99──化け比べ②
「おのれ~! なんと小癪な手をっ!」
看破されたシュユは悔しそうにイルスを睨んだ。
「ええいっ! お主ずるいぞ! 他人にも協力させるとは!」
「なんの話だ?」
「とぼけるでない! あの夫婦の事だ! あやつらに手伝わせるとは!」
「おいおいおい、そりゃあ言いがかりだぜ? 俺らはただ、あの婆さん達にたまたま持ってたお揚げを渡して好きなように食ってくれって言ったんだ。んでもって婆さんはキツネうどんといなり寿司にして野良仕事のおやつにしただけだ。俺は一言も『化け狐をあぶり出すために協力してくれ』なんて言ってないぞ? そして、お裾分けしてもらった俺らを見てお前が勝手に腹を空かせた。だろ?」
「くくぅ~っ!」
シュユは思わず袖を噛んで引っ張った。
「ええいっ! 分かった、分かったわ! この勝負は確かにお主がしてやったわ! だが、次はこうはいかぬぞ!」
「その前に俺らの後攻だけどな」
「ふん。わかっておるわ」
まだ憎々しく睨みつけるシュユであったが、いくらか落ち着きを取り戻していた。
(くそぅ。なんと小賢しい策を思いついたものよ。だが、それでも妾の有利に変わりはない。化け比べというのはな、騙すのも見破るのもどちらも達者でなければならん)
例え、一度は敗れても、次にイルス達の化けの皮を剥がして、また自身の出番になれば、もう同じ手には引っ掛からない。つまり勝てる。
シュユにはそんな打算があった。
(フフフ。例え見破る力はあっても化けるのは無理じゃろうて。となれば、イルスの化けなぞせいぜい変装くらい。容易い勝負じゃ)
「よし。それじゃあ俺らは一旦作戦会議に移る。試合開始は三時間後だ。三時間後にまたここへ来い」
「長いのう。せめて次の会場を先に教えてくれんかのう」
シュユが探るように言うと、イルスはあっさりと承諾した。
「うん。ここから東に行ったあの峠。あそこに茶屋がある。あの辺りなんてどうだ?」
「ほう、峠団子のあそこか」
(しめた!)
シュユは内心舌舐めずりした。
(ホホホホ、あそこは百年も前から慣れ親しんだ場所だ。万が一物に化けようとも直ぐに分かるわ。これでイルス達に勝ち目はなくなったのう)
「承知したえ」
「じゃ、また後でな」
先程の敗北感も薄れ、足取りの軽くなるシュユなのであった。
イルスとキエラの二人は、小山の山道を神社目指して登っていた。
「よし。とりあえず守りきった。後は攻めるだけだ」
「すごいわよイルス! まさかあんな手でシュユを見つけ出すなんて!」
「ふっ。シュユルートのイベントを参考にしたまでさ」
「なにそれ?」
初戦は見事に守りきったイルス。これで次の攻めのターンに勝利すれば、その時点で勝利が確定する。
「でも、問題は次よ? 見破るのはまだしも、化けて騙すのは······」
キエラの気がかりはもっともであった。問題は次。イルスが化けてシュユに見破られないようにしなければならないのだ。当然、イルスに変化の能力は無い。
「どうすんの?」
「もちろん変装だ。それしかない」
そのありきたりな答えにキエラは落胆した。
「そんなの無理じゃん。下手したらあたしにだって見破れられそうな手よ。化けたりするのが得意なシュユがそう簡単に騙せるとは思えない」
「まあな。多分、見破る方もシュユは達者だろう。俺の変装なんてせいぜい3分もつかどうか」
「だったら──」
「だが、手はある」
そう言いきって自信ありげに笑うイルス。
「信じろキエラ。勝てるさ」
「············」
キエラはそっと俯いた。
二人が神社脇に置いたUFOに戻ると、中ではダストがちゃんと待機していた。床にはお菓子の袋が散らかっている。
「よ、待たせたな」
「ライライーッ」
「お前の出番だ。少し待ってな」
イルスはUFOに乗り込むと、収納していた紙とペンを取り出し、何やらしたため始めた。
「何書いてんの?」
「なーに、旧友への暑中見舞い的なやつだ」
ニヤリと企み顔を見せるイルス。
その手紙の内容を読んでいたキエラが「えっ?!」と、思わず声を上げた。
「な、何考えてんの?! イルスっ!」
「もちろん、勝つ方法をだ。よし、出来た」
イルスはその手紙を、鳥のような姿のダストの足にくくりつけた。
「よし。いいか? これは重要な手紙だ。この手紙を渡せるかどうかがこの勝負を──いや、俺らファミリーの運命を握っている。お前の肩に未來がかかってる。頼んだぞ!」
「ライライーッ!」
「よし、良い気合いだ」
飛び去っていくダストを見送ってから、イルスは懐中時計を取り出して呟いた。
「あと2時間半······余裕だな」
カチっと蓋が閉まる。
そして、約束の時間の少し前となった。
今度の会場は峠にある茶屋。作りたての団子と、少し苦めの茶が人気の店だ。
峠の店とは言っても、険しい山道に位置すると言うよりは、ハッピータウンの町中心地と外縁の農村地域を繋げる丘の上に位置しているだけだ。
故に、人の通りは思いの他多く、店先に出された腰掛けや長椅子などに何人かが常に座り、茶や団子を楽しんでる。
そこへ、集まる三人の影。すでに夕方。辺りはすっかり夕陽に染まり、茜雲が現れ始める。
「ここが第二会場だ。範囲はあっちの大きな桜の木から、あそこのお地蔵さんの所まで」
「ほう、なるほどのう」
イルスの指定した範囲は先程の畑エリアよりやや横長の範囲であったが、化けられそうな物は限られていた。
「ルールはさっきと同じ。制限時間は10分。俺とキエラはタッグを組むが、お前が当てるのは俺一人だ」
「ホホホ。二人相手でも構わんがのう」
「大した自信だな。だが、後腐れするのも嫌だからな。ここは正々堂々とやる」
「どの口が言うかっ! まあよい」
イルスが一歩下がり、キエラと並ぶ。
「さて。ここでさらに言っておかなきゃならん事がある」
「なんじゃ?」
「俺はキエラとタッグを組むと言ったな? よって、キエラの能力を使わせてもらう」
「なに?」
「お前も知ってるだろう? キエラはあらゆる物を変形させられる。本来、動物などの生き物はほとんど出来ないが、じっと動かなければ顔を変える事も出来る。声もな。女にだってなれるぞ。まあ、大事なナニとかは消せんが」
「まったく、品の無い奴じゃ」
「······」
キエラは何も言わずに下を向いていた。
「さ、そろそろ時間だな。おっと!」
踵を返したイルスが何かを落とす。そして、慌てた様子でそれを広い上げ懐に隠すように抱えた。
「へっへへへ······」
誤魔化すように笑うイルスに、シュユはニヤリと笑った。
(フフフフフフ。やはり青いのう。キエラの能力の事を自分から言わなければ少しはまともな勝負になっただろうて。しかも、今落としたのは変装用の服じゃないか? 白かったのう。いや、そう見せかけて案外物に化けるのやもしれんの)
「今度は開始の合図をキエラにやってもらう。それと同時にオルゴール時計のタイマーをキエラが押す。それまではお前には目を瞑っててもらう。いいな?」
「よかろう」
「じゃあキエラ頼んだぞ」
「分かったわ」
キエラが黒い手拭いをシュユに渡す。
「悪いんだけどさ、目隠ししてもらえる?」
「よかろう」
シュユは素直に自ら目隠しすると、イルスの去った方とは逆側を向いて待った。後ろでキエラが遠ざかる足音がしていた。
(それにしても、妾もこんな児戯のような事に付き合うとは我ながら酔狂よのう。しかし、童心に返ったようで心浮くわ。フフフ。勝ち負けはともかくとして、あやつの仲間になってやるのも良いかもしれんな。まあ、負けて下るのは気に食わんから勝ってみせるが)
「まだかのう」
ややして、足音が近づいた。それはキエラであった。
「もうそろそろね。あ、大丈夫そう。じゃあ、目隠し外すわね」
キエラが目隠しを外し、シュユが振り向く。
それと同時に時計のタイマーが押される。
「スタートっ」
お疲れ様です。次話に続きます。




