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36──ペールの最期

 

 その破壊力は凄まじいの一言に尽きた。


「キエラ! 手をっ、離すな!」

「わ、わかってるっ!」



 UFOにしがみつくだけで精一杯かよ!



 まるで暴風のように吹き荒れる爆風は木々を根元から薙ぎ倒し、岩を石ころのように転がしていった。


 俺らを乗せたUFOも外装がほとんど剥がれ、下部に収納されていた武装も全てバラバラに吹き飛ばされてしまった。



「くっ! 流れに任せて飛ぶ! 曲芸飛行みたいになるからしっかり掴まれ!」


 風の流れに任せながら、なんとか機体の体勢を維持させる。


 かなりの距離を揉みくちゃにされたところで、やっと風が弱まった。



「はあっ、はあっ、はあっ、し、死ぬかと······」


 さっきの全力バーストの時点でもう俺の体力は限界だ。そんな中での姿勢制御はしんどかった。


「キ、キエラ。俺の代わりに操縦してくれ。もう、立ってるだけでもしんどい」

「う、うん! イルスは休んでて」


 思わず床に座る。


「えっと、こうやれば良いのよね?」


 スッと目の前にキエラの生足が陣取る。


「えっと、ここをこうして。ねえ、イルス。このレバーは何に使うんだっけ? イルス?」

「あ、ああ。それであってる」


 目のやり場に困る。






 途中、隠しておいた食糧の回収も行い、とりあえずは一息つけた。



 キエラも操縦のコツを掴んできたようで、回収や移動も実にスムーズに進んだ。


 俺の体力はすっからかんだから今日はこのままキエラに任せるしかないな。



 それにしても······。



「ペールはどうなったんだ?」


 あれで決着はついたと思うが、逆にあんな大爆発ではペールがどうなったか······。




 爆心地に着くと、もはや荒野と化していた。


「これは······とんでもない威力だな······」

「うん。これをもし撃たれてたら······」


 俺達は二人で身震いした。







 先ほどの爆発。あれは計算内の出来事。というよりは作戦だったのだ。


 その作戦というのが、ズバリ『暴発作戦』。


 俺の作ったキャノンをペールがコピーするのを見越して、コピーされる寸前にキエラの力で内部の構造を変形。


 発射口へ伝達される魔力を全て内部で循環させる構造にしたのだ。もちろん、外見からはその変化に気づく事は出来ない。


 結果。行き場を失くしたペールの膨大な魔力はキャノンの中で充満し、その負荷に耐えきれなくなったキャノンが爆発したのだ。


 この作戦のためには、ペールがコピーしたくなるほどの威力を俺が実演して魔力を使いきるというリスクと、キエラの変形前にコピーされたら終わりだったというリスクがあった。

 まさにギャンブルだった。





 作戦は成功した。



 だが············。



「ペールっ! ペール!」



 想像以上の威力だ。暴発しただけなのに、俺が撃った時よりも高火力だったようだ。



 こんな爆発じゃペールは······。



「! イルス! あそこっ!」

「!!」


 キエラの指差す方。



 そこには、大地に投げ出された黒い大蛇──ペールが横たわっていた。


「ペール! キエラっ、近づけてくれ!」

「う、うん!」


 すぐにUFOをそこへ飛ばす。


「うっ!?」


 そこにあったのは──残酷な現実だった。



 ペールの身体は既に崩壊を始めていた。

 ボロボロと肉体が土くれのように地面にこぼれだし、影が霧散していく。

 ペールの身体がどんどん消えていく。



 シュユの時と同じだ。


「ペールっ!!」

「あっ! イルス!」


 近づいたUFOから飛び降りる。


 ペールの頭がある辺りに回りこむ。


「!!」


「ガ······ウガ······ア············」


 そこには、顔面の半分近くを失って、どす黒い血を口から吐き出し続けている、ペールの変わり果てた姿があった。目玉が幾つも消失し、損壊していた。



「ウガァ······アァ······カ、カラダ、ガ······」


 ちり紙が燃えて灰になっていくように、ペールの身体がどんどん朽ちていく。


「ソ、ソンナ······ウ、ウチガ······ウチノ体ガ······」

「ペール! おいっ、ペール!」


 駄目だ。


 身体の崩壊が止まらない。


「ヤ······ヤダッス············コンナノ嫌ッス······」

「ペール、お前······」


 潰れかけた目玉や、ぐちゃぐちゃになった目玉から血の涙が溢れる。


「コンナノガウチノ終ワリッスカ? コンナ、何モ思ウヨウニナラナカッタ人生ガ······マダ、マダ······ウチダッテヤリタイ事アッタノニ······」

「っ······」


 胸の奥を縛り上げられたような痛みが走った。


「ヤダァ······ヤダッス······死ニタクナイッス······」



 それが最後の言葉だった。


 その泣き声はほんの一瞬で灰になって消えた。

 俺が何かする暇もなく。


 また、誰かが目の前で死んだ。


 俺の手によって、また············。











『ウチなんか、こうやって静かな所で一人居るのがお似合いな陰キャなんス。今は······君が居るっスけどね。えへへ······』

『一緒に出かけるって? で、でも、ウチはお洒落とかよく分かんないし、大手を振って歩くのは······そのままでも可愛い? な、何言ってんスか!』

『ウチみたいな陰キャと居てつまんなくないっスか? い、いや、ウチは嫌じゃないっス!

······あ、あのっ、ウチも君と居ると落ち着くっていうか······。だから······もう少し一緒に居てもいいスか?』

『あ、あのっ。その、嫌じゃなかったらなんスけど、ウチとっ············ウチと、友達になって下さいっス!! そ、それとも······もっと特別な仲でも······ウチはいいっス······』








「イルス!! 町から守備隊が来てる! 早く逃げないとっ!!」


 UFOがすぐ横に降り立ち、キエラの手が俺の腕を掴んだ。


「イルスっ······!」

「分かってる。行こう」




 操縦はキエラに任せて俺らはそこから逃げた。



 帰り道。会話はほとんどなかった。



 ただ、ずっと励まし続けてくれるキエラの優しさに、更に胸が締め付けられるようだった。



「イルス······あんたのせいじゃないよ。多分、ペールのせいでも······だから、思い詰め過ぎないで」





 もう夕暮れが真っ赤に染まっていた。




 アジトに着いてからの事はよく覚えてない。


 気がついたらベッドに倒れこんでいた。



「······ペール」



 世界が重い闇に閉ざされていく············。



お疲れ様です。次話に続きます。

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