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15──『四天王』シュユ

 

 襲ってきた突風はただの強い風ではない。そんな生易しい類いの物ではない。


 風の中に何千羽という折り鶴が飛んでいて、その羽先が薄い刃物のように張っている。


「キエラ! 伏せろ!」


 キエラの頭を無理矢理下げる。このUFOにはフロントガラスが無い。ガード出来るのは胸の高さまでだ。



 紙の擦れる耳障りな音と共に、身体中に何本も鋭い痛みが走った。


「ぐっ?!」


 まるで真っ赤に焼けた鉄の針金で何度も打ちつけられたような痛みだ。


 目を覆いながら、足下のペダルを大きく踏み込み、操縦桿を一杯に引き寄せる。


 身体に大きな負荷をかけながら、機体が急上昇する。




 体に痛みが走らなくなり、音も止んだ所で目を開けると、折り鶴の大群が一つの(しお)のうねりのようになって、()の元へと舞い戻っていった。



『おやおや。今日は反応が良いじゃないか、イルスや』


 折り鶴達が一つに集まり、刹那の炎を立てたかと思うと、それはフッと跡形なく消えた。


 僅かに残った陽炎の後ろから、妖艶な笑みが浮き上がってきた。




「ホッホッホッ。(わらわ)の“千羽鶴”をよう躱したのう」

「お前っ······なんでお前がここに? シュユ!」

「それは妾の言う言葉じゃ、小僧」



 俺らの前に浮遊して現れたそいつは、パラファン四天王の一人〈妖宴(ようえん)白狐(びゃっこ)〉シュユ。










 パラファンには敵が居る。一応、バトルアクションのゲームだから当然だ。



 その中でも特に強力で、ボスと位置付けされるキャラが居る。それが、通称“パラファン四天王”と呼ばれし四人。



 その内の一人が、今俺らの目の前に立ちはだかる妖艶な女、シュユだ。種族はいわゆる化けギツネ。



 銀髪を結い上げて花魁風にしており、蝶々のように膨らんだそこに、べっこうの(かんざし)や玉の付いた簪に(くし)をジャラジャラ差している。


 細い目にピンっと張った銀の睫毛、挑発的に笑う口元には紅を差している。


 着物の肩は大きくはだけて、襟口は後ろから見れば背中が丸見えなくらいで、前で結ばれた帯がその上のたわわを支えている。

 まさに遊女のような格好だ。


 ただ、頭の上に出ているピョコピョコした狐耳と、尻からモフッと飛び出てる尻尾が妖怪としての存在を強調している。


 全体的に花魁っぽく色気があるキャラで、ファンからは『ぶっちゃけ一番エロい・好き』と評されている。



 キエラに劣らない露出度のエロさで、本来ならテンション上がるところなんだが──やはり、このシュユも俺の知るキャラとはどこか違う。




「ホッホッホ。しばらく見ないから死んだのかと思っとったが、生きてたのう。リゲルが消えてお前も羽を伸ばしとるのか?」

「なに?」



 妖しく笑うシュユ。

 その目は赤色に光っていた。


 彼女の目の色は紫だったはず。







 シュユはボスキャラの中でも強かで、かなり姑息な戦略をとる奴だったが、その性根は腐っていなかった。と言うより、パラファンに真のクズなんて居ないんだ。


 何度かイルスと手を組んで暴れた事もあり、(イルス)との関係はビジネスパートナー的なものだ。



 ボスキャラではあるが、例のごとく攻略対象キャラでもあり、俺もルート攻略した。


 気まぐれで掴み所のない性格は正直苦手だったが、可愛らしいところもあったりして嫌いではなかった。


 そんな彼女もイルスのように、町へ悪さをしに来てはリゲル達に撃退されていたが、最終的には和解する事となる。



 戦闘スタイルは『妖術』を駆使した戦い。魔法とは違って、属性攻撃魔法というよりは念力とか超能力、召喚術に近い。








「さて、最初の質問じゃイルス。お主、ここへ何しに来たんじゃ?」

「ダスト達を迎えに来た」

「ほう? ダストどもをな? それは異なことを申すのう。あ奴らはお主に殺されそうになって逃げたそうではないか? ククク。リゲルだけでは物足りなくて、手下も殺したくなったのかえ?」

「っ!? あんたっ! 黙りなさいよ!」


 シュユの挑発的な態度にキエラが吠えた。


「言って良い事と悪い事があるでしょ! イルスはダスト達を殺そうなんて考えないわよ!ちょっと疲れてただけよ!!」

「ほう? そうかのう。小娘、お前も随分痛めつけられていたと聞いたが?」

「どうしてそれを?!」

「ホッホッホッ! ここを寝ぐらにしようと思ったら文字通り()()()()がおったのでのう。そやつらから聞いたのじゃ。ま、邪魔だから掃除してやったがの」

「えっ?!!」

「なんだと?」


 袖を優雅に振るシュユ。


「喜べイルスよ。お主の代わりにゴミ掃除してやったんじゃぞ。礼くらい言わぬか」

「······ダスト達はどうなったんだ」

「さあてのう。半分くらいは生きとるんじゃないか? 他はチリになって消えたわ」



 妖精やマスコットは死ぬと、光のチリになって消える。



「······」

「あ、あんたっ! なんて事を!」

「うるさい小娘じゃのう。そんなにゴミどもが気になるかえ? なら、あの世に逢いに逝け」



 シュユの体に狐火が灯り、闇の霧が現れた。

 そこから無数の矢が飛んでくる。



「あっ?!」

「キエラ、掴まってろ」



 再び迫る攻撃を避ける。機体のボディに何本かの矢が刺さる。



「ホッホッホッ! 良い動きじゃなイルス! 今日は様子が違うではないか!」

「お前もな」



 お前は推しではなかったが、結構好きだった。


 例えクソゲーだったとしても俺には楽しい思い出がいっぱいあったからな。お前との思い出だって。


 少なくとも······お前だって俺にとっては大切な思い出の一つだ。



 だが、今のお前は──



「キエラ」

「な、なに?」

「覚悟は出来てるか?」

「え?·········うん······!」

「いくぞ」




 シュユ。


 お前は俺が倒す。


お疲れ様です。次話に続きます。

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