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34──烈火を掻い潜り

本日4本投稿予定です。

 

 それは大蛇と呼ぶにはあまりにも奇怪で禍々しかった。巨大な黒い影。ドロドロと腐ったヘドロのような皮膚をただれさせ、瘴気を辺りに振り撒く。

 その頭部にはアンノーンの目玉が無数にギョロギョロと付いていた。



「くっ! こいつはっ······」


「オヤァ? サッキノ奇襲トイイ、今ノ動キトイイ。今日ハヤルッスネエ、イルス?」



 その醜悪な大蛇アンノーンは、やはりペールのようであった。不気味にささくれた声が辺りに忍び笑いを這わせる。


「クククク、サッキノハ効イタッスヨオ。チョーット洒落二ナンナイッスネエ」

「こ、これがペール?! こんなの、アンノーンじゃないっ······シュユの時と同じ······」

「ン? アア、キエラッスカ。居タンスネ」


 黒い巨体が地響きを這わせて動く。

 良く見れば蛇とも違う。

 蛇のような胴体に、ムカデのような鋭利な脚が何本も生えている。そして、全身から滲み出る不気味な殺気。

 それに、やはり頭部は異形の者としての恐ろしさを兼ねたアンノーンの物。



「くそっ! ペール、お前もその姿になるのか!」

「ンー? “モ”?アア、モシカシテ······」


 ペールだったその化物が口を大きく開けて笑う。


「アハハハッ! シュユッテバ、モシカシテイルス二殺サレタンスカ? アハハハッ!ザコッスネ~! マア、アンナ胸ガデカイダケノ女狐ジャ、崩壊の力(アンニアル)ヲ使イコナセナイノモ仕方ナイッスカネ~」


 こんな姿になっても、恐らく仲間であるはずのシュユの事を死体蹴りするような侮辱。


 俺の思い出がどんどん遠ざかる。



「ククク、ソレニシテモ。リゲルトイイ、シュユトイイ、イルスハ殺スノガ好キナンスネエ。シュユヲ殺シタ時モ楽シカッタスカ?」

「っ······違う! 俺はあいつを殺したくて殺した訳じゃ······!」


 違う。

 俺は、俺は······自分が好きだったゲームの登場人物を殺したい訳ないだろ。

 仕方なかったんだ。あの時はああするしか生き残れる方法が無かったんだ。


 だが、俺がシュユを殺したのは事実だ。

 イルスじゃなくて、紛れもなく俺が······。


「イイジャナイッスカ。人殺シガ好キナンテ、アウトローラシクテ。ゼヒ、感想ヲ聞カセテ欲シイッスネエ」

「あんたっ! 止めなさいよ! イルスはっ、イルスはそんな人じゃないわよ!」

「!······」


 俺が何も言い返せないでいると、キエラが吠えた。


「みんな何も知らないで勝手な事ばかり言わないでよ! イルスが、イルスがどんなに苦しんでいたのか誰も見てないのにっ!」

「キエラ······」


「フーン。ウルサイッスネ。キエラ、ウチハ君ノヨウナ陽キャガ嫌イッス」


 周囲の空気がキリキリと引きつっていく。


「っ! 来るぞ!」


 落ち込んでる暇はない。

 ペールの攻撃が来る!



「イクッスヨ。『シャドウハック(それなりの再現)』!」


 ペールの詠唱と共に、その身体を纏う影が形を変える。

 それは、巨大な竜巻のように高く立ち上がって、唸り声を上げてこっちに向かってきた。


「メルの技か!」

「チョーット違ウッスネエ。コレハ()()()()ッス」

「何?! あっ!」


 そうか。これはおかしいぞ。


 ペールの能力は一度取り込んだ影の能力や性質を奪う力。

 だが、その能力は日が沈むか、さっきの俺みたいな戦法によってかき消せばリセットされる。


 つまり、今のペールにはメルの技が使えるはずがないのだ。


「なんでっ······」

「ククク、崩壊ノ力ハ使用者ノ魔力ヲ増幅サセルダケジャナインスヨ。ソノ能力ヲモ強化スルンス」

「何だと?! つまり、今のお前は······」

「ソウッス。一度取リコンダ能力ハ使イタイ放題ッテ事ッス」

「そんなの反則じゃねえかっ······!」


 ただでさえ厄介なコピー能力。弱点があったからこそ何とかなったんだ。


 その弱点が無くなったなんて本当にチート過ぎる。つまり、コピーすればする程に雪だるま式に強くなっていくと言う事だ。


 このまま放置すれば一番厄介な相手になるだろう。



「アハハハッ!! ウチハ最強ッス! ウチ二勝テル奴ナンカ居ナイッス!」

「くっ!」

「食ラウッス!」


 ペールの周りに次々と影が浮き立つ。

 それらはまた形を変えて飛んできた。


 一つの塊がすれすれに飛んでいった瞬間、頬が熱くなった。


「あちっ!」

「熱っ!」


 今度は長細い影のナイフが飛んできた。

 それをウルトラハンドで叩き落とすと、細かい欠片になって飛び散った。


「今度は冷たいっ!」

「ちっ! あの三人の力は既にペールの物か!」

「ソウイウ事ッス。死ネッス」


 ──ズドドドトドッ!!──



 再び巻き起こる三ヒロイン能力のフルバースト。しかも、今度はその範囲が更に拡大している。


「駄目だっ! 避けきれっ······」


 ──ズダダッ、ドンッ──


「ぐあっ?!」

「きゃあああっ?!」


 何本かの影氷が刺さり、一発の影焔が機体を大きく揺らした。


「ぐぅっ?!」


 引き裂かれるような腕の痛みに思わず操縦桿から手を離しかけるのを、何とか堪えて機体を急加速させる。


「イ、イルス! 腕っ! 凄い火傷!」

「なにっ?!」


 見てみると、右腕が真っ赤になっていた。皮膚が醜く爛れている。

 激しい痛みに腕が痙攣した。


「ぐっ、くそ!」


「アッハハハハハハ!! 一方的ッスネエ! コンナワンサイドゲームジャ面白クナイッスヨ!」


 攻撃は更に加速していき、辺りは影の弾幕に埋め尽くされた。


 森が破壊しつくされ、飛び立った鳥やマスコットがペールの放つ攻撃の餌食になっていく。僅かな時間で何百という命を簡単に奪い去っていく。


「くっ! 止めろっ! ペール! お前のその攻撃はあまりにも無差別過ぎる!」

「何言ッテンスカ? ドウデモイイッショ、ソンナン」


 ──ズドドドトドッ!!──


「止メテ欲シケリャ早ク死ンデ下サイッス。ソウスリャア、止メルッスヨ?」

「ペールっ······!」


 このままじゃ防戦一方だ。何か、何か策は······。


 一旦退いて作戦を練り直すか?

 駄目だ。ここで俺が居なくなったらユートピアタウンはペールによって蹂躙される。


 なら──


 俺もクラフトで強火力兵器を作るか?

 いや。悪くはないが、コピーされたら戦況は悪化するだけだ。リスクが大きい。


 だが、このままじゃどちらにせよ何も好転しない。やるだけやってみるしかない。



「相手は少し火力が増すくらいだが、こっちは火力激増だ! キエラ! 変形は頼む、バズーカだ!」

「了解!」


 ペールの攻撃を躱しながら、材料となる木や岩を集めまくってキエラに形を整えてもらう。


 死の嵐の中、何とか岩バズーカを合計六つ作る事に成功した。


「よし! 反撃だ! 食らえっ! 岩バズーカ六門連続発射!!」


 ──ドドドドドドッッ!!──


 想像していたよりも大迫力なバズーカガトリングがペールの巨体に命中していく。


「クアアアアッ?! クゲッ?! ガッ!? ウグガガガガッ!?」


 ペールの攻撃が弱まる。どうやら岩バズーカの連射が効いたようだ。



「グ、グ、グググゥッ!! ヨ、ヨクモ! コノ、パリピヤンキー共ガアアアアッ!!」


 ビリビリと辺りを震わせる咆哮と共に、ペールの身体から影が聳え立つ。


「殺ス!! 殺シテヤルッス!!」


 殺気と共にほとばしる影の大嵐。


「ぐうぅっ?! キエラ! 伏せろ!」

「きゃっ?!」


 氷なのか炎なのか岩なのか、何かが機体にぶち当たり、大きく軋む。


「くそっ! 効果はあるが決定打にはならないか!」


 案の定、いつの間にか影を獲られたのだろう、俺の作った六門ガトリングバズーカらしき影がペールの頭部にくっついていた。

 相手の火力はさらに上がった。


「長引けば長引くほど不利になる! 短期決戦で勝負をつけたいが······そうだ······!」


 俺の記憶では、イルスにはとっておきのクラフト武器がある。ゲーム終盤に作った高火力兵器だ。


 あれなら或いは······。


 いや、だが······。もし奪われたら状況は最悪になる。



「ホラホラッ! ドウシタンスカッ!? モウ隠シ玉ハ無シッスカ?!」


 ──ズドドドトドッ──


 氷の刃が肩を浅く切り裂いていった。


「イルス! 大丈夫?!」

「大丈夫だっ!」


「アハハハッ! ウチノパワーハ無限ッス! 尽キル事ノ無イ、撃チ放題ノ火砲ッス!」


 確かに、こっちは体力にもUFOを維持させる魔力にも限界はあるが向こうには限界がない。


 無限の火力じゃあ、正面からの火力で勝負になんてなる訳がない。



 ············待てよ?


 いや、或いはペールのあの底なしの崩壊の力を逆手に取れば──




「······!! そうかっ! その手ならっ······キエラ!」

「な、なに?」

「博打は好きか?」

「え?」

「俺らが勝つか、跡形もなく消し飛ばされるか。賭けるぞ!」

「ええっ?!」


お疲れ様です。次話に続きます。

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