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28──未知なる敵

 

 ──カンカンッ!カンカンッ!カンカンッ!──



 鐘の音は高所の櫓や屋根から響いてきていた。



「これって······」


「逃げろおー!!」

「アンノーンが来るぞー!!」

「早く! 逃げて!!」


 そこらで復興の作業中だったらしき人々が、作業も道具も全て投げ出して走り始めた。

 中央広場へ向かってるらしい。


「そこの貴方!」


 その様子を眺めていた俺に、避難者の一人の妖精が強めに声をかけてきた。


「何をしてるの?! 早く逃げて!」

「なあ、今アンノーンって聞こえたんだが」

「そうよっ! 早く!」


 その妖精に背中を押される。


 俺はそうやって急かされる形で中央広場まで走ったのだった。





 中央広場は住民によって埋め尽くされ、大混雑となっていた。周囲一帯の住民はここに逃げるようになっているのだろう。災害時の一時集合場所のような感じか。



「早く!」

「女子供から先に中へ!」

「妖精とマスコットも先に!」


 まだ小さな子供や、非力そうな妖精やマスコット達が先にユートピアツリーに入っていく。中はかなり広かったから、シェルターとしても機能するのだろう。


「そうだ、キエラは······」


 ぞろぞろと雪崩れる人並みを編みながら、キエラを探す。

 が、いかんせん、すごい流動なので見つけ出すのは無理そうだった。


「くそ。あ、そうだ」



 俺は近くにあったジャングルジムの上に登って両手をバタバタと振った。


 もちろんふざけてる訳でもないし、遊んでる訳でもない。


 この白ランなら目立つと踏んでの行動だ。


 果たせるかな、人並みの進行方向とは異なる進み方をする人影が一つ、こちらへ近づいてきた。


 それは、学生地味子ちゃんこと、変装しているキエラであった。


「よし! おーい、キエっ······っとと」


 うっかり名前を呼びかけた。今ここにイルスファミリーが居るなんてなろうものなら、きっとここの混乱は更なるカオスを産む事になるだろう。


 寄ってきたキエラを引っ張り上げる。


「良かった、無事だったのね」

「おう、お前も無事だったな。えーっと、何て呼べばいい?」

「キーラって偽名使ってるわ」


 安直だ。


「そうか。まあ、分かりやすいしな。キーラ、俺の事はレグルスって呼んでくれ」

「レグルス? うん、分かった」


 頷いてからキエラが尋ねてくる。


「この後どうするの? アンノーンが来てるみたいだけど······」

「この混乱だ。迂闊に動けないが·····少し様子を見よう」


 こんな事態じゃ、どう動くべきかは計りかねる。まずは様子を見てから判断だ。


「そうだ。ユートピアツリーの上に登りたい。あそこは展望台になってるし、アンノーンが見えるかもしれん」

「そうね。でも、この混雑じゃ······」

「少し待とう」



 俺とキエラはしばらくジャングルジムの上で避難者らの頭を見守った。


 誘導が上手いのか、はたまた避難に慣れているのか、住民の移動は思っていたよりもスムーズに進んだ。


「よし」


 人並みが少なくなった広場をキエラと共に走り、ユートピアツリーの外階段へと漕ぎ着ける。


「あっ! 早く中へ入って下さい!」


 途中、声をかけてくれた妖精が居たが


「大丈夫、すぐ戻る」


 と言ってそのまま上を目指した。


 カン、カン、カンと階段が音を立てる。



「ほっ、ほっ、ほっ。くそ、エレベーターは無いんだな」

「何、それ?」



 かなりの段数を登った所で、展望台へと到着した。


 見晴らしの良い、風の気持ち良い場所だ。本当ならもっと穏やかに美しさを堪能出来たのだろうが······。



「ゼエ、ゼエ、ゼエ、た、体力が······」

「イルス、大丈夫?」

「なんとか」


 息を整えながら、設置されている双眼鏡を覗く。


「アンノーンはどこから来てるんだ?」

「さっき妖精に聞いた話だと、南門から来てるみたい」

「南か」


 南に向けてズームする。このタワー以外に高い建物はほとんど無いから、遮る物もなく南門を見る事が出来た。


「あっ!」


 見えた。櫓に居る妖精や男衆が弓を構えて矢を放っている。


 その先には──


「······あれが“アンノーン”か」


 飛び交う矢の攻撃を物ともせずに突っ込んでくる黒い群れ。


 黒光する甲殻と、槍のように発達した脚、そして幾つもの目玉をギョロギョロと動かす不気味な頭部。


「キエラ、あれが?」

「うん」


 隣の双眼鏡を覗いていたキエラが肯定する。


「あれがアンノーン」



 戦況はあまり良いようには見えなかった。


 確かに、大量に降り注ぐ矢によってアンノーンは次々に倒れていってはいる。


 しかし、その数が尋常じゃない。


 門の先をズームしてみると、木々を薙ぎ倒して進む群れが波のように押し寄せているのが見える。


「おいおい、100匹や200匹どころじゃないぞ」

「うん。あいつらは凄い数が居るみたい」


 とてもじゃないが、あんな弓矢だけで捌ける軍勢じゃない。


 そんな俺の予想を反映するかのように、アンノーンの先頭がジリジリと門に迫ってきていた。


「あっ!」


 俺より先にキエラが声を上げた。


 双眼鏡に映る光景には、何体かのアンノーンが櫓を登り始めていた。


「危ない!」


 思わずそう叫んだ。

 一匹のアンノーンが妖精に襲いかかろうとしているのが見えたのだ。


 駄目だ、妖精は腰を抜かして動けない。



 そう思った次の瞬間──


『あっ!!』


 今度は俺とキエラの二人で声を上げた。



 そう、俺らが見たのは、今しがたのアンノーンを吹き飛ばし、櫓に登っている連中も叩き落とした三つの人影。



 メインヒロイン三人衆。カーリー、レン、メル達の登場であった。



お疲れ様です。次話に続きます。

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