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106──北の大地へ

 



「おいっイルス! 何度言えば分かるんだ! 貴様、少しくっつき過ぎだ!」

「いててっ、暴れんなよ狭いんだから」

「ここばかりはカミラに同意じゃ。この助平め。もう少し離れんかっ」

「いてっ」


 カミラにはゲシゲシと足を蹴られ、シュユには扇子で頭を叩かれる。なんてご褒美パラダイスだ。





 時刻はちょうど真昼。

 俺はカミラとシュユの二人をUFOに乗せて、北側の遺跡郡に向けて移動中だ。


 北側遺跡は古代文明の貴重な遺産という事で、周辺の集落に住む民族によって保護されている。


 ローナはそんな小さな集落を転々として生活しているのだ。偵察隊から預かっておいたマップにも、いくつかのポイントが印されている。



 森の大海を渡っていき、渓谷を無視して通り過ぎ、近づいてくる山脈の真っ白な帽子を眺めながら速度を一定に保つ。




「まったく。起きてすぐに出発とは、貴様人使いが荒くないか?」

「これでもゆっくり待ってやったんだぞ。それに、昼飯はちゃんとサンドイッチ作ったろ」

「ふん。美味いから許す」

「のう、カミラ。その傘邪魔じゃ。仕舞ってくれんかの」

「やだっ! 日焼けする!」


 狭いコックピットにしといて良かった。二人が暴れる度にどこかしらボディタッチしてスキンシップを図れる。


「これ、イルス。お主このゆーふぉーとやらは、もうちっと大きく出来んのか?」

「悪いな。力及ばず無理だ」

「嘘臭いのう。カミラ、傘が邪魔だと言うておるに。目に入りそうじゃ!」

「しょうがないだろう! 嫌なら降りろ」

「ここは年配に席を譲ってお主が降りよ」

「嫌だねっ。自分で飛ぶより楽なんだ」

「この我が儘童めっ。お、そのサンド美味そうじゃな。どれ。あむっ」

「あーっ!? 楽しみにとっておいた玉子サンドを~!? この泥棒狐~!」

「これ、暴れるでない!」


 お、おお。いいぞ、もっと争ってくれ。俺に沢山の温もり······いや、二次被害が出て大変だ。


「まったく、しょうのないやつじゃ。待っておれ。ほっと」


 何やら後ろでゴソゴソとやるシュユ。


「見よ。妾の式神で作った笠じゃ。これでも被っておれ」

「む。まあ、手に持つよりはいいか。使ってやる」



 くそ。どうやら争いは終わってしまったらしい。もっと二人の体を堪能、もとい、検温して健康診断したかったんだが。



「イルスや、あとどのくらいで着くのかのう」

「そうだな。遺跡郡自体はあと一時間もせずに到着するが、そこからマークを頼りに各集落を探すとなると······けっこうかかるな」

「なあイルス」


 背中をくいくいと引っ張るカミラの声。


「ローナってどんな奴だ?」

「お前も会った事あんだろ?」

「あるけど、ほとんど喋ってない。だってあいつ無口じゃん。こっちから話振らないと会話進まないし」

「それだけ聞くと重度の陰キャみたいだな」


 ペールと相性良いかもしんないな。


「ローナは······そうだな。優しい奴だ。大人しくて、表情もあまり変えないから誤解されがちだが、本当は色んな人と仲良くなりたいって思ってる。そんな普通の女の子さ」

「そうなのか? ふーん」

「メルが妹でな。だからお姉ちゃん属性だぞ」

「あー。そういやそんな話聞いたな。オネーチャン属性? なんだそれ。どんな攻撃方法だ?」



 段々と北の連峰が大きくなってきた。それに伴い少し空気がひんやりしてくる。


 北側遺跡は年中冬の気候だ。持ってきておいた防寒着を三人で着る。温もりが遮断されてしまうが仕方ない。



「あやつは中々に出来るやつと聞いておるぞ。リゲル達もかなり手を焼くほどだと」

「まあ、少なく見積もってもお前らと互角の実力はあるな。かなり強いぞ」

「ホホホ。妾には及ばぬとは思うが」

「ふん。我が最強だ」


 実際は純粋な総合力だけで見れば一番強いだろう。圧倒的とまではいかなくても、カミラやシュユのような実力者さえも凌駕するのはかなり魅力的だ。

 なんとしてでも仲間にしなくては。


「ここ寒いなぁ。イルス~、まだ見つからないのー? 早くしろよ~。我、温かいグラタンが食べたくなってきたぞ~」

「妾はキツネ蕎麦が食いたいのう。熱々の蕎麦が恋しいのう。これ、早う用事を済ませ」


 ローナは我が儘言わない奴である事を願う。



 すっかり冷えきった空気になった辺りで、ちらほらと遺跡が見え始めた。

 雰囲気的にはマヤとかみたいな造りの遺跡で、いくつかのピラミッド型の巨大建造物から、連なった家屋のような物まで。

 ゲーム中では、宝箱がたくさん隠されていてレアアイテムを狙う事の出来るダンジョン的な場所だった。



「へー、ここってこんなんだったのかー」


 身を乗り出して興味津々に遺跡を見下ろすカミラ。その隣のシュユも感心したように眺めていた。


「ほーう。久々に来たが、変わらずといった感じじゃのう。ここは12月になると吹雪もあるのだが、よくもまあ天災などで壊れないもんじゃ」

「ここらは小さな集落がいくつもあって保護活動してるからな。ローナはそういった所でお世話になってるんだ」

「どうでもいいけど、我は熱いココア飲みたい!」



 ちょうど近くにマップに印された集落があったので、まずそこへ向かう事にしよう。



 小さなウッドハウス的な家と、沢山のもみの木が並んだ集落の近くにUFOを着陸させ、みんなで降りる。流石に雪はなかったが、曇り空からは今にも降ってきそうだ。



「イルス~、早く家に入るぞー!」


 カミラがさっさと先に降りて近くの家のドアをドンドンと叩く。


「おーいっ、開けろー! ストーブ当たらせろー! ココア入れろー! 血吸うぞー!」

「おいこら、治安妨害ロリヴァンパイア止めろ!」

「やれやれ、しょうのないお子ちゃまじゃ」



 カミラが嫌がらせのような事をしていると、扉が開かれ、中から中年くらいの女性が顔を出した。


「どなた?」

「我こそは誇り高き吸血鬼の──もがっ」

「すんません、通りすがりの旅人なんですが、少し人を探しておりまして。良かったら話させてもらえませんか?」


 余計な事を言いそうなカミラの口を塞ぎ、女性に頭を下げると、嫌な顔もせず


「まあ、外は寒いでしょ? 中へ入りなさい。ココアも入れてくるから」


 と言って快く迎え入れてくれた。


「すみません。ほら、お前らも礼言え」

「ご苦労、眷属にしてやるぞっ」

「ホホホ、感心感心」



 無遠慮にドシドシと中へと上がる様を見て、人選を間違えたかと後悔しながら俺もお邪魔した。

 

お疲れ様です。次話に続きます。

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