22──思わぬ再開
「ここがユートピアタウン、か」
門を潜った時点で、何か違和感を感じた。
一見すると、確かにユートピアタウンだ。俺の記憶との相違点は特に無い。
ここは東口通り。俺もアイテム稼ぎの時はよくここから出撃した。
一応、パラファンにも敵が居るわけだが、その雑魚敵の大半はダスト達のような悪いマスコットなどだ。
そんな悪のマスコットどもを成敗すると、信頼度があがったり、町に戻った後みんなから色々貰えるのだ。その辺が普通のゲームと違って独特なシステムだったんだよなあ。
そんな思い出の出撃口は屋台などで賑わっていたはずなんだが······今は人通りも少なく、随分寂しげだ。
「やけに寂れてるな」
「うん。あの日から何かが変わっちゃった」
リゲルが居なくなった今。町を守る戦力は大幅にダウンしたはずだ。
もう、以前みたいに住人が自由に暮らせる場所ではなくなったのかもしれん。
「ん?」
歩いていると、妙な物が目に入った。通りの中間に瓦礫の山が出来てる。
「どうしたんだ? これ」
「あ、それは多分······」
キエラと共に近くに行ってみると、かなり悲惨な状態であった。
瓦礫の山をよく見てみると、それはドアや窓枠が混じっていて、すぐに家の残骸だと分かった。
「家? 崩れたのか?」
「······これは例の隕石が爆発した時のよ」
「なに? あっ、そういや言ってたな。爆発した後に破片が降り注いで被害甚大だったって」
「うん。あたしが来た時はあちこちの通りとかにも岩がゴロゴロしてたから、かなり頑張って片付けたんだと思う。でも、壊れた家とかはまだこうやって直せないんじゃない?」
「そうか。まだ復興の途中か」
その後も、半壊状態の家や全壊してしまった建物など、多くの爪痕を目の当たりにする事となった。
あっちこっちを多くの人や、妖精とマスコットが行き来していたが、楽しそうに過ごしていると言うよりは、忙しそうに走り回っているという印象を受けた。
なにより、笑顔の者はほとんど居なかった。
「これは大変だな」
「うん。これでも良くなったんだろうけど」
「この様子じゃあ食料を分けてもらえるかも分からんなあ」
「だね······」
く、かくなる上はやっぱ奪うしかないか!
いや。この状況で食料強奪したら、被災地の避難所から略奪する火事場アウトローだ。およそ考え得る行為の中でも最悪の鬼畜行為。
だが、俺らんとこも大所帯。持ってかない訳にもいかんしな。
「食い物の余裕はある事を願おう」
と、自分に言い聞かせるように言った。
やがて、俺らは目的地の中央広場に着いた。
東京タワーもどきの塔の袂にある公園。緑の芝生を敷き詰めた中央に巨大な噴水が鎮座しており、所々には遊具が設置されている。
「あ、懐かしいなー。ブランコ設置イベントは結構難易度高いんだよなあ。苦労したぜ」
「なんの話? 設置したのはリゲル達でしょ?」
「おっと、そうだったな」
まあ、思い出に浸るのはまた今度にしよう。今は目の前のタスク、〈イルスファミリー食糧問題〉を早々に解決せねば。
しかし。
「んー。居ねえなあ」
この中央広場には市も展開されていて、多くの店が物を譲ってくれるんだが、今は何も無い。
「無料配布商人達が居ねえな」
「みたいね。どうする?」
「う~ん。出来れば略奪は避けたい。少し辺りを調べるか。俺は塔周辺を見て回り、聞き込みしてみる。キエラはあっちの聖堂の方へ行ってみてくれ。もし食糧が貰えるようなら貰って、町の情報収集をしてくれ。一時間後にここで落ち合おう」
「オッケー。気をつけてね」
「ああ、大丈夫だ」
二手に別れて調べる事にした。
「さて、とー」
おお。広場もちゃんと俺の知るのとほとんど変わらない。だが、一人称視点で見てみるとまた印象が変わるもんだな。
建物とかの構造物は変わらないんだが、やはり住人の姿が少ないのは調子狂う。
「こんなに寂しくなるものなんだな」
「あれ? 貴方は──」
「ん?」
後ろから誰かに声をかけられたので振り返った。
「·········!!!?」
そして心臓が喉から飛び出そうになった。
「どぅええええ?!!」
「!!? ど、どうしたんですか?!」
そこに居たのは、優雅にたなびく白髪の色白美少女。金色の目をまん丸にしたレンこと、レン・ホワイトが居た。
そう。
つい一昨日、この俺がボコボコ──ではないが、他の二人もろとも完全に制圧してしまって、さらには死体蹴りするように問題発言をぶちかまして泣かせてしまったあのヒロインだ。
まずい!
今は生身だ。イルスの生身戦闘力は作中最弱クラス。レンに攻撃されたらひとたまりもない。
あの時の俺への憎悪を考えれば問答無用で即攻撃してくるだろう。
これはマジでヤバい。
「あの」
そんな俺の焦りとは裏腹に、レンは不思議そうに首を傾げた。
「どうかされたんですか?」
「え?」
「なんだか、凄く驚かれてるようですが······」
襲ってこない。
まさか一昨日の事を忘れた訳はないはずだが。
「初めてお見かけする方ですね? 他の町から新しく来た人ですか?」
「え? あっ」
そうか。そうだった、そうだった。今の俺はイルスの姿ではなく、山田太郎その人じゃないか。
よし! とりあえずゲームオーバーではない。あぶねえ、今のはマジで焦った。
「あ、ああ。そうなんだよ。俺は隣のハッピータウンから来たんだ」
俺はゲームプレイ時の知識から、咄嗟に隣のエリアの町名を言った。
ちなみに、ゲームではユートピアタウン、ハッピータウン、ラッキータウン、ピースタウンが存在した。
おかげで機転が効いたな。
しかし、俺の口にした名前にレンはサッと顔色を変えた。
「ハッピータウンから?」
「あ、ああ」
しまった。何かマズかったか。明らかにさっきと様子が違う。
内心ハラハラとしていると、レンは突然深く頭を下げてきた。
「本当に、本当にお悔やみ申し上げます」
「はえ?」
「まさか、あの町から逃げ延びて来られた方がまだ居たとは思いませんでした。本当によく無事に辿り着けましたね」
「???」
どういう意味だ?
言葉の意味が分からず困惑している俺には気づかないレンは慈愛に満ちた表情になって、スッと手を取ってきた。
「!?」
「お疲れでしょう。ぜひ、この町で休んでいって下さい。私達も出来る限りお力になります」
「あ、ああ。ありがとう」
しっとりとして、温かい手の感触だ。
自然に自分の体温が上がった。
レンの美しい金色の瞳が涼やかに瞬いた。
「私はレン。レン・ホワイトです。貴方のお名前を教えてもらえませんか?」
「俺の名前──」
イルス。なんて言う訳にはいかない。
そして、山田太郎というのもちょっとな。
ならば──
「俺の名前は──レグルスだ」
「レグルスさんですね。初めまして」
レンはそのまましっかりと握手してきた。
お疲れ様です。次話に続きます。




