29──防衛戦
レンズ越しに見る三人の勇姿。
それは、流石としか言えないものだった。
炎の塊が辺りを駆け巡り、敵の群れを蹂躙する。
氷の槍が先方を貫く。
一迅の風が、大群の進行を押し返す。
その次には火炎旋風が立ち上がり、それが止むと、今度は局地的なブリザードが吹き荒れた。
あれほどまでに迫ってきていたアンノーンの軍勢がどんどん押し返されていく。
「すげえ······」
やはりあの三人の戦闘力は段違いだ。アンノーンくらいなら恐れるに足らないだろう。
「あいつらやっぱ強えな」
「そうね。毎回勝てない訳ね」
「そうだな」
イルスはもちろんだが、キエラもたまに悪さしてたからな。その度にあいつらにやられていた。
まあ、なんにせよ。
「この分なら問題なさそうだな」
「うん。でも、まだまだアンノーンは居るし、油断は出来ないんじゃない?」
「だな············よし、キエラ」
俺は双眼鏡から顔を離した。
キエラもこっちを見る。
「どうしたの?」
「相手がどんな奴かも分かった。だからと言って俺らが先頭切って戦う訳にはいかんが、万が一と言う事もある。行くぞ」
「??? ま、待って。どういう意味?」
「あー、つまり。今はカーリー達のお陰で問題なさそうだが、万が一防衛線を突破されたら事だ。そういう不測の事態に備えて俺らもスタンバっておくぞ」
「オッケー」
双眼鏡はこの後も使えそうなので、台座から外して拝借していこう。
俺達はタワーから降りた。
「そうだ。食糧を貰ったんだった。それも持ってかなきゃな」
ベンチに置いておいた食糧はちゃんと手付かずのまま残っていた。
荷物も回収し終え、俺達は広場を横切って近くの空き地に向かった。
町は驚く程にシンっとしていた。
「みんなシェルターや避難所に籠ってるんだろうか」
「そうだと思う。難民キャンプとかの近くに合計十ヵ所のシェルターがあるそうよ」
どうやら防衛は本格的に備えていたらしい。
空き地に到着。誰も居ない。
「よし、誰も居ないな。簡易的に乗り物を作る。少し待ってくれ」
「うん」
UFOにすると、目撃された場合に騒ぎが起こるかもしれないから、紙飛行機のようなガラクタ飛行機を作った。
「よし、出来上がり」
「へえー。変わった形ね」
ちゃんと2人乗りの形にしといたぜ。
いや、1人乗り用にしておけば密着出来たか? クソ! 俺の無能!
ま、まあ、そんな事よりだ。
「よし、乗ってくれ」
後部座席に食糧を抱えたキエラが座り、俺も操縦席に乗り込む。即席で作った物だから武装は無い。
「よし、飛ぶぞ。なるべく周りから見られないように行くからな」
「うん」
低空に飛行し、東門近くまで飛ぶ。
門の櫓が見えてきた所で上昇し、距離を離す。
──カンカンカンッ──
流石に警鐘が鳴らされるが、この高さなら矢を撃っても届かないだろう。
「東にはアンノーンは来てないな」
「そうみたい。南に集中して攻めてるのかな?」
「奴らの知能がどれくらいか謎だが、陽動なんて事もあり得るからな。各門の守りは動かせないだろうな。さ、高度を落とすぞ」
森に入って着地し、UFOの置いてあった場所に向かう。
「えっと、この辺に······あった!」
キエラが目印のリボンを見つけ出す。
その下の茂みを掻き分けると、UFOがちゃんと出てくる。
「よし、誰にも触られてないな。キエラ、頼む」
「オッケー。それじゃあ能力解除するね」
キエラが俺の顔に手をかざす。ムズムズと痒くなるような感覚がした。
「はい、終わり。元に戻ったわよ」
そう言って手鏡を掲げて確認させてくれる。
確かに。俺の姿はイルスに戻っていた。
「こんな事もあろうかと、あんたの服も持ってきてあるわ」
「ナイス、流石は出来る女だ」
「もう、変な事言わないで」
恥ずかしそうに後ろを向くキエラ。その間に着替える。
俺は元のイルスに完全に戻った。
「よし。これでオッケーだな」
「ねえ、あたしも着替えた方が良い?」
「え? 生着替え見ていいのか?」
「な訳ないでしょ!」
おっ。一瞬だけ本来の強気な感じに戻った。
「冗談、冗談。それはまたの機会にしとこう」
「そ、そんな機会無いから!」
「悪い、悪い」
可愛くてついからかってしまったが、そんな事より真面目にやらねば。
「キエラは一応そのままでいてくれ。もし、万が一と言う時にはその方が良い」
「分かった」
「よし、ここからは別行動だ。俺は今からUFOで南門の上空に行く。そこから様子を見る。キエラは俺の真下辺りにいてくれ」
「分かった。あ、ならこれ使って」
キエラがポケットから小さなクリスタルを取り出した。
「それは······」
無線クリスタルだ。簡単なやり取りくらいなら出来る魔法の道具。
「持ってって。魔力があんまし補充されてないけど、十分使えるから」
「分かった。もし何かあったらすぐに連絡してくれ。即効で行くから」
「ふふ、頼りにしてるわよ」
良い笑顔を見せてくれた彼女に、軽く打ち合わせをしてから別れる。
俺は機体を上昇させた。
ややして。
俺は南門上空に滞空した。
「さて、と。南門の連中はアンノーンに気を取られてて俺には気づかないだろう。ここで戦況を監視させてもらうか」
さっき展望台でくすねた双眼鏡を持って南門へ向けて覗き込む。
「ふぅーむ」
戦況はさらに動いていた。
あれだけ押し寄せていたアンノーンの大群は、ほとんど撃破されたらしく、黒い波は小さくなっていた。
どうやらカーリー達があらかた駆除したらしい。死体が無い理由は、倒して少しすると黒い土くれみたいになるからのようだ。
「······流石だな」
これなら俺の出番も無いだろう。
そう考えてる内にも、残りのアンノーンはみるみる内に減っていき、ついには最後の一匹が撃破されたようだ。
ここからでも聞こえるくらいの歓声が上がった。
望遠レンズの向こうで、カーリー達が安心した表情で何か伝え合っている。お互いの健闘を讃えあっているのだろう。
「よし······」
どうやら心配なさそうだし、見つかって騒ぎになる前に帰るか──
────────────
──ゾクッ──
「っ?!!」
操縦桿を握ったその時。
全身に言いようのない戦慄が走った。
まるで、冷たい刃物を背筋にいきなり突き付けられたような独特な感覚──
「これはシュユの時と同じっ──」
嫌な予感がした次の瞬間。
──ゴオオオオオオッ──
真っ黒な影が巨大な炎のように逆巻いて、南門を飲み込んだ。
瓦解していく櫓と、落ちていく見張りの人間や妖精の姿が目に焼き付いた。
お疲れ様です。次話に続きます。
明日からは、月曜休みの毎日一本投稿(土日は複数本)になります。よろしくお願いいたします。




