32──ミラー対決
ペールの全身から立ち上る黒い影。
「死に際にどんな泣き面するか楽しみっスよ」
「悪趣味だな」
機体をバックさせてペールとの間合いを空ける。
場にピリピリとした緊張が張りつめていく。
「そんじゃ、いくっスよー」
ペールの周囲で揺らいでいた影が集約していく。
「それじゃあ、貰うっスよ。『シャドウヴィジョン』っ」
「ちっ!」
ペールの影が生き物のようにうねって伸びる。その影は長い腕の様であり、噛みつく蛇の様でもある。それが、地面に写る俺の影に食らいついた。
「分かっちゃいるんだがっ!!」
この技ばかりは躱しようがない。
「へへっ、イルス~、君の能力借りるっスよ~」
地面にある俺の影が引きちぎられる。
そして、千切られた影はスルスルとペールの元へ持ってかれると、彼女の影に同化した。
「んじゃ、早速!っと、いきなりUFO作っても微妙かもしんないスからね『クローンヴィジョン』」
そんな煽るような気取った声と共に、ペールの影が形を変える。
そして、その影は黒い影のまま、俺のスクラップUFOと同じ形になった。
「ふふふふ。いっぺん乗ってみたかったんスよね、これ!」
そう言いながらシャドウUFOに乗り込むペール。
「これをこうやれば良いんスかね?」
フワっと浮き上がる俺のUFOのコピー。
「アハハハ! 出来た出来た!」
俺と同じ土俵に立つペールと、影となったスクラップUFO。
俺らは空中で睨み会う形となった。
ペールの能力。それは『影真似』。
いわゆる能力などのコピースキルに近いが、やや異なる。
まず、ペールは自身の影を自由に操る力がある。
そしてその影で、自分以外の影を食い千切る事が出来る。相手が人であろうと物であろうと、影なら何でも対象にする事が出来る。
食い千切られた影はペールに取り込まれる事になるが、影を千切られた方には影響はない。欠けた影はすぐに元通りになる。
つまり、その行為自体は攻撃能力を持ち合わせないため、例え影を奪われても俺が負ける事にはならない。
だが、問題なのはその本当の目的。
ペールが影を取り込むと、一時的に取り込んだ影の元となる物体の性質を得る事が出来るのだ。
つまり、相手の影を奪うと、一時的とは言え相手と同じ力を獲得出来るのだ。
それだけじゃない。
取り込んだ影の元となる物体を構築し、再現する事も可能なのだ。
今、俺の前に浮遊しているシャドウUFOは、俺の能力をコピーして作った物ではなく、俺が今乗っているUFOを再現した物なのだ。能力で作る事も出来るだろうが手っ取り早く奪ったのだろう。
「ふふふ、いくっスよ~! ウルトラハーンドっ!」
黒いウルトラハンドが飛んでくる。
「させるか!」
こちらもウルトラハンドを繰り出して、迫りくる拳を叩き落とす。
「おおっ、やるっスねえ!」
「当たり前だ、元は俺の作ったUFOだぞ」
「ならなら、これでどうっスか?」
グインっと一気に間合いをとるペール。
「岩バズーカ、発射ー!」
──ズドンッ、ズドンッ、ズドドドッ!──
影の塊が飛んでくる。俺のバズーカのコピーだ。
「当たるかよ!」
僅かとは言え、UFO戦のキャリアは俺の方が上だ。そう簡単にはやられん。
それに──
「ハエみたいに叩き落としてやるっス! そーれっ! 追撃砲~!」
──バスッ、バスッ──
「あり?」
ペールの岩バズーカが空撃ちする。
「あれ? ジャムったスか? やっぱイルスの作るUFOなんか当てにならないんスかね」
「ちげえよ、お前の能力でコピーした弾が弾切れになっただけだ」
「ちぇっ、そう言う事スか」
「食らえ!!」
今度はオリジナルの番だ。
──ズドドドッ!──
今度はこちらからバズーカを連射する。
「おっとっと?!」
それをペールが避ける。下手くそな飛行だが、十分に躱していた。
「アハッ! 馬鹿っスかイルス! ウチが弾切れになったのから学習しなかったんスか?」
「俺は弾切れにならねえよ」
「え?」
「追加だ!」
──ズドドドドッ!──
「?! なんですとっ?」
ペールが慌てて逃げる。
俺の能力は近くの材料を引き寄せるだけも出来る。そう、弾の補充は抜かりない。
そうやって引き寄せる岩を見ていたペールが合点のいったように声を上げる。
「ああ、そう言う事っスか! イルスの能力はそんな応用も出来るんスね!」
それなら──と、同じようにして近くの岩を集めていくペール。
「くくくっ、これでウチも弾には困らないっス!」
「当たんなきゃ意味ねえぞ!」
「そうっスか? なら~、これならどうっスか?」
ペールが機体を上昇させる。
「『シャドウハック』!」
「くっ?!」
真っ黒な炎の弾丸が飛んでくる。
それを躱す。
今のはカーリーの技だ。
「くくく、ウチは同時に複数の能力を使えるんスよ~? これって君より完全な上位互換っスよね」
「使いこなせてるかどうかだな!」
「あっそう。なら──」
──ズカガガガガッ!!──
岩バズーカ、氷のナイフ、炎の弾丸、そしてそれらを加速させる突風。
メインヒロイン三人衆の技とシャドウUFOの攻撃のフルバースト。
その弾幕はもはや大嵐のごとく。
「ぐわっ!!」
とんでもない広範囲攻撃によって何発かは機体に被弾した。頬を氷の刃が掠めていった。
「アハハハッ! これでも使いこなせてないっスかね!?」
勝ち誇ったようにバカスカとフルバーストを撃ってくるペール。
「ちっ······だがっ、そんだけ撃てば······」
「魔力切れになる。と、思ってんスか?」
「なにっ?!」
「アハハハッ! イルスにしては良い着眼点じゃないスか。でも、ご安心を。『崩壊の力』は尽きる事がないっス。ウチがどれだけ大技を放とうとも魔力が切れる事は──ない」
──ズカガガガガッ!!!──
全く止む気配のないペールの攻撃。
どうやら正攻法その1は出来そうにない。
ゲーム時でも、調子に乗ったペールが大技を連発してガス欠になる攻略法があったんだが、それは望めないらしい。
ペールのコピー能力の期限は太陽が沈むまで。つまり、逃げ続けて夜になれば取り込んだ能力は解除されるし、夜は影の境目が曖昧だとかでコピー能力がまともに機能しない。
しかし、夜を待つ訳にもいかない。
だが、まだ攻略不可能になった訳じゃない。
もう一つ。正攻法がある。
「だがっ! ここには材料が無いっ!」
あのアイテムを作れれば形成は逆転出来るはずだが、材料がない。
いや、待てよ。
たしかあの材料は日常生活にも利用されている設定だったはず。
ならば──
「くっ! 町には行きたくなかったが······」
このままじゃジリ貧だ。行くしかない。
UFOを宙返りさせ、町へと飛ばす。
「おっ?! 逃げるんスか? イルス!」
「ああ、そうさせて貰うぜ。陰キャの地味子眼鏡ちゃん」
「!!! その名前で呼ぶなあああぁっ!!」
ペールイベントであったNGワードで煽ってみると、効果は絶大だった。
ペールが猛追してくる。
「殺すっス! 頭カチ割って脳ミソ踏んでやるっ!」
「やってみろ~! ギャハハー!」
ここはさらに煽るためイルスらしくしておく。
町上空からクラフトサーチしてみる。一定範囲以内に俺の求める材料があれば認知出来るのだ。
「お! あった! 沢山ある! よし!」
その材料を集める。そして、花火倉庫がある場所も通過する。
何周もやり込んだ俺には、例え初めて来る町でも大体の施設の位置は分かるからな。
「よしっ! こいつをクラフトして······」
「イルスうぅ!!」
怒りに狂ったペールはすぐそこまで来ていた。
「死ねええええ!!」
──ズカガガガガッ!!──
「くっ!!」
避ける。
だが、避けた攻撃が町に降り注ぐ。
「っ! 来いっ! ペール!」
町の上空で戦う訳にはいかない。
俺は元の南門近くの外周へと出た。ペールも追いかけてくる。
「よし、ここなら良いだろう」
「イルスぅ! 殺っス!」
UFOを停めると、ペールが追い付いてきた。
「くくく、逃げ場は無いっスよ~? 例え地の果てまでも追ってあげるっス」
「ヤンデレストーカー女かよ。ま、いいさ」
後はタイミングだな。
「かかってきな。陰キャ隅っ子眼鏡ちゃん」
「がああっ?! このクソパリピがあああっ!!」
最後の挑発にペールが突っ込んでくる。
今だ。
「食らいな!」
──ボスッ──
「っ?!」
俺のUFOバズーカから発射された閃光弾が、ペールの下──彼女の影の上に翔ぶ。
お疲れ様です。次話に続きます。




