18──シュユの最期
螺旋怪弾なる黒き旋風は、俺の乗っていたUFOを粉々に破壊した。
その威力は凄まじく、当の使用者本人の身体をもズタズタに破壊していった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?!!」
おぞましい咆哮とも悲鳴とも言いがたい声が辺りの森を震わせる。
ドス黒い血飛沫が眼球の水晶体と共に飛び散り、一帯は血肉降り注ぐ狂気の光景となった。
「くっ!」
そこまでは見届けられた。だが、俺の身体は現在進行形で落下中だ。
そこまで高くはないが、軽く見積もっても30メートはある。落ちればただでは済まない。
ここはイルスの耐久力を信じるしかない。
体が重力に遊ばれる。手足が青空に足掻く。
地面が鼻先に見えたと思った瞬間には、凄まじい衝撃に見舞われた。
「ガッ······はっ······!」
意識が飛びそうだ。
視界がチカチカと白くなった。
そして、すぐに
「があっ! う、ううっ······!」
全身を苦痛が襲った。その痛みの情報処理が少しづつ進み、クリアな痛覚になる。
「ぐっ、いつつつ······」
骨が軋むように痛い。肺が潰されたように痛い。頭がクラクラするくらい痛い。
だが、意識は正常だ。身体も動く。
土を握り潰して、なんとか体を起こす。
「はあっ、はあっ、痛ってえ······死ぬかと思ったわ······」
あの高さから落ちてこの程度で済むとは。やはり、この世界の住人の耐久力のようだ。
とは言っても。
「ぐうっ?!」
──ガクッ──
膝が勝手に折れ、また地面とキス。
「はあっ、はあっ、はあっ······」
もし、こんな所を襲われたらひとたまりもない。イルスの生身耐久力は低いのだ。
動けずに、ダメージ回復に専念する。
攻撃は来なかった。
「イルスー!!」
代わりに、キエラの声が駆け足で迫って来た。
顔を上げると、こっちに走ってくるギャル天使の姿が。
「大丈夫!?」
「あ、ああ。なんとかな。お前は?」
「あたしは大丈夫。イルス、怪我してる?!」
「いや、大した事ない。それより、シュユは?」
「シュユは──」
「ガアアアアッ!? グ、グガアアアアッ!
オ、オノレエエエエッ! ガアアアアッッ!」
轟轟と響く絶叫に、思わず肩が強張った。
なんとか踏ん張って立ち上がってみると、すぐ近くでシュユが苦悶にもがいていた。
「ガアアアアッ! ガッ! グゲエエエッ!」
地響きを立てて、木々を倒しながらのたうち回るシュユ。辺り一帯は血の海と化していた。
「グオオオッ!? カ、身体ガッ!! 身体ガアアアア!!」
「?!」
黒い巨体がボロボロと崩れ始めた。まるで、腐った倒木が崩壊するように、土くれがこぼれるように、シュユの禍々しい身体が朽ちていく。
「コ、コレハ?! ソ、ソンナ!? イ、イヤジャッ! 嫌ジャ!! 死ニトウナイッ!!」
無数にある狂気の目玉の全てから血の涙が溢れ出した。
「嫌ジャ、イヤジャア! ワ、妾ハ、妾ハ······マダ死ニトウナイ! コンナ孤独ニ死ニタクナイッ! 誰ニモ愛サレズニッ······嫌ジャッ·····」
「シュユ······」
「アアアアアアアアッ!! ガッアァァッ······」
悲痛な断末魔が消え入るように途絶えると、その巨体は完全に崩壊した。
辺りに溢れていた血も、肉片も、全てが黒ずんでいき、そこには得体の知れない真っ黒な灰のような物しか残らなかった。
シュユだった物が、風に吹かれて虚しくチリとなる。
「シュユっ······! 死······んだの······か?」
「シュ、シュユ······」
俺がこの手で──殺したのか?
『ホッホッホッ! 鈍臭い奴じゃのう! 早うこっちに参れ。次はお揚げを貰うのじゃっ』
『マヌケな顔しおって。そういう所がめんこいのよ。ほれ、もっと化かしてやるからこっちに近う寄れ。ほほ、素直じゃのう』
『しょうのない奴。妾の膝を貸してやる。涙ぐんで使うがよい。これ、動くな! くすぐったいではないか! こらっ、動くなと言うに! まったく。意地悪な小僧じゃ 』
『ふふふ。今宵は月が美しいのう。どれ、一献。安心いたせ。これはジュースよ。だが、何時かは共に酒でも飲もう。望むなら、一晩の蜜月を共に、な······ふふふ。どうしてこんなにも可愛いのじゃろうなぁ。お主は』
脳裏に、シュユとのイベントの記憶が甦った。口が少し悪くて、小賢しい感じで、だけど可愛いところもあって──そんなシュユとの時間も楽しかったんだ。
「っ······!!?」
「イルス!?」
目眩がする。能力を使い過ぎた。
それだけじゃない。体力も、そして何よりも気力を大きく消耗した。
「大丈夫?! やっぱり怪我を?!」
「いや······だが、少し疲れたな。キエラ、肩を貸してくれないか?」
「う、うんっ。掴まって」
キエラに支えられ、なんとか立ち上がる。
「UFO壊れちまったな。けど、ちょっと今は作る体力がねえや」
「うん。どこかで休も? あ、ちょうど三角山の近くだね。あそこ、行く?」
「ああ」
二人で三角山を登り、大きく口を開けたような洞窟へと入る。
「ここで休もっか。イルス、大丈夫?」
「ああ、平気だ。ありがとなキエラ」
「うっ、ううん! あたしなんて全然戦えなかったし、こんくらいしか出来る事無いし」
「いや、おかげで助かった。俺一人の力じゃ勝てなかった」
「そ、そう? なら良かった。だけど······」
「·········キエラ、近くの川で水汲んできてくれないか? ちょっと喉が渇いてさ」
「う、うん。ちょっと待っててね」
キエラが出ていく。
洞窟の入り口から入ってきている光が足先を照らしている。風が常にゆっくりと流れていく。
一人になり、ゆっくり息を吐き出す。
「············シュユ······」
『邪魔だから掃除してやったがの』
シュユがあんな邪悪な事を言ったりやったりするはずがない。
あいつの野望は、ユートピアタウンを征服し、町の食べ物屋を全て稲荷寿司専門店にし、お揚げを全て無償化するというコミカルなものだった。
決して、“邪魔だから”なんて理由で他者の命を奪ったりなんかしない。
だから、あいつは──さっき死んだのは、シュユの偽物。そうだ、それだ。あいつは偽物だ。
「············いや。本物······だよな」
好きだったゲームのキャラを、俺の手で殺したなんて信じたくない。
だが、これは現実。
いや、現実かどうかも分からない。
そう、これはまるで──
「悪い夢だな······」
──カラッ──
「!!」
落ち込んでいたその時。
すぐ近くで石の転がる音がした。
音の方を見てみるとそこには──
「っ?! お前ら······!」
『ヒュ、ヒュウ······』
出来損ないの薄汚いスライムのような奴。手の生えた不細工なシイタケみたいな奴。凸凹したタコみたいな奴。
そんな歪なマスコット達──ダスト達がそこには居た。
お疲れ様です。次話に続きます。




