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21──ユートピアタウンへ

 


「それで、このカツラを着ければ······オッケー! 出来たわイルス」

「おおーっ!」


 鏡に映る姿に驚いた。そう、そこには()()()()のだ。



「すげーや! 注文通りだぜキエラ!」



 うーん。どっからどう見ても山田太郎じゃないか。懐かしい。



 そう。俺は変身する姿のリクエストをしたのだ。細かい注文をキエラはちゃんと聞いてくれて、この通り俺の本当の姿が再現されてる。


 まあ正直な話、俺は別にイケメンでもないんだが、やはりヤンキーでチャラチャラしてるイルスの姿よりはこっちの方がしっくりくる。



 それに。


 ここだけの話。二十代の姿で再現してもらったので、若返った気分だ。


 もっとも、キエラ達は年齢的には高校生くらいなので、俺はこれでも年上の兄ちゃんだが。



 だが、ひなびたオッサンの自分よりは断然若々しくて良いぞ俺。



「いや~、素晴らしい。キエラ、お前はメイクアーティストになれるぞ」

「何それ?」

「あー、簡単に言うとだな。人を綺麗にメイクしてやる職人の事だな」

「へえー、そんなのあるんだ。知らなかった。イルスって物知りね」

「いやあ、物知りっつうのかな」


 この世界にはない知識ってだけなんだがな。


「ふふっ······」

「ん?」


 キエラが小さく笑った。


「どうかしたか?」

「ううん。ただ、何て言うのかしら。なんだかイルスが別人みたいで」

「え? あ、そう?」

「うん。大人っぽい」


 それは褒めてる意味だよな? それとも、オッサン臭くて老けて感じるのか?


 くっ、やはり年臭さはそう簡単には抜けんか。



 それはそれとして、後は服を変えれば良いだけだな。






 イルスの持っている服の大半が、俺には良さが理解出来ない類いの物だったが、いくらかマシなのもあった。



「これは······白ラン?」


 ほとんど黒の衣服の中に何故か真っ白な学ランっぽい服があった。


「? イルスってこんなの持ってたのか」


 これはこれで目立つが、他の服よりはマシだ。仕方ない。





 変身よし。服装よし。これで誰がどう見てもイルスとは別人だ。




「行くか」




 ダスト達に留守番を任せ、外へ出る。


 まずは、昨日作った輸送用のスクラップUFOをノーマル仕様に組み立て直す。



「さて。準備完了。行くか············で、お前も一緒に来るのか?」

「うん」


 横には、これまた同じようにイメチェンしたキエラが居る。地味な女学生風と言った姿で、これもキエラだとは思われないだろう。



「アジトで待ってていいんだぞ?」

「ううん、行きたいの。だって······」

「だって?」


 キエラは迷うように俯いた後、上目遣いで見上げて言った。


「前はイルスだけに行かせてあんな事になったから」

「あ······」



 そうか。


 そう言えばそうだったんだな。


 俺が──イルスが一人で出掛けて、帰ってきてから不幸が始まったんだ。



 キエラは何かに怯えるような表情で、俺の袖を引っ張った。


「あたしも行く。もう、あんたを一人にしたりはしないから」

「キエラ······分かった。一緒に行こうぜ」

「うん!」



 嬉しそうなキエラの横顔は別人の物だけど、それでも彼女が喜んだ顔なのは間違いない。



 俺らはUFOに乗って郊外まで飛んだ。










 ユートピアタウンの東京タワーもどきが大きくなった所で、近くの森に降りた。



 UFOを木の枝などで隠す。キエラの協力の下、カモフラージュは完璧に終える事が出来た。



「これでよし。んじゃ、食い物貰うとするか」

「オッケー」



 ユートピアタウンには“金”が存在しない。故に物を買う時の対価は求められない。

 一応、通貨もあるにはあるが、それは一般的ではなく、使われる事は少ない。仮に、使ったとしてもそれは何か理由あっての使用であり、金持ちであるほど何もかも手に入れられるという事もない。

 ゲームの時の仕様では〈信頼度〉という独自のポイントがあり、これを使ってアイテムの入手を行っていた。通貨の代わりだ。


『みんなで助け合って生きていこう!』みたいな思想の下、食料や日用品は分け合って、その他産業も無償で世のため人のために行っているのだ。

 もはや狂気とも言える究極の共産主義。


 よって、町の中心地へ行けば色んな生活用品をタダで貰えるのだ。


 ただし。みんなで分け合う主義の世界なので、必要以上に欲張る事は許されない。


 そんな考え方が嫌いで、何もかも独り占めしようとしていたのがイルスだったのだ。



 本来なら、イルスである俺はみんなの食料をかっさらって豪遊するとこなんだが、今そんな事したらシャレにならない。

 ここは大人しく、変装して恵んで貰うのが一番だろう。



 キエラと町へ向かう。



「そう言えばよ、町はバリケードで囲われてるよな? 俺ら入れんのか?」

「うん。バリケードはあくまで“アンノーン”用に設けられた物だから。あたし達みたいな人間とかは入れるわよ」

「アンノーン、か」



 まだ遭遇した事ないが、そいつらもこの狂った世界の謎を解き明かす鍵だろう。あのシュユのおぞましい姿にも関係してるはず。



 そんな風にアンノーンやシュユの事を考えている内に、大きな門が見えてきた。


「あそこが入り口か」

「うん。前に来た時よりも物々しくなってるわね」


 ()っとい丸太を合わせて造った門を挟むようにして見張り櫓のような物が建てられている。妖精やマスコットなどの住人が弓矢を構えて立っている。



 俺らが近づくと、櫓の上に居た一人の妖精がパタパタと(はね)をはためかせて降りてきた。



「あの、止まって下さい」


 子供のような容姿に、尖って長い耳。幼いエルフのような姿だが、背中には虫の翅のような翼を持っている。この世界の妖精だ。



「すみません、ユートピアタウンは只今警戒中なのです。人間かどうか確認させて下さい」

「ああ、分かった」

「お願いね」


 妖精はパタパタと俺らの回りを一週回ると、コクンと大きく頷いた。


「はい、大丈夫です。ようこそなのです。こんな中での旅は大変だったですね。入ってください」



 門が開かれ、俺とキエラは『愛と勇気の町』ユートピアタウンへと潜入した。



お疲れ様です。次話に続きます。

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