オヤブン、イウトオリシタ!」

「オレラ、アシドメ!」

「メシ、ソシっ!」

「しーっ! 大声で言うな!」


「なんの話してんの?」

「あ、ああ、なんでも。それよりキエラ、朝飯一緒に作ろうぜ」

「うん、今日は食材たくさんあるもんね。腕によりをかけるわ」



 昨日の内にダスト達に足止めを命令しといて良かった。キエラに一人で作らせる訳にはいかんからな。




 町から大量の食糧を貰ってきただけあって、朝飯は豪華に出来た。


 オムライスにウィンナーとベーコン、それにじゃが芋スープとサラダのセット。


 おまけにモーニングコーヒー付きだ。



「うまかった。満腹だー」

「ほんと。久しぶりに食べきれないくらい食べられたわ~」


「ンブバ! ブバ!」

「ポポーポッポ!」

「ドョドョドド!」


 床ではダスト達がウィンナー戦争を繰り広げている。


「おーい、ケンカすんな。ウィンナーならまだたくさんある。ほれ、ハムもやるよ」


『ヒョヒョヒョー!!』


 今度はハム戦争が勃発した。






 食後は、ボコボコ暴れまわるダスト達を眺めながらキエラとゆっくり休んだ。



「イルス、怪我はもう大丈夫?」

「ああ、昨日お前が手当てしてくれたからな。もうすっかり良くなった」

「良かった。昨日は大変だったし、今日はゆっくり休もっか」

「そうだな」



 確かに二日立て続けに四天王と呼ばれた強敵と命懸けで戦ったんだ。ここいらで少し休息を取った方がいいな。



 そう。命懸けで······。






 午後になり、三時のおやつタイムには軽いクッキーを焼いて食べる事にした。



「モグモグ······うめえ」

「うーん。美味しいけど、ここにキャンディとパプリカ入れた方が可愛くなったような」

「ほ、ほら。着飾らない君も好きって言うか、スッピンの君も可愛いってやつだ」

「そう? まあ、確かに美味しいわね」


 俺らの周りにダスト達が群がり、ボコンボコン跳ね回る。


「ビョービョー!」

「ジンジジジンッ!!」

「ンブァババァ!!」


「わかった、わかった。お前らにもやる。ほーれ、食え~」


 公園の鳩に豆を蒔くようにクッキーを割って投げていく。


「ンブァバー!!」

「ポポプアー!!」

「ドョドョドド!!」


 ──ヒューンヒューンッ、ドッ、ボゴッ──


 ダスト達が飛び交い、辺りはあっという間に汚くなっていった。


「あーあー、もう、こんなにして~」


 キエラも、呆れながらクッキーをばら蒔く。





 夕飯も似たような感じになり、ダスト達が大騒ぎをして、その後片付けをみんなでやった。



「おい、お前ら! 何度言えば分かるんだ! チリトリで取ったゴミはそっちの花瓶じゃなくて、こっちのゴミ箱に入れんだよ!」

「ンバァッ!」

「ビョビョビョ~!」

「あっ、おい、よせ! バケツの上で踊るな!」

「あんたらー!これは雑巾じゃなくてあたしの服! 誰よこんなにしたのはー!」

『ヒョーヒョーヒョー!!』





 なんとも騒がしい1日が終わった。



 夜。


 キエラと交代で風呂入って、皿洗って、やるべき事も終わり、俺らも寝る時間になった。


 ダスト達も思い思いの場所でグゥグウ寝ているのを見ながら俺とキエラはそれぞれの部屋に向かった。



「じゃあイルス、お休み」

「ああ、お休み」


 今日は平和に終わったな。



「ねえ、イルス」

「ん?」



 別れて部屋に向かいかけた俺をキエラが呼び止めた。


 振り向くと、キエラは何か言いたそうにこっちをじっと見つめていた。


「どうした?」

「······ううん。なんでもない。お休み」

「? ああ、お休み」


 キエラがちょっと微笑んでから去る。

 ほのかなシャンプーの香りが漂った。



「······俺も寝るか」





 部屋に戻る。ゲームも漫画もないし、何か暇を潰せる物も特にない。



 後は寝るだけだ。



「ふー。今日は平和だったな」



 この世界に来てまだ数日しか経ってないのに、久しぶりに落ち着いた時間が来た気がした。



「これからどうなるんかねえ」



 今は生きるだけで精一杯って感じだ。



「············」



『死ニタクナイッス······』




「っ······」



 今日は穏やかだった。



 でも、またあんな事をしなきゃいけなくなるのだろうか?



 また、誰かを············。



「寝るんだ!」



 布団を頭にかぶって無理やり自分に言い聞かせた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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