30──第二の四天王ペール
離れていても肌をひりつかせる戦慄。腹の底にまで轟く地響き。双眼鏡が無くてもありありと見える惨状。
爆風が、南門諸ともそこに居た守備隊を吹き飛ばしていた。
「なっ············!」
一体何が起こった?
あまりに突然の出来事に、思考が咄嗟には回らない。
『──イルス!!』
そんな俺をキエラの声が呼んだ。
ハッと我に返る。胸ポケットに入れておいたクリスタルからの通信だった。
「キエラ?! 無事か?!」
『あたしは大丈夫! で、でも、今のは?!』
「分からない。だがっ······」
『うん、シュユの時に感じたあの······』
やはりキエラにも感じ取れたのか。
「キエラ、そっちで何が起こったんだ?」
『わ、分からない。ただ、いきなり黒い炎の竜巻が現れて、それが門を······』
「黒い炎の竜巻?」
まるでカーリーの技じゃないか。色違いの。
「ん?」
待てよ。色違い······黒い色の······カーリーと同じ技の······。
!!
「そうか! これはっ······」
『あっ! も、もしかしてっ──あっ!?』
「キエラ?」
どうした?
と言いかけたところで──
──ヒョオオオオオッ──
眼下に黒い嵐が巻き起こった。
「これはっ、レンとメルの合体技!!」
いや、正しくはそのコピー、影だ。
もう確定だ。
ここにあいつが来ている。
それも、シュユの時と同じく最悪の形での登場で。
だとすれば──
「くっ!」
傍観してる訳にはいかない!
操縦桿を目一杯倒して急降下する。
すぐに威圧的な気配と、激しい戦闘音が近づいてきた。
「キエラ! お前は安全な所へ下がっていろ!
それと、可能なら負傷者を運んでくれ!」
『イルスは?!』
「黙って見てられなくなった!」
『え?!』
肉眼でハッキリと見えてきた。
「!! くっ、やはり······!」
そこには案の定、最悪の光景が展開されていた。
「きゃあああああっ?!」
「メルっ!? うっ! わああああああああっ?!」
カーリーとメルが影の爆風に吹き飛ばされる。
「メル! カーリー!」
二人はそのまま瓦礫と化した門跡に突っ込んだ。砂煙が上がり、瓦礫が雪崩れる。
「!! 二人とも!」
レンはっ、レンはどこに?!
「おやぁ? これは意外なお人の登場っスねえ」
「!!」
叩きつけられたカーリーとメルの元へ行こうとした俺の背に、挑発するような声が浴びせられた。
振り向くと、そこには──
「?! レン!!」
「おや? 人違いっスよ。ウチの名前、忘れた訳じゃないっスよねえ?」
そこには、首を絞められて苦しげにもがくレンと、その真横でニタニタと笑う少女が居た。
「久しぶりっスねえ、イルス。全然見ないから死んだと思ってたっスよ」
「ペールっ······!!」
その笑みはやはり、俺がゲームをしていた時に見ていた彼女の物とは違った。
ペール。通称〈ドッペルゲンガー〉のペール。パラファン四天王と呼ばれるボスユニットの1人。つまり、シュユと同格のキャラ。
イルスとの関係は敵でも味方でもない中立といったところだろう。
黒のボブカットに、数少ない眼鏡常時装備者。服装はややミリタリー色のあるジャケットとショートパンツに、たまにベレー帽。
身長は低くはないが、少し痩せ気味でスレンダー。部屋に籠ってるから色白。
その性格はなんとも形容し難く、陰キャと言えば陰キャなんだが、なんか変わった言動が多い。
ビクビクしてるかと思いきや、パリピや陽キャを前にすると途端に闘志が湧いてきて、思い込みの激しい偏見を叫んだり。
はたまた、いきなりパリピデビューしたかのようにキエラみたいなギャルコスで登場するものの、露出度の高さに耐えられなくなって逃げたり。
まあ、変な奴なんだ。
だけど、悪い奴ではない。
「いや~、奇遇っスね。ちょうど探してたところだったんスよ」
「なんだと? いや、それより! その手を離せ!」
「ん~?」
ペールはニヤッと口の端を吊り上げて笑った。
シュユの時と同じだ。
こいつも、俺の知るペールとはまるで別人だ。あいつはこんな邪悪な笑みはしない。
「手? ああ、この手っスか?」
──ギリリリ······──
レンの細いガラスのような首にペールの指が食い込む。
「かっ······ハッ······」
レンの身体がビクンっと跳ねる。
「?! 止めろっ!!」
ウルトラハンドを出してペールへと突進する。
「おや~? どうしたんスか?」
フワっと飛び上がって避けるペール。
「この子が心配なんスか? 敵のこの子が」
「手を離せ! ペール! そのままじゃレンが死んじまうぞ!!」
「別に良くないスか?」
「?! お前もやっぱり······」
やっぱりそうだ。
こいつも何かがおかしい。何かが狂ってる。
ペールは変人だが、悪人じゃない。
いや、むしろ四天王の中では大人しい方だ。
ゲーム内でのペールは、『陽キャやパリピが支配する社会を覆し、陰キャも平等に扱われる社会にする』というスローガンの下、ビーチへの襲撃や居酒屋の占拠、そして陽キャの筆頭(ペール本人が勝手に認定しているだけ)の主人公リゲルを倒す為に敵対するのだ。
だが、基本的にはリゲル以外にはほぼ攻撃を加えようとはせず、リゲルに対しても陰キャへの改宗(?)を促すところから始まるのだ。
断じて。
誰かの命を粗末にしたりする奴じゃない。
「なんスか、その目」
ペールが目を細める。その瞳に赤い光が妖しく揺らいでいた。
「文句あるんスかイルス」
「その手を離せ!!」
「うっさいスねえ。なら──ほい」
軽々と。
ペールがレンを放り投げた。
いや、投げたなんて生易しいものじゃない。
動作は自然に放った感じなのに、レンの身体は弾丸のように飛び、カーリーやメルが吹き飛ばされた瓦礫の山に叩きつけられた。
「レンっ!!」
ガラガラと再び雪崩れる瓦礫。砂煙がまた舞い上がり、レンの姿は見えなくなった。
「アハハハハハ!!」
俺の耳には狂ったように刻まれるペールの笑い声が響いていた。
お疲れ様です。次話に続きます。




