102──宴の幕開け
アジトに着いた頃にはすっかり日も落ちて、遠い山の峰の周りだけが茜に疼いていた。
「よっと。少し遅くなったな」
「ほっ。シュユ、足下気をつけてね」
「これ、年寄り扱いするでない」
俺らが降りると、見張りのダスト達がボコボコと迎えに来た。
『ビョエ~ッ?!』
そしてシュユを見て驚きの声を上げた。
「ホッホッホッ、こんばんわ、ダストども。相変わらずむさ苦しい奴らじゃ」
「シュユ、サケ、コワイ!」
中には酔い潰された奴も居たようで、戦々恐々と身を震わしていた。
「よーし。お前ら、ペールとカミラは戻って来ているか?」
「イル! ペール、カミラ、メシ、ヨウイ!」
「おお、そうか。二人にもシュユが来たと伝えてくれ」
ひゃーっと奇声を上げてドコドコと先にアジトの中へと消えるダスト達。
シュユが驚いたように尋ねてきた。
「今、ペールとカミラと申したのか?」
「ああ。二人も俺らの仲間になってくれてな」
「なんとっ! それはたまげたわ。ペールは妾もよう知らんが、あの高慢チンチクリンのカミラがよもやイルスごときに従うとは」
「驚く事ないだろ? 高飛車化け狐だって俺の所に喜んで来てくれたんだからな」
「話を作り替えるでないっ!」
ペシリと扇子を食らった。
「腹が減ったのう。お主らがお揚げを見せびらかせてからお預けじゃったからの」
「ならいなり寿司作ってやるよ。まだお揚げの残りがあるしな」
「まことか?! ほれ、何をしておる、早く案内せんかっ!」
途端に尻尾や耳を震わせて背中を押してくるシュユ。早くもよだれが垂れている。
アジトに入ると、今回の作戦の一番の功労者である鳥もどきが他のダストからヒョーっと囃し立てられていた。
俺の姿に気づいて飛んでくる。
「ライライーッ!」
「よ、おつかれさん。お前のおかげで上手くいったぞ。大手柄だ。後で俺様秘蔵のスペシャルチョコレートをやろう」
「ライラ~ッ!」
「ほう、こやつがリゲルに手紙を渡した張本人か。ほーう。たまげた奴よの~。これ、これから仲良くしようではないかぁ? なあ~?」
「ラヒ~······」
「おい、脅すなよ」
そして、他のダストにも睨みを利かせるシュユなのであった。
「ここが食堂だ。歓迎会の準備をして待ってるはずさ」
「歓迎会とな?」
──バタンッ──
『ヒョヒョヒョヒューッ!!』
「ぬおっ? な、なんと?」
扉を開けた瞬間、100体近いダスト達の大歓声が上がり、流石のシュユも面食らっていた。
「メゴメゴーッ!」
「アバアバーッ!」
「ドョドョーッ!」
「ペプエアアッ!」
「アムパムーパッ!」
ボンボコ、ボンボッコ、どんてっど、どんてっど、ドコドコのすってんてん。
まあ、やかましいラブコールだ。
「なんと······呆れた魑魅魍魎っぷりじゃな」
「妖怪じみてて良いだろ?」
「うむ、まあ······」
集まったダスト達の中から、少し緊張気味のペールと、口をへの字に曲げたカミラが出てきた。
「イルス、キエラ、お帰りっス。シュユ、初めましてっス。ウチはペールっス」
「ほうっ、本当に本人かえ? 噂には聞いておったが、かの影使いまでおるとは······そちらのお子様は初対面でもないし、本人のようじゃのう?」
「黙れ、この妖怪乳袋っ。貴様などお呼びではないわ!」
頑張って愛想笑いを浮かべるペールと、対抗心剥き出しのカミラ。
カミラとシュユはそれなりに長生きだし、面識がある設定なのだ。そして、同じ妖怪の類いなのでライバル心的な物を抱いている。
「まったく! なんでこんな高飛車狐を連れてきたんだイルス~!」
「いや、なんでも何も······」
「ホホホホ、相変わらずお子ちゃまじゃのう。故にまんまと手下にされたのじゃろ?」
「うるさいっ! そういう貴様こそ化け比べで負けたようじゃないか? ん?」
「ぐぬっ! さてはお主が余計な事を申したな!」
「さーてね! 我はなんにも~?」
「ええいっ、こやつ、ここらで折檻して上下関係を分からせてくれようか!」
「お、お二人とも止めてっス。今日はめでたい歓迎会なんだし、穏便に行きましょうっス」
「ペール! 貴様は我の眷属だろう?! 我に味方しろ!」
「ええっ?!」
「ペールとやら、そんなチンチクリンの言うこと聞いてると寿命が縮むぞ。妾の式神にならんか?」
「えええっ?! イルス~、キエラ~、助けて~」
波乱の予感もするが、なんとも賑やかじゃないか。
「よーし! 野郎どもー! シュユが新たに仲間になったぞー! 宴だーっ!」
『ヒャヒャヒャッヒョー!』
こうして、シュユを迎え入れる百鬼夜行が幕を上げたのであった。
「ホッホッホッ。妖艶なる大妖怪のシュユじゃ。以後お見知りおきを。さて、妾は堅苦しい話は嫌いじゃ。早う食って、飲んで、騒ぎたい。今宵は存分に楽しもうぞ」
『ヒョヒョヒョーッ!』
「ブーブーッ! ありきたりだぞー!」
「い、いぇ~っス! ヒュ~っス!」
「フゥーッ! シュユ、うぇ~いっ!」
シュユの挨拶は、ダスト軍団とペールやキエラの歓声、そしてカミラのブーイングをもって迎えられた。
「みんな、シュユとも仲良くしてな。さ、シュユ。今日の主役だ。腹いっぱい食ってくれ」
御立ち台から下りたシュユを上座に案内する。
「うむ、うむ、あむ······はぁ~、たまらんのう」
主役の特別席座布団にて、うっとりと幸せそうに頬をほころばせるシュユ。
その目の前には山盛りになったいなり寿司。
「うまい、うまいのう。イルスが握ったと言うからばっちいかと思ったが、なかなかどうして」
「おい、寿司返せ」
「冗談じゃ、冗談。悪くないぞよ。褒めてとらす」
「たくっ、姫様気取りかよ」
両側を俺とキエラで囲み、コップにジュースを注いでいく。もてなしだ。
「しかし、滅茶苦茶じゃのう」
いなり寿司を頬張りながら、シュユが周りを見て言う。
ダスト達があっちでヒョーヒョー、こっちでヒャーヒャー叫んでおり、もうやりたい放題の宴会。
さらに──
「眷属ども! シュユなど恐れる事はないぞ! 我があんな奴すぐに跪かせてやる! 安心しろ! ペール、ブドウジュースを持ってこい!」
「は、はいっス!」
「ペール、アンパンモッテコイ!」
「ペール、ヤキソバパンモッテコイ!」
「ペール、ミルクモッテコイ!」
「舐められ過ぎて笑えるっス!」
カミラやペールもワイワイ騒いでいる。マジで騒がしくなったな。
「しかし、せっかくの妾の宴だと言うのにオレンジジュースではのう」
「ブドウジュースは飲むとカミラが怒るんだよ」
「そうではない。ほれ、そんなお子ちゃまの飲み物ではなく、あるじゃろうが、妾のもう一つの好物が。な?」
色っぽい流し目で聞いてくるシュユ。
ふむ。もう一つの好物、それは俺のソーセ······止めよう、流石に下品過ぎた。
「あー、あれね」
キエラが困ったように俺を見てくる。
「どうする?」
「ちょっとはあったな。よし、持ってこよう」
「おおっ、話が早いではないか!」
ま、しゃあねえな。
今日は特別だ。
お疲れ様です。次話に続きます。




