2──消えた住人達
「あれ? 俺の部下の『ダスト』どもは?」
イルスには手下どもが居る。『ダスト』と呼んでるマスコット妖精達だ。
この世界にはマスコット的なキャラや妖精がたくさん存在するのだが、全てが王道なマスコットという訳じゃない。中には悪戯ばかりする迷惑な奴や、素行の悪い奴、周りに合わせられない奴とか居る。
そんな嫌われ者やつまはじき者はイルスに引き寄せられて、子分となるのだ。
ダスト達は忠実で、イルスの命令には何でも従う。イルスはイルスで、粗暴ながらも意外に部下思いなとこがあって奴らを子分として可愛いがっている。
廃墟みたいなアジトで派手にバーベキューしたり、花火打ち上げたりスプレーでラクガキして大暴れしたりと、もはや無法者の集団なんだが、見ている側からしたら楽しそうで憎めない連中だった。
ダスト達はアジトのあちこちで好き勝手に過ごしてるはずなんだが······。
「おーいっ! ダスト達~? おーいっ! 誰かー! 誰も居ないのか~!?」
──シーン······──
「······」
返事は無いし、物音一つしない。
「······ダストどころか“相棒”も居ない············」
あいつも居ない。ここの一番の居候であるあのキャラも······。
俺は、さらに探索を進めた。ゲームプレイ時の記憶を辿りにアジト内を調べる。
そして、“相棒”の居るはずの部屋を発見した。
ゴッテゴッテのキンキラアクセサリーや、派手で目がチカチカするような装飾品で彩られた扉。
「······」
──コンコンコンッ──
ノックしたが返事はない。
「おーい。入るぞ?」
一応声をかける。イルスの相棒で、同じ悪役かませ犬とは言え女の子だもんな。
扉を開ける。
中は真っ暗だった。
「えっと······」
壁にスイッチらしき物があったので押してみる。すると、パッと部屋が明るくなった。電気ではなく、魔法の光玉のようなのが天井にフヨフヨと浮いている。
「······居ない、か」
雑然としながらも、所々に可愛らしい置物や小物が配置してあり、掃除も行き届いてる。
ピンクや赤のカーペットやカーテンなどを見ていると、結構女の子っぽいというか、ステレオタイプの女子さがある。
鏡台の前には、彼女のお気に入りのマニキュアやコスメがちゃんと置かれてる。
「うーん······」
しかし、肝心の本人の姿が見えない。
と言うか、なんだろう? なんか違和感あるんだよな。
雑然としていると言うか、なんだか部屋が少し荒れているような気がする。
気のせい。だろうか?
「どこか出掛けてるのか?」
それにしても、今までの所といい、これでは本当に廃墟だ。
仕方ない。
「とりあえず、外でも行くか」
探索域を広げてみよう。
外は良い天気で、元居た世界と何も変わらない青空が広がっていた。
「おお~っ、なんか空気が美味いような気がするぞ?!」
自然豊かだからなのか空気が澄んでる気がする。世界観はカオスだったが、一応妖精などが住むファンタジーな世界だったし自然豊かなんだろうな。
もっとも、マスコットや妖精が多くを占めていて、文化とか秩序はいい加減なので純粋なファンタジーとも少し異なるが。
だが、自然が豊かなのは間違いない。
「せっかくだし、ちょっと散策するか!」
ここに来て戸惑う事や困惑する事ばかりだったが、せっかくゲームの世界に転生(あるいは転移?)出来たんだからちょっと楽しむか。
「よーしっ。まずは町だ! 町行って、んでもって『パラダイス学園』に行ってみるか!」
パラダイス学園。主人公が通う学校。つまり、このゲームの主な舞台であり、ヒロインとのイベントが盛りだくさんの青春凝縮勝ち組施設だ。あそこで俺は沢山のヒロインと甘酸っぱくて切ない時間を過ごしたのだ。
「まあ、今は悪役だから追い払われるだろうがな!」
行った瞬間、主人公率いるメインキャラにボコされるのがオチだろうが、それはそれとして行ってみたい。他にやることも無いし。
「よし、方針は決まった。が、どうやって行くかだな」
イルスのアジトは町からかなり離れた場所にある。歩けば丸1日はかかるだろう。
だが、そこは奴の能力でカバー出来る。
そう、イルスの能力は『スクラップクラフト』。そこら辺にあるガラクタや自然物をくっつけたり組み合わせたりしてあらゆる物を作りあげる事が出来るのだ。
材木で出来た戦車に始まって、岩で出来た巨馬、廃材を組み合わせて出来たドラゴン、椅子や机をくっつけた戦艦やダンボールで出来たUFO。
世界観ガン無視の超兵器の数々に何度もツッコミを入れながら戦ったもんだ。
しかし、能力自体は他のキャラにない汎用性の高いものだったし、使い方次第では無限の可能性さえある。普通にマジチート。
だが悲しい事に。本人が馬鹿過ぎて使いこなせていなかった。
それはそれとして。俺が知る限りではイルスの能力はライバルに相応しく、規格外なスペックなのは間違いない。
それを今、俺が自分でやってみせるのだ。
「さあ、あのチート能力を俺が使えるなんてワクワクだぜえ。いくぞ!」
···················。
いや、待てよ。
「そういや、どうやって使うんだ?」
お疲れ様です。次話に続きます。