26──三ヒロイン網羅
その覇気のある大声には聞き覚えがあり、振り向く前から誰か分かった。
そして振り向いた瞬間には、鬼のような形相の赤鬼──ではなく、真っ赤な髪を逆立てたカーリー・スイピスがすぐ目の前にまで迫っていた。
「あんた! メルを泣かしたわねー!!」
「あっ、これは誤解──」
そう言えばカーリーは直情過ぎて、よく早とちりや早合点してたよなあ。
それによって色んなトラブル起きたよなあ。
──ドフッ──
そんなカーリーとの想い出を思い返しながら、俺は腹パンを食らっていた。
おふっ。すんげえ威力。
だが、これはこれでなかなか······。
「ごめんっ!! 本当にごめんっ!」
ややして。
俺は、両手を合わして深く頭を下げているカーリーの炎みたいな髪を眺めていた。
「あたいってば、また直ぐにカーッとなっちゃって······本当にごめんっ!」
「いや、まあ、うん。もういいよ。ドンマイ」
怒った時は全力だが、謝る時も全力だ。
その表裏無い心からの謝罪は潔くて、不思議と許す気になってくる。カーリーの人柄が成せる技と言えるだろう。
「まあ、誤解されても仕方ないような場面だったしな。友達想いなのは良い事だ」
「そんなんじゃあたいの気が済まないよ! 何か、償いしなきゃ! 何でもするわ!」
「何だと?」
何でもだと? 何でもするだと?
男が女の子に言われたら邪な思考が走る言葉、常時ランク入りのワードを生で聞く事になるとは。
据え膳食わぬは男の恥。
よし、なら遠慮なく──
「ううんっ! カーリーちゃんは悪くないよ!
ごめんね、あたしが紛らわしく泣いてたから······レグルスさん、ごめんなさい! 悪いのはあたし。だから、あたしが何でもします」
「いや、いいよいいよ。気にしないでくれ二人とも」
こんな二人に欲望丸出しの要望なんて出来るかー!
いくら俺が悪役のクズだとは言え、腐っても紳士。イエス女の子、ノータッチ女の子だ。
「あー。なら、また今度パンケーキでも焼いてくれメル。美味かったからさ」
「本当?! うんっ!また沢山作るね!」
「て事だ、カーリー······だっけ?」
「で、でもあたいはっ······」
「なら、カーリーもいつか何か美味い物作ってくれ。俺、しばらくこの町に居るしさ」
俺は知ってる。
カーリーは実は丼物や炒め物などの男の料理がめちゃくちゃ上手いんだ。火力を自在にコントロール出来るのがでかい。
ユートピアタウンの料理コンテストで、チャーハンで一位を取ったイベントもあったくらいだ。
カーリーは不思議そうな表情を浮かべた。
「そんな事でいいの?」
「そんな事がいい」
俺がそう答えると、カーリーは明るい笑顔を見せた。
「なら任せてよ。あたい、こう見えて料理得意なんだ。まあ、なんか油っこいのが多いけど」
「油っぽいのは好きだな」
「おっ、あんたも男の子ねえ。任せとき。今からコンロ借りてくるからさ」
「あ、今は腹一杯でさ。また今度頼むわ」
「そう? ん? そう言えば、あんた誰?」
今さらかい。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はレグルス──」
今日は名乗る事が多いな。偽名を。
もう何度目かになる自己紹介と、ここへ来た経緯などを話す。
まあ、どれも嘘っぱちなんだが。
「そっか。あんたも大変ね。あ、あたいはカーリー。よろしく」
「よろしく」
これにて、三タテヒロイン全員との邂逅を果たす事となった俺。
「あ、そうだ。メル。あんた北地区に行くんでしょ? レンが先に行くって言ってたわよ」
「あっ! そうだった! 早く行かなきゃ! レグルスさん、あたしはここで失礼しますね。また今度!」
「ああ、頑張ってな」
「うん!」
パタパタと走ってから、地を蹴ってフワッと飛び上がるメル。その小さな後ろ姿があっという間に見えなくなる。
「ふう。あの子もちょっと頑張りすぎね。どこかで休ませてやれると良いんだけど」
「そうだな」
「あんたも外から来たんだよね? なら、疲れてるっしょ? 難民キャンプに案内しよっか?」
「ん? ああ。その前に少し良いか?」
「なに?」
「さっきから何度か聞いてるんだが、難民キャンプって何なんだ? あと、避難民とか」
「何って、他の町から逃げてきた住民用の避難先よ。ハッピータウンの住民も逃げてきてるはずだから、知り合いが居るかもよ?」
ふむ。
やはり他の町で何かあったらしい。
とは言え、俺がハッピータウンの事について尋ねるのは変だ。それでは嘘がバレるかもしれん。
ならば──
「なあ、他の町はどうなったんだ? ラッキータウンとピースタウンは?」
「······そっか。あんたも逃げるだけで精一杯だったもんね。知らなくて当然か」
カーリーの表情が曇る。
「本当に、こんな事になるなんて······ハッピータウンの仇は必ずあたい達が取るから。だから、あんたは少しでも早く立ち直って」
「あ、ああ」
「他の町について知りたいんだったわね。教えるわ。あたいも聞いた限りなんだけど······」
カーリーが声を落とす。
「ピースタウンは壊滅寸前。ラッキータウンももう全域避難を始めてるそうよ」
「なんだって?」
壊滅?
お疲れ様です。次話に続きます。




