25──安らぎのひととき
「ふぅ、ふぅ、ふぅ」
「レ、レグルスさん大丈夫?」
「ああ、なんて事ないっ。なんたって、俺は、大人のお兄さんだからなっ」
と強がってみせるが、もう限界が近いぜ!
だが、推しの女の子の前なんだ。弱音は吐けん。ここでカッコつけなくてどこでカッコつける!
幾つになっても、男子って生き物はこんな時に見栄を張りたがるもんなんだな。悲しきかな。
「が、頑張って! レグルスさん! もうすぐだから! あ、本当に辛かったら言ってね? あたし、すぐ代わるから。むしろ、元々はあたしの荷物だし······うぅ、ごめんなさいっ!」
やべえ、カッコつけてるつもりなのに、メルが罪悪感を抱いてしまっている。
何かフォローの言葉を!
「だ、大丈夫だメル」
「ほ、本当に?! 顔色悪いよ?!」
「じ、実はな。大人になると、こうやってキツい仕事やるのが好きになるんだ」
「ええ?! そうなの?!」
「ああ、辛ければ辛いほど気持ちいいんだ。社畜根性ってやつでな······」
「知らなかったー。大人って凄いねっ!」
「だ、だろ」
ああ、腰がっ。ああ、肩がっ。ああ、膝がっ。
ああ、筋肉が悲鳴を上げている。
「あっ、着いたよレグルスさん! ほら、あそこ!」
体力の限界を迎えかけた俺の耳に天使の言葉がかかり、思わず顔を上げると、そこには人が集まっている大きなテントがあった。
外に沢山のコンロや鍋などが出されていて、白い湯気が美味そうな匂いを含んで漂っている。
「あそこ、レグルスさん、ファイト! もうすぐだよ! 頑張って!」
「ぐぐぅ! 俺の最後の根性ー!」
なんとか無事に食糧の運搬を終えた。
近くで鍋をかき回していたオッチャンが、食糧袋に寄ってくる。
「おおっ、メルちゃんありがとな! これで炊き出しは足りるよ!」
「ううん、あたしじゃないよ。これ運んで来てくれたのはレグルスさんだよ」
「レグルス?」
オッチャンが、地べたに這いつくばっている俺に気づく。
「うお?! だ、大丈夫か?!」
「きゃあ?! レ、レグルスさーん!!」
ついでにメルも気づいたようだ。
「し、しっかりして! レグルスさん!」
メルのふんわりした腕が俺の頭を包みこむ。柔らかい膝に乗せられる。
アァ~。花の香り······。
「な、なんだか分からんがこの兄ちゃん、幸せそうな顔してるな」
「う、うん。これがさっき言ってた辛いほど気持ちいいって事なのかな?」
メルの好意に甘えて、俺は近くの簡易ベッドで休ませてもらう事になった。
「ふー。疲れたー」
あんなに根性出したのは中学の時の体育祭以来だな。
道理で疲れる訳だ。まあ、体力も身体自体も俺の物じゃないからなんとも言えんが。
「いてて······」
くそ。昨日の戦闘での疲れも抜けきってなかったのかもしれんな。無理は禁物だ。
ここでゆっくり休憩するとしよう。
「レグルスさーんっ!」
「ん?」
しばらく休んでいたら、メルの元気な声が駆け寄ってきた。
起き上がって見てみると、手に何か皿を持ってパタパタとこっちに向かって来ていた。
「レグルスさんっ! ごめんね、待たせちゃって!」
そう言ってぴょこっと隣に舞い降りるメル。
その手の皿には可愛らしい小さなホットケーキらしき物が乗っていた。
「これは?」
「パンケーキっ。さっき約束したでしょ? 美味しいパンケーキ作るって。あまりトッピングは出来なかったけど、美味しく作れたと思うよ!」
はいどうぞ、と勧めてくる。
生クリームとさくらんぼが可愛らしくトッピングされていて、メイプルシロップの香りが鼻をくすぐってくる。
めっちゃ美味そう。
「これ、食って良いのか?」
「うんっ。召し上がれ!」
まさか推しの手作りスイーツを頂けるとは。この先どんな徳を積んだとしてもこんな幸運はないだろう。
据え甘味食わぬは紳士の恥じ。
「いただきますっ」
──パクッモグモグ──
「?! う、うめえ!」
ふんわり、ほかほかのポヨポヨ。優しい甘さとバターの香りにメルの愛情が込もってるようだ。
「これ、めっちゃ美味い!」
「良かった~、喜んでもらえて」
久々のスイーツと言う事もあり、無我夢中で食べた。あっという間に無くなってしまった。
「ふぅ~。美味かった~。ごちそうさま」
「えへへ、こんなに美味しく食べて貰えて嬉しいな」
「ああ、もう100枚でも食べたいくらいだ」
「うん! また沢山作るねっ!」
メルが嬉しそうに笑う。
マジで天使だ。
メルも今は一休みする時間だと言う事で、二人で少し話をした。
「へえー、レグルスさんはマスコット達の保護活動してるんだ」
「ああ。だけど、大所帯になってな。おかげで食糧が足りなくなって困ってさ」
「だよね。でも、安心して。このユートピアタウンにはまだ沢山ご飯があるから。ほら、ここの炊き出しも避難者への配給は滞りなくやれてるでしょ?」
「避難者? そう言えば、さっき避難民がどうのこうのって言ってたよな? 避難民って何の話だ?」
「え?」
メルがキョトンとした顔になる。
「何って······だって、ハッピータウンもラッキータウンもピースタウンも大変な事になっちゃって······レグルスさん、どこの町から来たの?」
「あ、えっと。俺はハッピータウンからだ。いやあ、大変だったよ」
「······そっか。本当に、大変だったね······」
それまで普通に話していた彼女は、途端に涙ぐみ、同情したような顔をした。
「レグルスさんも大切な物を奪われたんだね。あたし達も······かけがえのない日常を······」
「メ、メル?」
ポロポロと涙を流すメル。
突然の出来事に俺も思わずギョッとしてしまった。
「ど、どうしたんだ? どこか痛いのか?」
「う、ううん。ご、ごめんね。ただ、ちょっと······あたし、ちょっと······」
溢れてくる涙をゴシゴシと拭うメル。
あの時と同じだ。
一昨日に見たあの涙と。
「メル······」
「こらーっ!! 何やってんの!!」
「?!」
そんな所へ。
何者かの怒声が飛んできた。
お疲れ様です。次話に続きます。




