103──酔いどれ百鬼夜行
宴が始まってから一時間近く。
「うぃ~、イルス~、飲んどるか~?!」
「お、おう」
俺は酔っ払いに絡まれていた。
シュユが酒好きなのは知ってたから、一応酒をキープしといて正解だった。宴会だし、酒は問題ないと言えば問題ないんだが······。
「イルス~」
──むにゅ──
「おおおっ!!?」
「妾~、もっと飲みたいぞ~」
──むにゅ、むにゅう──
「ぶっほっ!? お、おお、そ、そそうか? でもそんくらいで止めた方が······」
酔ったシュユが肩を寄せて身をもたれてくる。大きくて、重たそうなたわわがさっきから俺の肩に当たっている。
最高過ぎるが、刺激が強すぎる!
「イ~ル~ス~! あんたって奴は~!」
「ま、待てキエラ! これは俺のせいじゃないだろう!」
ああ、や、やわらけぇ······あったけぇ······なんて、なんて幸せな温もり······。
「この~! 馬鹿イルスー!」
──バチィンッ──
ビンタされたからなのか、はたまた強すぎる刺激からなのか、鼻血が出た。
「イルス、大丈夫っスか?」
「ああ、代償は払ったが、報酬は最高だった」
「懲りないっスねぇ······」
「あれ? カミラは?」
「カミラなら──」
「だーっはっはっはっ! 次は私の十八番、ブラッディフラフープ!」
『ヒャ~ヒャッヒョッ!』
テーブルの上に立って、自分の血で作った輪っかでフラフープしていた。
「次は~、ほりゃ~! レッドウイ~ング!」
続いて血で大きな翼を作ってバサバサとはためかせていた。
そのカミラの顔が見事な赤ら顔になっている。
「あいつ、酒飲んだのか······」
「止めたんスけど、『あの女狐に子供扱いされる!』って言って聞かなくて······」
「負けず嫌いめ」
酔っ払いの一発芸を連発して馬鹿騒ぎ。ダストらもギャーギャー盛り上がっている。
「貧血でぶっ倒れなきゃ良いんだが······」
「お~い、イルス~、ペール~」
首に甘い温もりがかかった。シュユが俺とペールの二人を抱き寄せるように被さってきた。
「お主らも飲め飲め~、今宵は宴じゃ~!」
「お、おう。そうだな」
「ウチもっスか?」
「当たり前じゃ~。キエラ~、お主もこっち、こっちゃ来い。イルス、近こうよれ」
「お、おお! もっと近くに寄って良いのか?! では、遠慮なく······」
「あふんっ。 これこれ~、どこ触っておるのだ~? お主も好き者よの~」
「イルス······サイテーっス······」
「いや、これは不可抗力でな······」
「イ~ル~ス~!!」
「キ、キエラ?! う、うわあああっ!?」
そうして、シュユの酒に付き合う事しばらく。
「てわけで~、ウチの事舐めてんスよ~! イルス~、ダスト達にビシっと、ああーもう、ビシっとやってくらはいよ~」
「ウィ~、ヒック! ジュースだ~、ブドウジュースが足りナーイ! ヒック! 畑だ~、畑を作れ~! 私のブドウ風呂はもうビックリサンダーっ!!」
「だいらいね~、イルス~、あんたはいつもいつもいーっつもそうなのよ~! エッチで助平で、変態っ! あ~、女の敵~」
歓迎会は地獄と化していた。
酔ったキエラ、ペール、カミラに絡まれて、俺は酔うに酔えないでいた。
「お前らも飲み過ぎだ······」
「な~に言ってんスか~。飲まなきゃっ、やってらんないっスよ! ウチみたいな、陰キャは舐められるんスよ~、うう~っ!」
「ほ、ほら、泣くなよ。ダスト達には俺からきつーく言っておくからよ」
「ほんとっスか? ほんとっスか?」
「ウィ~、イルス~、けんぞく~、お前ー、私の、私のブドウジュースをろこへやった~!?」
「お前が全部飲んじまったんだよ!」
「イルス~、あんらね~、あたしが居ないとな~んも出来ないんらからね~! あたしみたいな可愛い女の子とくらへてラッキ~でしょ~!」
「お、おう。そりゃもう毎日が天国だぞ」
くそ~。酔って無防備な感じでなかなか艶かしいんだが、絡み酒過ぎて楽しめん。
「これ、イルス~。妾のための宴じゃ~。何か余興は無いのか~?」
「お、おう。そうだな。おーい、ダスト達ー!シュユのために用意しておいたプログラム、酔いどれ百鬼夜行やれー!」
『ヒョヒャーッ!』
ゾロゾロと並んだダスト達が笛やカスタネットを滅茶苦茶に奏で、さらには箸と皿をチンチンと叩きまくり、ボコボコと会場を揺らして行進し始める。
『エエジャナイカ、エエジャナイカ、オキツネ、オキツネ、イナリサマッ!』
『ツキヨ、オアゲ、シュユガクル!』
『アソレ、アッソレ、ア、ソレッ、オアゲ二オキツネ、エエジャナイカ、エエジャナイカ!』
『コンコン、チキチキノ、オツキサマ、アリャ、サケサケサケ、オキツネコンコンッ!』
「はーっはっはっはっはっはっ!! こりゃたまらん! な、なんと滑稽なっ! くくくく、笑い過ぎて腹がよじれるわっ······くくくく!」
酔いも手伝ってか、シュユには大ウケのようだった。
その後は、飲むわ食うわ、歌って踊るわ、なんか物は壊すわで滅茶苦茶な騒ぎになってしまった。
今や、キエラやペール、カミラの幹部達は皆して酔い潰れてしまい、俺とシュユ、そしてまだ動ける精鋭ダスト達だけでの飲み会となってしまった。
「イルス~、なんで妾だけじゃなくて、他の小娘どもも集めたんじゃあ? 妾が居ればそれで事足りただろう~?」
「あ、いやあ。ほら、アレよアレ。みんなして集まった方が楽しいだろ?」
「とか言って、本当はおなごをいっぱい集めたかったのだろう? このスケベめっ」
「否定はせん」
「なっはっはっはっは! 正直な奴じゃ! そういうのは嫌いではないぞ」
大声を立てて笑ったシュユが、ビンを手にとって差し出してくる。
「ほれ、盃が乾いておるぞ。妾が注いでやろう」
「い、いやあ、俺ももう限界······」
「なんじゃと~?! 妾の酒が飲めぬのか~!」
「うおっ?! アルハラ上司だ?!」
完全に酔っ払ったシュユに胸ぐらを捕まれ、ガクンガクンと揺らされる。胃袋の中身がシェイカー。
しかし、幸いな事に酒はもう無くなってしまい、代わりに水を飲んでる内にシュユも少しずつ酔いが覚めていった。
「まったく。酒くらいもう少し用意しておかんか」
「いやぁ、料理の時くらいにしか使わないからさ」
「まあよい。妾も酒よりはお揚げの方が肝要じゃからな。それに、酔っていてはお主に何されるか分かったもんじゃないわ」
「今無事だろうが! たくっ! 自分から胸押し当ててきたくせによ」
「なんじゃ? もっとして欲しかったかの?」
クツクツと意地悪そうに笑うシュユ。くそ、からかわれている。
「まあ、不本意じゃけど酒がある時くらいは多少サービスという事で許してやるでな」
「酒が無い時も定期的に頼む」
「ホホホ、嫌じゃ」
いつの間にか取り出した扇子でデコを軽く打たれた。
「小僧のくせに生意気な事言うでない。そうさな······毎日お揚げをたらふく食わせてくれるなら、ちいとばかりサービスしてやらん事もない」
「おいダスト達。今度からお前らはお揚げ食うの禁止な。全部シュユのだ」
『ヒョ~······』
呆れたような顔を並べるダスト達。それを見てシュユがまた笑った。
「ホッホッホッ。ダストにすら呆れられておるわ。お前さんらも大変じゃのう、主がこんな煩悩剥き出しの助平では」
「ええじゃないか、ええじゃないか、スケベで男はなんぼ、お揚げは何枚?」
「かっかっかっかっ。下手くそな歌じゃのう!」
シュユが側に膝を進めて盃をそっと掲げた。
「思うていたよりも悪くない生活になりそうじゃ。イルス、改めてよろしゅう」
「お、おう。どうしたいきなり」
「たわけ。素直に挨拶しとるのだ」
楽しそうに笑うシュユが袖を上げると、その中からふんわりとした甘い匂いがした。
「さ、乾杯じゃ。水じゃがの」
「ああ、水の方がいい」
ちょこっと盃を当て合う。
ニッコリと笑うシュユ。
「フフフ、退屈しそうにはない。不便もなさそうじゃ。約束を守る男は嫌いではないぞ」
妖艶なのに、子供っぽい無邪気なその顔を見ていると、あの時の苦しかった気持ちがうっすらと消えていくようだった。
お疲れ様です。次話に続きます。




