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17──死の螺旋

本日3本投稿予定です。

 

「きゃあっ!!」

「くっ!」



 物凄い衝撃に機体がぐらついて、操縦桿がとられるのを何とかコントロールし、水平に保ちながら上空へと離脱する。

 すぐ目の前を黒い影が通り過ぎていった。


「なんだ!? 今のは?」


『オウオウ、マタ躱シタノウ。ヤハリ今日ノオ前ハオカシイノウ』


「?!」


 なんとも言えない不気味な声に、肝の底からぞわりとする感覚になる。

  まるで、変声機で変えたかのような、機械じみていてザラザラした声だ。



 ──ゴオオオオオ······──


「っ······?!」


 その不気味な声の主──シュユであろう姿はどこにもなく、目の前に巨大な影がそびえていた。


「こ、これは······」

「な、何? これ······」


「ホッホッホッ! 小童ドモメ。ヨウヤッテクレタノウ。オカゲデ妾ノ真ノ力ヲ見セル事ニナッテシマッタワ」


「?!」



 その巨大な影──シュユは最早俺の知るシュユではなくなっていた。



 巨大な漆黒の狐とでも言おうか。ドロドロとしたヘドロのような身体から黒い霧を滲ませ、野蛮な殺気を放っている。

 四肢は獣の物と言うよりは、悪魔の腕を連想させる程に禍々しい。


 だが、何よりも恐ろしいのはその醜悪な頭部。

 シュユの美しく妖艶な面影は無く、大きく裂けた顎の上には、血走った目玉が無数にギョロギョロと蠢いていた。



「何だありゃ······!」

「あっ、あれだよ! あれがアンノーン! で、でもどうしてシュユが······それに、こんな大きなアンノーンは······」


「アンナ雑魚ドモト一緒ニセンデクレ。妾ハ特別ジャ。アノ方ニ認メラレ、コノ力ヲ授カッタノダ」



 充血したように血管を痙攣させた目玉が一斉にギョロっと俺らを睨みつける。


「死ネ。『螺旋怪弾(らせんかいだん)』」


 血の裂けたような赤い顎が開けられ、そこから黒い旋風が吐き出された。


「キエラ! しっかり掴まってろ!」

「うんっ!」


 キエラがしがみついてくるのを感じながら、アクセルペダルやレバー、操縦桿をフルに操作する。


 正面から飛んでくる旋風を躱す。横を通過しただけで心臓を握り潰されたかのようなプレッシャーを感じた。



「っ?!!」


 当たったら終わりだ。直感がそう告げた。



「ホホホホッ! 安心スルノハ早イゾ!」

「なにっ?」

「あっ! イルス! 後ろ!」

「!!」


 黒い螺旋が後ろから迫って来ていた。


「しまった!!」


 ホーミング機能があると分かった時には遅かった。躱しきれず、機体の一部とウルトラハンドが()()()()()()


「ぐうっ!?」

「きゃあああ!」


 ビリビリと身体に響く衝撃。

 今までの人生で味わったどの痛みとも異なる。形容しがたい、本物の“苦痛”とでも言うような、そんな衝撃。

 俺もキエラも、体のあちこちにカマイタチで切られたかのように薄い傷を負っていた。


 背中にベットリとした汗が滲んだ。



「な、何でだっ······俺らには当たってないのに」

「ホッホッホッホッホッ! ソレガ『崩壊の力(アンニアル)』ヨ、イルス!」

「?!」


 機体をなんとか立て直す。大丈夫だ、まだ飛べる。


「くっ! キエラ! 怪我は平気か?!」

「だ、大丈夫!」

「よし! キエラ、修理しながら戦う! お前はなるべく素材を形良く加工してくれ!」

「わ、分かったわ!」


 俺らを襲った旋風がまた向かってくるのが見える。

 どうやら永遠に追いかけてくる代物のようだ。


「くそ! 俺らが死ぬまで追いかけてくるつもりか?!」

「ソノ通リジャ、死ネ、虫ケラドモ」


 スピードを全開にしながらクラフトで機体を直す。黒い影の塊は唸り声を上げたまま猛追してきている。


「くそ! スピードは向こうが上か!」

「イルスっ、また盾作ったよ!」

「いや、盾は無意味だ! キエラ、剣を作ってくれ! なるべく長くて鋭いのを!」

「う、うんっ!」


 何度も迫る死の螺旋を躱しながらの作業。俺も、キエラも必死だ。


 螺旋が近くを掠める度に肉を浅く切られ、鮮血が視界に飛び散る。


「ああっ!!」

「ぐぅっ! キエラ、耐えろ!」


「ホッホッホッ! 螺旋怪弾ダケデハナイゾ!

妾モ忘レルナ!」


 跳躍したシュユの攻撃。俺らの背丈程もあろう爪を振り下ろしてくる。


「うおっ!?」

「うっ!!」


 咄嗟にウルトラハンドでその攻撃をいなす。

 死の一閃は俺らの髪を逆立てて空振った。


 あんなん当たったらひとたまりもない。


「ホッホッホッ! 本当ニ今日ハ強イデハナイカ、イルスヨ! 殺スノガ惜シクナッテキタワイ。ドウジャ? 謝レバ許シテヤルゾ?」

「キエラもか?」

「ソッチノ小娘ニ用ハナイ。死ンデモラウ」

「じゃあ却下だ、バーカ」

「ナラバ、共ニ死ネ!」



 迫る黒い螺旋の旋風、そしてシュユの剛撃。


 もはや避けて逃げるだけで精一杯だ。


「くっ! 流石にしんどいぜ!」

「イルス! 出来たよ! 剣! 木で出来てるけど、強度は充分!」

「ナイス! よし、キエラ! 今から作戦を話すからよく聞け!」


 螺旋怪弾を躱してから、キエラに早口で作戦を伝える。


「! で、でもイルスは?!」

「なんとかなる! 大丈夫だ!」

「で、でも! あたしは少し空飛べるけど、イルスは······」


「コソコソト何ヲ相談シトル! 葬儀ノ手配ノ話カ?!」


「!」



 すぐ目の前で火花を散らして咬み合わさる牙。


「キエラ! 問答してる時間はない! やらなきゃ殺られる! 行くぞ!」

「う、うんっ······」



 これは賭けだ。



 もし、俺のゲームでの知識と違っていたら、或いは予測が違っていたら──



 だが、どちらにせよこれ以上は持たない。


 あの技は永遠に追いかけてくるし、当たらなくても少しづつ俺らの体力を削っていく。

 戦いが長引いたところで利点は何もない。


 やるしかない。




「しっかり掴まってろ! キエラ!」

「っ!」


 腹にギュッと絡み付くキエラの温もり。



 その感覚に、ほんの一瞬安らぎを感じた。こんな時だというのに。


 いや、こんな時だからこそ、生きてるという実感が湧くんだ。怖いからこそ、生きて帰りたいって言う想いが!




「行くぞシュユ!!」


 螺旋を躱したタイミングで、機体をロールさせながらシュユに向かって突っ込む。


「ヌッ?! 墜チヨ!」


 シュユの口から影の塊が吐き出される。


 しかし、螺旋を描いて突っ込む俺には照準が合わないらしく、全て外れた。

 それでも背筋に寒気が走り、体の骨を痺れさせるような痛みが走った。


 だが、タイミングは今しかない。


「お前の螺旋が勝つか、俺の螺旋が勝つか!

ゲームだ、シュユ!」

「ホザケ! 死ヌガイイ!」


 凶悪な突進が迎えうってくる。


「──っ!!」


 ブレーキペダルを思いっきり踏む。内臓を叩かれたような負荷の中、間髪入れずにアクセルを全開にする。体重ごと操縦桿を引き倒す。


 視界一杯に広がっていたシュユの口が消え、真っ青な空になった。


「ヌッ?! ドコジャ?!」


 ブレーキ、アクセル、レバーを駆使し、垂直に飛翔していた機体を水平に戻す。シュユの頭上を取った。

 そして、今度は一気に前に倒す。そのまま下へ向ける。


 目の前に、辺りを見回すシュユと木々の波が映った。


 黒い旋風がすぐ後ろに迫っている気配もする。


「ぐうっ!!」


 内臓が浮き上がる無重力感に晒されながら、シュユに向かって螺旋を描きながら一気に急降下する。


 目と鼻の先にまで迫ったところでシュユが気づいた。ギョロギョロといくつもの目玉が瞳孔を大きく開く。


「直前デ避ケテ螺旋怪弾ヲ妾ニ当テヨウトイウ魂胆カ?! 無駄ジャゾ! ソノ弾ハオ主ノユーフォーニ吸イ寄セラレルノダ!」

「やっぱりな。お前の技ならそうだと思ったよ」

「?!」



 シュユの技は、物体に結界を貼り付け、そこに妖術を発生させる物が多い。


 黒い旋風は初見の技だったが、読みが当たった。



 そう、奴の螺旋怪弾は()()U()F()O()()()()()()()()()()。なら、()()()()()



「いくぞキエラ!」

「っ!」


 ウルトラハンドでキエラを掴み、思いっきり外へぶん投げる。


 もう一方のハンドで大剣を構える。そして、今しがたキエラを投げ飛ばしたハンドで自分の体を掴む。


「後は自分のツキを信じるっきゃねえ!」


 そしてレバーを蹴る。


 ──グイイイイッ──


「うおおっ?!」


 ハンドがしなり、俺の体も宙へ投げ出された。



 投げ出された瞬間。


 ──ズドッ!!──


「ギャアアアアアアア?!!」


 UFOは落下の勢いそのままに大剣をシュユの頭に突き刺した。


 そして──



 ──シュルルルルルッ······──


「?!! シ、シマッタ! ク、クルナアアッ!!」



 頭部に突き刺さったままのUFOごと、黒き螺旋の旋風がシュユを貫いた。



お疲れ様です。次話に続きます。

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