プロローグ
そこそこ連載期間を設ける予定の作品です。焼き肉定食感覚でどうぞ。
実は少々曰く付きと言うか、裏話のある作品です(大した話ではありませんが)。最終話の後書きにその裏話を書く予定ですので、ぜひ最後までお付き合いして頂ければと思います。
もしかしたら、分かる人なら『おや?これって······』と思うかもしれません。
本日10話投稿予定で、この10話が序章的な位置付けとなっております。
長々と失礼いたしました。
間違いない。
「嘘だろ·········」
俺の呟きは薄暗くて汚いコンクリートの壁に吸われて消えた。
正直、自分の頭がどうかしちまったとしか思えないんだが、目の前の鏡には確かにそいつが居る。
そう。俺がやっていた最高のクソゲー❬パラダイスファンタジア・スクールラブ&ウォーズ❭の登場人物、通称『チンピラ噛ませ犬』が。
記憶を辿り、自分の事を改めて確認しよう。
俺は30歳を過ぎても一月14万手取りの冴えないフリーター。彼女はもちろん、友達すらほぼ居ない。
名前は山田太郎という、同級生に散々ネタにされてきた名前。記入例の殿堂。
俺の人生をエントリーシートにして出せば、驚きの白さを誇るだろう。汚点はほとんど無いが、栄誉も皆無だ。真っ白なホワイトアウト。つまり、何もしてこなかったし、何者にもなれなかった人間。白紙の人生。
何をやっても中途半端にしか身に付かず、何かに打ち込む事も出来ず、気がついたら何もしないで大人になっていて、それでも何かしようとは思えないままダラダラと生きてた。
周りで人生の軌道に乗り始めた人間を羨んでるだけの毎日を過ごす。自分には何も無いのに何かを欲しがってる。
何のためのに生きてるのか。俺の人生には何の意味があるのか。考えては答えなんて出せないまま、無意味に過ごすだけの日々。
情熱も希望も持てない虚しい時間を消費していくだけの、そんな無価値な人生。
うん。間違いない。うんざりしてくる俺の人生が記憶にちゃんと存在している。やべえ、思い出しただけでへこむわ。
俺の趣味と言えば、実家に食費を払った後に残った金を使ってトレカや中古のゲームを買う事で、それが唯一の楽しみでもあった。
ホビーショップでゲームを探し、トレカのストレージを漁り、ガチャガチャを回すのが至福の時間。特にゲームは安物をよく買った。
俺がピンッとくるゲームにはクソゲーが多いらしく、別にクソゲーハンターではないのだが、結果としてクソゲーもそこそこやっていた。
そして、そんなクソゲーの中でも特にやり込んだゲームがあった。
❬パラダイスファンタジア・スクールラブ&ウォーズ❭。略してパラファン、パラスクとか、パラウォとか頭パッパラパーラダイスとか色々あるが、とにかく俺はこのゲームに一時期はまった。
このゲームの概要を簡単に纏めると、マスコット妖精や可愛い女の子とかが仲良く平和に暮らしている世界の学園に入学した主人公が、色々な問題児とかと戦い、学園と町の平和を守ると言うものだ。
一見するとまともな王道アクションゲーム。
ところがこのゲーム。かなりチープな作りで、かつカオスな内容となっていた。
安っぽいCGに、シュールで粗末な世界観、雑なシナリオ。何と言うのか、こう『斬新なゲームにしようと思ったら方向性を見失った』ような感じ。
どれもこれもが浅い作り込みで、『和洋折中にしようとしたら生ゴミになった料理』とか、『自らクソゲーになる事で他を高めてくれる自己犠牲の鏡やぞ』『毒にも薬にもならないが下剤くらいにはなる』とか『クソゲー実況者にとっては楽園』とか大好評だった。
魔法とか妖精とか居る異世界のはずなのに文字とかバリバリ日本語だったし、文化とかそういうのも現実世界染みてるというか、俗世と同じなのも世界観のチープさに拍車をかけていた。教室とかまんま日本の学校の風景だったし。
宣伝のPVが、なまじ面白そうな雰囲気だったのも良くなかった。CMと実物の落差に『詐欺広告を見抜けない方が悪い』とかいう苦しすぎる弁護もあった。
キャッチコピーがまた斬新で、『誰も傷つかない! 誰も不幸にならない! 安心して幸せになれる理想郷がここにある!』となっており、戦闘システムのあるアクションゲームでそれはどうなんだとか思ったもんだ。優しい世界なのは好きだけどな。
まあ、総評としては、クソゲーと呼ばれるのも妥当な出来だ。
だが、このゲームにはコアで熱烈なファンが一定数存在した。
そう、一部の選ばれた精鋭達の心を掴んで止まない要素があるのだ。
それは、登場キャラごとのルートシナリオ。
ほぼ全ての登場人物に好感度が存在しており、一緒に戦ったり休日に遊んだりするとどんどん親密になれる機能があった。そして、一定以上の好感度によってストーリーがルート分岐するのだ。
そう、ぶっちゃけ言えばギャルゲーだ。巷では『アクションゲームモードもあるギャルゲー』という栄誉(?)を授かっていたくらいだ。
イチャラブイベントのムービーやCGを集めるために何周もしたっけなあ。
そんなパラファンには、いわゆるライバルキャラ、悪役が居た。
「マジか······」
その悪役キャラは今、目の前の鏡に困惑の表情を浮かべて立っている。
そんな見覚えのある悪役に、俺はどうやら生まれ変わったかなんかしたらしい。
そう、かませ犬の悪役に······『イルス』に。
お疲れ様です。次話に続きます。