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【劣等勇者】〜魔力消費量が大きすぎるチートスキルは使いものにならないと思われ追放された俺、その後、自分の魔力が無限にあったことに気づいた件について〜

作者: あおいろ

[カウントダウンイセカイタイム]PV1000突破記念作品(本編とは何の関係もありません)

俺、優樹(ゆうき)は、何の前触れもなく、クラスメイトと共に異世界に転移してしまった。

本当に突然だ。授業中、謎の光が俺たちの教室に現れ、気がついたら城の中にいた。

その目の前には王座がある。


「おい、これどうなってるんだよ…」


一人のクラスメイトがそんなことを言い出すと、周りがざわつき始める。そんな中、俺はよくラノベで読んだことのあるシチュエーションにワクワクが止まらなかった。

ここは異世界なんだ。

俺はここで魔法やスキルを使って、魔王を倒す勇者になれるのかもしれない。

そう考えると、笑みが零れてくる。

クラス委員長である雫夏(しずか)がクラスをまとめるように話し始める。

うちのクラスの委員長は、この学校随一の美女と呼ばれる程の美しさ、カリスマ性を備えている女性だ。そんな彼女に好意を寄せる男は山ほどいる。


「みんな、静かに。誰か来るわよ」


雫夏がそう言うと、王室であろう場所の門が開きだした。そこから現れたのは、王冠を被ったおじいさんだった。誰がどう見てもあれは王様だ。

よく見る王様キャラのテンプレ型かよ。

俺はそう思った。


王様が玉座に座ると、話し出した。


「ワシはこの国の王、ヴェルツじゃ。突然の申し出ですまないが、そなたたちはこれから魔王を倒す勇者となってもらいたい」


来たー!これが俺が求めていたものだ。

俺は内心とてもウキウキした。


「この国は今や魔王に支配されたようなものなのだ。このままでは、この国どころか、この世界が破滅してしまうかもしれない。そこで、勇者になれる素質があるそなたたちをこの世界に召喚したのだ」

「ちょっと待てよ」


そう言い出したのは、クラスの問題児である徹哉(てつや)が話し始めた。

徹哉は陰キャをよくいじめるような奴だ。

もちろん、ラノベなんか読んでいる俺もいじめの対象になっている。

ノートを破かれたり、机に落書きされたりはしょっちゅうだ。

そんな徹哉だが、零夏が好きで、狙っていると噂されている。

俺はそんな噂を聞いて、「無理だろ」と心の中でそう言った。


「勝手に召喚されて、いきなり魔王とやらを倒せってか?それはお前人が良すぎるんじゃねぇのか?せめて対価となる報酬くらいは貰わないと困るぜ。なぁお前ら」


王様に対しての口はなっていないが、こいつの言っていることは間違っていない。俺は別として。

そして王様はそのことについて答える。


「もちろん、何も報酬がないわけではありません。魔王を倒していただければ1人当たり金貨100枚。そちらの世界での1000万円を渡します。」


その言葉に、再びクラスメイトはざわつき始める。

「え、嘘、1000万円?」そんな言葉が飛び交っている。

これを雫夏がまた静める。

───────

話は変わり、王のそばにいる侍女であろう人が話し始める。


「それでは、今から皆様には、勇者としての素質があるのか、スキルを鑑定させていただきます」


おぉ、ついにスキルか。一体どのようなスキルが貰えるのだろうか。俺は心の中でそう思った。


「それでは、先頭の女性から」


先頭の女性とは零夏であった。本人は驚いた顔をしていたが、冷静を装い、侍女の方へ近づく。

侍女は、水晶玉のような物を取り出した。きっとこれが、スキルを鑑定する何かなのだろう。


「この玉に、手をかざして下さい」


そう侍女が言うと、零夏は手をかざした。すると、水晶玉が光り、少し経つと元の色に戻った。


「心の中で「ステータス」と唱えると、自分の前にステータスを表示出来ます」


零夏は心の中で「ステータス」と唱えると、零夏の前にホログラムのような何かが現れた。そこには、何かが書かれていた。


名前 レイカ

職業

スキル 治癒の加護(最大レベル)

ステータス

攻撃 1

防御 1

速度 1

魔法 1


全てのステータスが1になっているが、これは全員が経験値を稼いでいないからだろう。

これに感化されたクラスメイト達は、次は俺、次は俺と言わんばかりに水晶玉に手をかざそうとした。

俺は1番最後に鑑定してもらおうとした。

───────

全員の鑑定が終わろうとしていた。

残るは俺だけだが、スキルを鑑定してもらったクラスメイト達は全員喜んでいる顔をしている。

これは全員が上位クラスのスキルを貰えるということなのだろう。


そう思い、ついに俺の順番が来たので、俺は水晶玉に手をかざした。そして、「ステータス」と唱える。


名前 ユウキ

職業

スキル 生成の加護(特殊タイプ)

ステータス

攻撃 1

防御 1

速度 1

魔法 1


生成の加護?しかも特殊タイプ?すごいチートスキルなのかもしれない。俺は詳細を知りたかった。

ダメ元で、心の中で「スキル詳細」と唱えてみた。 すると、奇跡的に詳細設定が出てきた。

俺は確認する。


〇生成の加護(特殊タイプ)

生成の加護は、あらゆる物を生成する魔法である。剣や鎧、岩でさえ、イメージ通りに作ることができる。特殊タイプともなると、炎や水、風などの[属性]も生成出来てしまう。しかも、ステータス向上などのバフやデバフまで、何もかも使えてしまう。しかも制限無し。しかし、その分魔力消費量も伴って大きくなってしまう。通常魔力消費量50の所がなんと、50000も消費してしまう!


え?50が50000…?

1000倍の消費量ってことなのか…?

嘘だろ…?


「おいおい、お前とんでもないスキル引いちまったなぁ」


徹哉が嘲笑いながら俺に言ってきた。追い討ちをかけるように徹哉は話し続ける。


「俺たちの魔力総量は多い方なんだってさ。多くても1000くらいしかないみたいだけどな」


こいつは間違いなく俺のことをバカにしてる。


「そしてお前は魔力消費量が50000って、使えないつってことじゃねぇか!」


笑いながら、こいつはそう言ってくる。俺はこいつに対する怒りと、スキルに恵まれなかったことに対する悲しさでどうにかなりそうだった。

そんなことを考えていると、徹哉が俺の手を持ち上げて話し出した。もちろん、ここにいる全員に聞こえるような声で。


「こいつのスキルさぁ、魔力消費量が50000らしいぜ。とんだ外れスキルを引いたもんだなぁ」


徹哉の声に、クラスメイトは笑いだした。俺は怒りが更に湧き上がる。

そんな時に、王様が俺に話しかける。


「おい貴様、それは本当か?」

「…はい」


今、俺[貴様]って呼ばれたか…?さっきとは対応が全く違った。


「貴様のような勇者は、1つ隣の町でレベルを上げると良い。事実上スキルが使えないとなると尚更だ。隣の町までの資金はこちらで渡そう」


嘘だろ…そんなこと言われるなんて…こんなの追放じゃねぇか。

こんなの酷すぎるだろ…

そんな俺の様子を見て、徹哉は笑っていた。


「聞いたか!?こいつ追放されるってよ!劣等生すぎて!あはははは!」


クラスメイトの多くが笑いだした。俺は怒りとか、そんなことがもうどうでもよくなった。

呆れだ。そんな様子を見て、徹哉は言う。


「おいおい笑うなよ。可哀想だからさぁ。そうだなぁ…なんか異名でも与えようぜ!劣等生で勇者だから、[劣等勇者]!良いだろ!」


俺はもう、こんな空間に居たくなくなった。今にでも資金でも何でもすぐに貰って、この城から出て行きたい。

いや、もういいわ。もう出てってやる。

そうして俺は城の門まで進む。徹哉は話しかけてきた。


「おい、本当に行くのか?スキルが使えないレベル1が行ったところで死ぬだけだって。戻れよ。」


俺はそんな言葉を無視して、王室を出た。

俺は城の出口を探している。無駄に広いこの城に、嫌気がさす。


「構造的に、こっちが出口だと思うわ」


俺が困っていると、後ろから俺に話しかけてくる声が聞こえた、俺は振り返って礼をする。


「あ、ありがとうございま…って、あなた、」


そこにいたのは零夏だった。俺が王室から出た時からずっといたのか。


「えぇと、どのような用事でここに…」

「あなたについて行くのよ」


俺について行く?何故だ…?


「あなた一人で資金も無しで隣の町まで行くなんて、無茶でしょ。実質的にスキル無しのレベル1なんだから」

「それはそうですが、あまり僕のことを気にしないでください。クラス委員長が僕みたいな陰キャのためだけについて行くなんて、おかしいですよ…」

「あーもう。焦れったい!ついて行くって言ってるんだからそうしなさいよ。」


後ろを向かれたせいでうまく見ることが出来なかったが、頬が赤くなっていた気がした。そんなことを気にしていたら、零夏から距離が大きく離れていた。


「ちょっと、待ってくださいよ」


俺は零夏に置いて行かれそうになったのでついて行く。

───その頃王室では───

「零夏がなんであんな陰キャ野郎について行くんだよ」


徹哉は苛立っていた。

他の男子からも元気が無くなっているようだ。

王様は言う。


「まぁ良い良い。一人減ったところで大した問題にはならないであろう」

「そういう問題じゃないんすよ」


そんなことを徹哉が言っていると、侍女が扉を開けて話し始める。


「これから勇者様方には、それそれのスキルに適正のある装備を渡しますので、ついてきてください」

───────

俺達は城下町に出てきた。城下町の誰もが俺の方を見てきた。

いや、正確に言えば、零夏を見ていたのだろう。

あんた、異世界でもモテモテなのかよ。

俺達が歩いていると、ガラの悪そうな男達が零夏の前に立つ。


「おいそこの嬢ちゃん、見たところ初級冒険者だろ。どうだ?俺たちと一緒にモンスター討伐にでも行かないか?俺たちこれでも上級冒険者なんだよ」


初級()()()だ?俺らは勇者だっての。

そう言いたかったが、俺みたいな人種は、すぐそういうことを言わないのだ。そう思っていたら、


「いや、私たち勇者だから。ねっ」


零夏は「ねっ」っと言うタイミングでこちらを見てくる。

同じく、ガラの悪い男達がこちらを見て睨んで見てくる。

何か嫌なことでも言われるかと思ったが、俺は見られていきなり笑われた。

そして男達は俺に言ってくる。


「こんな貧弱な男が[勇者]とか、面白い冗談だなぁ!」

「こいつが本当に勇者だったら、[劣等勇者]とでも名付けようぜ!あはははっ!」


その[劣等勇者]ってワード流行ってるのか?俺は心の中でツッコミを入れていた。

そう思っていると、男の一人が俺を突き飛ばして零夏に話しかける。

そのタイミングで、付近の人々全員こちらを見てきた。いつの間にか注目を集めていたようだ。


「こんなゴミ放っておいてさ、俺らと行こうぜ?」

「ちょっと、やめてください…」


あー。こいつら俺を突き飛ばしやがった。何かし返したいとは思ったが、スキルすら持っていない俺には何も出来なかった。

もし使えたなら、どうなっていたんだろうな…

例えば、こいつらの頭上に大岩でも想像したら出てきたりしたのかなぁ。


そして男達の上には大岩が現れた。


そうそう。こんな風にな。

…って、え?


そんな反応をしていた俺を差し置いて、大岩は男達の頭に降った。

男達は頭に手を当てて悶えていた。そしてすぐにこちらを見てまた睨んできた。

いやいや、今のは俺じゃないのに…だって俺はスキルが使えなくて…


「…お前、俺達に喧嘩売ってんのか?」

「い、いや、今のは僕じゃ…」

「言い訳してんじゃねぇよ!」


男の一人が俺に殴りかかろうとしてきた。


「やめて!」


零夏はそう言うが、男は止まろぅとはしなかった。

これは無傷では済まなさそうだな…俺はそう思い、目を瞑ってやられる覚悟を決めた。

しかし、いくら経っても俺は痛みを感じない。

もしかして、俺の防御力が高いのだろうか。一瞬そう考えた。

しかし、ステータスが1であることを知っていたため。その考えは無くなった。

じゃあ一体何故なのか。俺は恐る恐る目を開ける。

そこには、男の殴りかかろうとしていた拳を指1本で受け止めた剣士がいた。

いかにもな強キャラ感が凄かった。しかも高身長イケメンときた。

俺はこの剣士に助けられたのだ。

謎の剣士は男達に向かって剣を構えて言う。


「この男は私の興味を引いた。勝手に傷つけられては困る。今逃げるのなら、見逃してやろう」


男達は怖気付いたのか「クソッ。覚えてろよ」と、あるあるなセリフを残して路地裏に消えていった。


「大丈夫ですか?」


謎の剣士はそう言いながら、俺に手を差し伸べてきた。

俺はその手を掴んで立ち上がった。


「ありがとうございました」


俺はそう言うと、零夏がこちらに来た。


「ユウキ君、大丈夫?」

「はい。この通り」


俺はそう言うと、謎の剣士は真剣な顔で俺に話しかけてきた。


「確認するけど、君があの大岩を出したってことで良いんだよね?」


剣士は男達に降った大岩を見ながらそう言った。

俺はそれを否定する。


「い、いえ。多分他の冒険者が助けてくれただけかと…」

「いや、あの大岩の魔力を解析したが、君の魔力と一致した」


いつ俺とあの大岩を解析したんだこの男…

そして、俺が大岩を出したということになってしまったが…

何故スキルが使えたのだろうか。俺は疑問に思った。


「君たちに着いてきてもらいたい場所があるんだ。来てくれないか」

「わ、私もですか…?」

「えぇ。私には、あなたにもかなりのポテンシャルがあるように見えました」


零夏は少し嬉しそうな表情をした後、俺の方を見て言う。


「どうしますかユウキ君。隣町まで行くのか、この人に着いていくのか」

「まぁ、助けてくれた恩もありますし…着いて行きましょう」


剣士は少しほっとした顔をしています。

剣士は2人の近くに寄る。

きっと転送魔法か何かを使うのだろう。

そう思った俺は言う。


「でも、あまり期待しないでくださいね。先程の力はおそらくまぐれだと思うので…」


俺はそう言って保険をかけたが、


「はは、謙遜なさらないでください。あなたの力は私がしっかり目の当たりにしましたので」


俺は余計に不安になってしまった。しかし、零夏さんは何故かウキウキだった。

やっぱり、イケメンといると女性というのはこうなってしまうのだろうか。


「では、転送致しますので、私の傍にいてください」


すると、地面に魔法陣が現れた。その魔法陣から謎の光が現れた。

俺と零夏さんは眩しさに目を瞑った。

───────

「着きましたよ。お二人方」


剣士のその声で目を開くと、俺達は竹林のような場所にいた。

異世界にもこのような場所があるのか。と、俺は関心した。零夏も俺と同じような反応をしていた。

そして、俺達の目線の先には、家があった。

それも、仙人が住むような家である。

あの家の周りだけ、他の場所と空気感が違った。


「師匠!町中でとある2人を見つけて来ました。かなり興味深い人たちで、是非師匠に見て頂きたいのです」


師匠…っていうことは、やっぱり仙人のような方が…!


そう思ったが、家から現れたのは、この剣士の兄のような年齢の男であった。

もちろん、この男もイケメンであった。

謎の男は言う


「見て欲しいって、どんな奴なん…だ……って、お前…」


謎の男は俺の方を見てそんなことを言い出した。

俺、驚かれるようなことしたか?いや、それとも見た目が変なのか?

そんなことを思っていると、謎の男が俺に話しかけてきた。


「…お前、その魔力総量…何者だ」

「やはりですか。…失礼ですが、あなたの魔力総量がどれくらいあるのか、教えていただけますか?」


剣士さんがそう言いながら俺を見てくる。

魔力総量?確か平均1000くらいで…

そういえば、平均しか聞いていなかったけれど、自分の魔力総量は見ていなかった。


「零夏さん。魔力総量ってどのように確認するのでしょうか」


俺が零夏さんにそう言うと、零夏さんは驚いた顔をしていた。

確認してなかったのかとでも言いそうな顔であった。

「えぇと、ステータスを開いてから、ホログラムを下にスライドしたら、他のステータスが出てくるよ。確か最後の項目が魔力総量だったはず…」


ステータスって、あの4つ以外に存在したのか。だから徹哉達も自分の魔力総量を確認出来たのか。

そう思いながら、俺は自分のステータスを再度確認した。


ステータス

攻撃 1

防御 1

速度 1

魔法 1

技術 1

回復 1

魔力総量 (無限)


なるほど、上7つが「1」で魔力総量が「∞」か。

まぁ経験値が少ないからこれが妥当なステータ…


「え?」


俺はここでようやく気がついた。自分の魔力総量が無限にあるということに。


「その反応…やはりお前、魔力総量が尋常じゃないな」


尋常じゃないどころか、無限という表記になっているのですが。

しかし、無限なんて存在するのか、俺は疑わしかった。

けれども、さっき生成された岩の件もあることから、俺は無限とはいかなくても、おそらく魔力総量が50000以上あることは理解した。

とりあえず、表記に書いてあるとおりに、俺は無限であることを話した。


「…魔力総量、無限ですね…」


言うまでもなく、ここにいる3人は全員驚いた顔をしていた。

「無限」なんて、俺でも驚く。


「やはり…!師匠!この方は、魔王を打ち倒す力を有している可能性があります。」

「あぁ。しかしまずいな…」


まずい?何がまずいのだろうか。強大な力は危険ということなのだろうか。

そんなことを思っていたら、俺と零夏の視界から謎の男、そして剣士が姿を消した。

あの2人はどこへ行ったんだ…?そう思ったが、風を感じた俺達は後ろを向くと、後ろに2人はいた。


「いつの間に…!」


零夏はそう言った。俺も同じことを思っていた。一体この人達は一体何者なのだろうか…

そう考えていると、2人は剣を構えた。

剣士さんはともかく、師匠と呼ばれていたあの人、さっきは剣を持っていなかったのに…

まさか、この一瞬で家の中から剣を取ってきて、俺らの後ろまで周り込んで来たのか。

化け物じみた速さであった。

男の方は言う。


「来るぞ」


その瞬間、上から人影が見えたと思ったら、俺達の目の前に落ちてきた。

煙が舞ったが、すぐに晴れる。

そこで姿を表したのは、いかにもな敵キャラであった。

手には大鎌を持っていて、禍々しいオーラが滲み出ていた。


「このオーラ、魔王の傘下、[三魔権]の内の1人ですね」


三魔権?それは一体何なのだろうか。

色々予想はつく。きっと魔王からの手先で、傘下、つまり幹部のようなものなのだろう。

そんなヤバい奴らがなんでこんな所に来るのだ。


「魔力探知をしていたら、いきなりこの世界にとんでもない魔力総量の奴が現れたと思って来てみたが…まさかあんたにも会えるとは思っていなかったよ…先代魔王を倒した勇者!!」


その発言に、俺と零夏は驚愕した。

この男が…かつて魔王を倒した勇者…だと言うのか…!


「なんだ?懲りずにまた全員俺にやられたいのか…?」


先代勇者がそう言うと、魔王軍幹部は笑いだした。


「あんたに、俺と戦うだけの力はあるのか?俺は知っているんだ。お前は先代魔王との戦いで永久的にステータスが弱体化する呪いがかけられたってな!」


呪いだって?それじゃあ、先代勇者が魔王を倒すことは、出来なくなってしまったということなのか…?

続けて魔王軍幹部は話す。


「ずっと隠れていたんだろうけど、良かったわ。そこの魔力総量がバケモンの男のおかげで、見つけることが出来た」


まさか…俺のせいで見つかってしまったのか…?

俺は先代勇者に言う。


「す、すいません。俺のせいで…」

「気にするな。どっちみち、もうすぐでこの場所もバレていた」


俺はそんなこと言われたが、申し訳ない気持ちで溢れていた。

そんな時に、剣士さんがさっきの高速移動をして魔王軍幹部の懐に潜り込み、切りこもうとしたが、避けられてしまい、反撃を受けてしまった。

あれだけ速いのに…これって負け試合ってやつなのか…?

俺のせいで、全員やられてしまうのか…?


「皆さん、ごめんなさい。僕のせいで…」

「いや、優樹君のせいではないですよ。これは仕方のないことです…」


そんなことを言う零夏の体は恐怖で震えているように見えた。


「…君」


突然先代勇者がこっちを向いて話しかけてきた。俺も先代勇者の方を向いた。


「自分のせいだと思っているか…?」

「…はい」

「じゃあ、責任は取ってもらわないとな」


そう言うと、先代勇者は魔王軍幹部の方を見る。

俺に、戦えと言っているのだろうか…?

さっきチートスキルを自覚したばっかりな俺に倒せるのだろうか…

…いや、今この場で動けるのはもう俺だけだった。

たとえ不慣れでも、チートはチートだ。

使うことが出来ればそれだけで勝ちの可能性は十分にあった。

俺は足を踏み出す。それに幹部の魔人は気づいたようだ。


「次はお前か。お前の魔力総量はとんでもないが、お前は何が出来るんだ?」

「皆さん、離れていてください。絶対に倒します。」


そう言うと、零夏以外の2人は離れた。

零夏は離れる前に言う。


「死なないでくださいね…」

「もちろんです」


戦場は2人だけとなった。

幹部の魔人は言う。

「さぁ、始めようか」

「先手必勝!防御上昇(∞)(フル・ガード)!」

鎌鼬(かまいたち)!」


そんなことを言いながら鎌を俺に振ってきた。

それに俺は当たってしまった。

しかし、その鎌は俺に一切ダメージを与えることは出来なかった。

すると俺の体からは謎のオーラが出始めてきた。

どうやらスキルの使い方は合っているらしい。

ちなみに、今使ったのは、防御を無限に上昇させるバフスキルです。

つまり僕にはもう攻撃が効きません。

幹部さんは少し呆然としていた、ように見えたが、すぐに調子を取り戻して言う。


「…ぼ、防御力が上がっただけじゃ()()は出来ないんじゃな…」

攻撃上昇(∞)(フル・アタック)!」

「え…?」

「俺はもうお前の攻撃はくらわないし、お前は俺の攻撃一発で死ぬ。詰みだ」

「詰むの早すぎないか!?チートにも程があるだろ!」


幹部さんはそうツッコミを入れたが、魔王の幹部ともある人物が弱いわけがない。最初から全力で迎え撃つ必要があると考えたのだ。

しかし、幹部はかなり困った顔をしていた。

何か、そんなに困るようなことはしたのだろうか。

ただのステータスアップじゃないか。


「攻撃してこないのならこっちから行きますよ。生成[火柱](ブレイズ)!」


すると、幹部の魔人の周りには無数の小さめな魔法陣が現れた。そして数秒経つと、次々と魔法陣から火柱が出始めてきた。


「クソッ!」


幹部の魔人は火柱を次々と避ける。俺は逃がさんとばかりに、次々と攻撃を生成していく。

生成[風刃](スラッシュ)!生成[雷撃](ショックアウト)!」

───────

しばらくこんな攻防が続いていた。

…俺の一方的な攻撃を幹部の魔人が避け続けているだけであるが。

すると、やっと俺の攻撃が当たったらしい。

もちろん、攻撃力は∞なので一発で倒すことが出来た。このスキル最強すぎではないか…?

やられかけの魔人が話し始める。


「くっ…たとえここでお前が俺に勝ったとしても、あと2人の幹部、そして魔王様が、きっとお前を倒す…覚悟していろ…」


そう言うと、魔人さんは倒れてしまった。

一発しか当ててないのに倒してしまう罪悪感、そして、魔王軍の幹部の1人を自分1人の手で倒すことが出来たことが嬉しかった。


「あー。やっと終わったか」


先代勇者様が近くから現れた。

この戦闘をずっと見られていたらしい。

そして、その後に続くように剣士さんと零夏さんが現れた。

零夏さんは走って俺の所まで来て、肩を譲りながら言う。


「大丈夫でしたか優樹さん!魔王の幹部を相手に…!」

「あ、あぁ!案外普通に倒せましたよ!」

「[優樹]というのか…」


先代勇者は俺にそう言った。

俺は頷いた。


「お前、中々のポテンシャルを持っているみたいだな。どうだ。そこの女と共に、強くなりたくはないか?この俺…先代の勇者が直々に指導してやる」


そして、先代勇者は零夏の方を見た。


「見たところ、治癒の加護持ちなのだろう」

「は、はい、ですが、優樹君のような凄い力は…」

「[加護]が与えられているだけで相当凄いことだけどね…。とりあえず、君達には、現役の魔王を倒せるだけの素質があるとみた。正直、1ヶ月くらいの修行でその(レベル)に達することが出来るだろう。」


1ヶ月で魔王討伐レベル!?早すぎやしないか…?

しかし、そんなに直ぐに魔王を倒せるというのは素晴らしいな。


「もちろん、修行はかなりキツイですよ」


剣士さんがそう言うと、俺は苦笑いを浮かべた。


「零夏さん。どうしますか?」

「私達が召喚された理由って、魔王討伐でしょう?ここで1ヶ月修行をつけさせてもらえるだけでそのレベルまで達成出来るなら、良いと思います」

「よし、先代勇者様、よろしくお願い致します」

「あぁ。だがその前に、色々聞きたいことがある。まずは家の中で話しを聞かせてくれ」


そうして、俺と零夏さん。…ついでに剣士さんを含めての地獄の1週間が始まったのであった。


───1ヶ月後───


私はとある学校の副委員長です。

性別は男です。

1ヶ月前、魔王を討伐するために、私達は勇者として異世界に召喚されたらしく、私達は1ヶ月、死ぬ気で魔王討伐を成すための修行を…していませんでした。

もちろんちゃんとやっていた人達もいました。ほとんどがそうでしたが、やっていない人達もぼちぼちいたのです。中には2週間くらいで諦めた人もいました。


「うめぇなぁ!ここの城下町のクレープ!何使ってるんだろうなぁ!」


この1ヶ月、何も修行せずに今、クレープを食べているこの男は徹哉君。クラスの問題児である。

当たりスキルが出たからと、大した修行もしていないのだ。

しかし、この男はクラスのいじめっ子なのだ。

この男は、私には攻撃的な対応をしてこないが、実は1ヶ月前、この男のせいで[劣等勇者]なんて言われてしまった[優樹]という男が消えてしまいました。

私は彼が城から出ていくことを止めることができませんでした。もし止めたりなんかしたら、私がどうなるのかわからなかったからです。

今、優樹君がどこにいるのか分かりませんが、きっとどこかで生きていると私は信じています。

そして、優樹君と共に出ていった委員長の零夏さん。

彼女が居なくなってやる気が無くなった男子が多くいるみたいで、現に修行していない人のほとんどは零夏さんに好意を寄せていた人達であった。


私達は、いつも通り訓練場で修行をしている。

訓練場とは、私達がいた世界で言うところのグラウンドに近い場所であった。その中には、

いつか倒す魔王を倒すその日まで。


「皆さん!午前の練習時間を終わりましょう。一旦城へ戻ってください。また1時間後に訓練場に集まってください!」

「はーい」


クラスのみんなは、委員長が居なくなったことで、副委員長である私がリーダー的存在になってしまったのです。

そして昼食や休憩を済ませ、修行して、寝て、また明日が始まって、これが繰り返されていく。

こんな日々が、今日、終わりを迎えようとしていた。

私は、訓練場に人が居なくなったことを確認したので、私も城に戻ろうとした。その時だった。

クラスメイトの1人が、私の所まで走ってきた。

そのクラスメイトは、私にこう伝える。


「王様の所に、魔王からの手紙が…!」

「なんですって!?」


私を含むクラスメイト達は駆け足で王室まで向かった。

王室に入ると、そこには、先に着いたクラスメイト達と、手紙を読んでいる王様がいた。

私は近くのクラスメイトに事情を聞いた。


「これは、どういう状況ですか?」

「実は私達が着いた頃には、このような状況になっていまして…」


私達が困惑していると、王様は言い出した。


「間もなく、魔王軍がこの城を滅ぼそうと襲撃してくる…。明日だ…。しかし、なぜこんなにも早く…」


王室はざわつき始めた。


「魔王?こんなに早く…?」

「どうするの?ここにいたら私達も…」


不安そうにしていたクラスメイトに、王様は話す。


「今こそ、そなたら勇者方が魔王を打ち倒す時なのかもしれない。勇者方よ。ワシらの国のために、戦ってはくれないだろうか」


クラスメイトは迷わずに答える。


「わかりました!」


そう言っていると、城門を蹴り飛ばすように開ける男が現れた。

徹哉君だった。


「魔王倒すのは良いけどよ。しっかり報酬は準備しろよ」


どれだけ嫌な奴なんだよ君は…

そう思っていると、王様は答える。


「もちろん。約束は守る。さぁ勇者殿!明日の我らが国の運命の為に力を貸してくれ!」


───決戦当日───

私達は、普段から利用していた訓練場を迎え撃つ場に決めた。

本当に魔王軍は現れるのだろうか。

そう思った矢先、空から無数の竜がこちらに向かってくる。竜の背中にはおぞましいオーラを持つ人影があった。

その様子を見ただけで、こいつらが魔王軍であることを理解した。

すると、クラスメイトの1人が話し出す。


「ねぇ、数が多くない…?」


パッと見ただけでも、敵の騎竜兵は100ほどあった。

しかし、勇者(こちら)の数は28…

勇者達(クラスメイト)に不安が走った。

数的には不利であったが、敵の個々の力は私達にはかなり劣っていることが私には分かった。


「皆さん!敵兵の個々の力はそれほどではないです!こちらはチームワークで乗り切りましょう!」


私の声に、クラスメイト達はそれぞれ3,4人のグループを作り出した。

私は、私の言葉がしっかり伝わったことにホッとした。

ホッとしたのも束の間、騎竜兵はもう目の前だ。


「皆さん!絶対に生きて、勝ちましょう!」


戦いが始まった。

クラスメイト達はチームワークで騎竜兵を次々と倒していく。

こちら側の犠牲は今の所0であった。

しかし、単独行動をとっている男がいる。

もちろん、徹哉君だった。

しかし、彼は単独で騎竜兵を10体は確実に倒していた。

話は聞いていないが、実力は確かであった。

そして、私達の作戦は上手くいった。

そう。犠牲者0で騎竜兵を倒しきったのだ。


「や、やった…やりましたよ!」

私の声に、クラスメイト達は喜んでいた。

とても、とても喜んでいた。

数秒経って、上から()()が降ってくるまで。

何かが落ちてきたタイミングで歓声は止み、静まりかえる。

舞っていた煙が晴れていく。そして見えてくる姿で、この人物が誰か一瞬でわかった。

魔王だ。

圧力、覇気、姿、全てにおいて別格であった。


「我は魔王である。…突然だが、お前達に聞きたいことがある」

「な、なんでしょうか…」


私はその覇気に怯えずに、魔王との会話を進めた。


「この中に、「勇者」はいるか」

「…それは、私達の事ですか…?」

「いや、お前達ではない。確かに我らが騎竜兵を死者0で倒しきったことは認めよう。しかし、それは勇者と名乗るには弱すぎる。」

「弱…すぎる…?」

「ふざけるな!」


私と魔王の会話に横入りしたのは、言うまでもなく、徹哉だった。

徹哉君は「弱すぎる」と言われたことに腹が立ったのか、スキルを使って、剣で攻撃しようとした。

徹哉君のスキルは、[剣王の加護(最大レベル)]というもので、主要技としては、[剣王の太刀(エクスカリバー)]という、自分の攻撃ステータスの1000倍の攻撃力を剣に乗せて攻撃する技だ。

徹哉君は剣王の太刀で攻撃した。その攻撃は当たったが、わずか1mm程しか刃が通らなかった。


「嘘…だろ…」


あれだけ凄いスキルを持っている徹哉君でさえ、この威力であった。絶望している徹哉君に魔王は言う。


「この我に傷をつけることが出来るとはな。[弱すぎる]と言ったことは謝罪しよう。しかし」


魔王は徹哉君を覇気でぶっ飛ばした。

そして言う。


「この程度の力で、我を倒す気でいるとなれば、話は別だ」


強すぎる…私達の努力が、一瞬で否定されたような感覚がした。

今のままでは確実に勝てないと瞬時に考えた私は穏便に済ませようと、話を進めようとする。


「…あなたは私達を「勇者」だとは思っていないのですよね…?」

「あぁ。そうなるな」

「では、あなたの言う勇者とは、一体誰のような者のことを言うのですか…!」

「…お前達が現代の勇者だとしたら、私が求めている者とは「先代勇者」。そして、もう1人いる」

「もう1人…?」

「我が聞いた話だが、お前達の国ではこう呼ばれているらしい、[劣等勇者]と」


その言葉に、クラスメイトは驚愕した。

そう。その言葉は、あの日徹哉が「優樹(ユウキ)」に付けた異名だったのだ。


「我が求める勇者は、その2人だけだ」


すると、徹哉君は笑いだした。


「おい魔王。その劣等勇者って存在、あんたはいつくらいから知った?」

「人間界の時間で言うと、1ヶ月といったところだ」

「あっそ。言っとくけど、あいつはスキルも使えない。ステータスも低いで、何も強くなんかない。ただの[雑魚(ザコ)]なんだよ!」


徹哉君の今の発言に、流石に我慢の限界がきた。

こんな状況でもユウキ君のことをバカにするというのか。

私は徹哉君に言った。


「おい!優樹君のことを馬鹿にするのはもうやめ…」

「本人の前で雑魚呼ばわりか…徹夜(おまえ)は変わらないな」


そんな声が、後ろから聞こえた。私は後ろを振り向いた。

そこに居たのは、あの人城から消えた、優樹君、そして、零夏さん。

間違いなく2人であった。

その後ろには、謎の男2人がいたのだ。


「ユウキさん…!レイカさん…!」

「1ヶ月振りですね。副委員長」


優樹君がそう言うと、周りの様子を確認していた。

状況把握なのだろうか。すると、いきなり優樹君は零夏さんに話しかけた。


「零夏。全員に治癒の加護を」

「分かってる。詠唱無魔法(治癒魔法)やってるから集中させて!優樹」

「零夏…?優樹…?」


2人が呼び捨てで呼びあっていることにクラスメイトは全員驚いていた。

その間に、零夏さんは空間一帯の全域にいた(魔王を覗いた)全員に治癒魔法をかけた。


「うぉ、なんだこの治癒…力が湧き上がる感じがする!」

「体から高揚感が湧き上がる…!」


クラスメイト達はそんな反応をする、バフ効果が付与された治癒魔法なのであろう。流石零夏さんだ。

治癒魔法を使い終わると、優樹君を除く3人は魔王から離れた。

魔王が話し出す。


「お前達が、[先代勇者]と[劣等勇者]か?」

「あぁそうだ。なんだ、俺達のこと待っていたのか。直接来れば良かったのにな。」

「おい!」


後ろから謎の男が優樹君に話しかける。


「優樹!お前はこの1ヶ月で[三魔権]を全て壊滅させたんだ。誰よりも自分を認め、そして魔王を打ち倒せ!」


優樹君は頷く。

三魔権?2人は何を話しているのだろうか。

そして謎の男は魔王の方を向く。


「[先代勇者]じゃない方が相手じゃなくてガッカリか?安心しろ。俺よりも劣等勇者(こいつ)の方が全然強い。全力で行かないとやられるぞ」

「気遣いか。気にするな。はなからそのつもりだったからな」


謎の男はそう言い残すと消えた。

どのようにして消えたのだろうか。そのような疑問が残るが、状況的に、今は[2人の空間]にするべきなのだろう。そう判断した俺はみんなに言う。


「みなさん!とりあえず一旦ここから離れましょう!」


私はそう言って、クラスメイトは離れていったが、1人だけ言うことを聞かなかった。


「俺が…あのクソ雑魚陰キャよりも…下だって言うのか…?」

「徹哉、離れていてくれ」


優樹君は優しくそう言ったが、徹哉君は言うことを聞かずに優樹君に攻撃しようとした。


「ふざけるなぁー!」


徹哉君は優樹君に向かって剣王の太刀を使おうとした。


生成[大岩](クリエイト・ロック)


そう言うと、徹哉君の前には大岩が現れた。徹哉君は構わず切りかかろうとした。しかし、徹哉君の剣は大岩の硬度に負け、刃が折れた。

徹哉君は驚いた顔をしていた。


「そんな…俺の剣が…俺のスキルが…」

「…徹哉、離れていてくれ」


同じ言葉を言われた。

そうして、徹哉君はやっと2人の空間から離れた。

私は優樹君に話しかける。


「あなたに、一体どのような力があるのかは分かりませんけど、倒せますか?」

「頑張ります」


彼のその発言には、勝てる自信がないということなのだろうか。

そう考えたが、私は彼を信じ、その場を離れた。

───────

俺は今、魔王と対峙している。

劣等勇者である、俺が。

本当に、人生って何が起こるのか分からないもんだと思った。


「行くぞ、勇者!」

「来い、魔王!」


魔王から、無数の闇の玉が放たれた。

俺はいつも通り、防御上昇(∞)を使った。

しかし、いつもの[オーラ]が出なかった。

嫌な予感がした俺は、闇の玉を受けきれない可能性を考えた。


生成[大岩](クリエイト・ロック)


俺は闇の玉との間に大岩を生成し、それを盾とした。

攻撃は防ぎきれたが、[オーラ]が出ないままであった。

仮説だが、魔王の前では、バフ効果を付与出来ない可能性がある。俺は色々試してみることにした。


生成[剣]ソード


俺は剣を作り出し、この剣に「付与[攻撃上昇(∞)]」と「付与[防御上昇(∞)]」を付与した。

すると、オーラは出てきた。

なるほどな。[自分に]バフ効果をつけることは不可能ということなのかもしれない。

後は、魔王の技を把握し、すぐに対策を考えるしかない。

闇の玉の攻撃は、数が多い代わりに威力は大岩程度でも全て防ぎきれるレベルであった。

多少の被弾覚悟なら突撃で距離を詰めるくらいは出来るであろう。

次に闇の玉の攻撃が来たら、攻撃のチャンスとなるだろう。


しかし魔王は、また別の攻撃を準備していた。それぞれの指先に闇のエネルギーをチャージしているようだ。

これは予想だが、溜めた力を高速で放つ技なのではないか。

だとしたら、今の俺に出来る対策は何があるのだ。

考えろ…俺…

さっき出したように大岩で…!いや、あの大岩の硬度では貫通してしまうかもしれない…

…だったら…硬くすればいいのでは…?

そう思った瞬間に、俺はすぐ行動に移した。

生成[大岩](クリエイト・ロック)、硬度上昇(∞)硬度上昇(∞)(ソリッド・オーバー)

俺は硬度の硬い大岩を生成した。

そして魔王はチャージしていたエネルギーを、放出した。

俺の予想通り、溜めたそれぞれのエネルギーは、それぞれ小さいビームのように発射されたのだ

もちろん、これも耐えることが出来たのだ。無限硬度、そして大岩の汎用性の高さを思い知らされた俺であった。

もしかしたら、大抵の攻撃はこれで行けるのではないか…?そう思ったが、魔王はいきなり、パワーを全開にしだした。

なぜいきなりそんなことをしだしたのか、俺には理解が出来なかった。


「なぜいきなり全開で戦いだすんだ!」


俺は問いかける。魔王はそれに対して答える、


「貴様、考えながら行動するタイプだろ?」

「…そうだな。そういう風に先代勇者に叩き込まれたんでな。」

「つまりだ。このまま初めて見せる攻撃をし続けても、お前は何かしらの方法で瞬時に対策を練る。そして我の魔力量はどんどん減っていく。消耗戦となってしまうのだ。つまり、消耗戦した状態よりも、万全な状態で必殺技の精度を極限まで上げた方が、勝率が高いというわけだ」


俺はその考え方が少し引っかかったが、作戦としては良い作戦であると思った。

しかし、相手は必殺技を魔力総量がほぼ全開の状態で放ってくるということだ。

こっちも、全力で行かないと、負けるかもしれない。

お互い、最後の攻撃が始まろうとしていた。


「殺…死…倒…苦…痛…折…闇…毒…黒…辛…」


魔王は詠唱もしっかりと言うことで、本当に極限の状態の必殺技を打とうとしていた。

俺だって負けてはいない。


生成[剣](ソード)!生成[四大元素](エレメンタル)!合成(ユナイテッド)!付与[攻撃上昇(∞)](フル・アタック)!付与速度上昇(∞)(フル・スピード)!付与[防御上昇(無限)(フル・ガード)付与[硬度上昇(∞)(ソリッド・オーバー)]!付与[刃度上昇(∞)(ブレード)]!」


俺は自分の可能な限りありとあらゆる付与魔法を付けた最強の剣、[死剣(デスソード)]を作った。

この剣で、魔王の大技を受け止めてから、魔王をこの剣で倒しきる。


「フハハハハハ!我が今まで作った中で1番精度が高い[もの]が完成したぞ!貴様に受けきれるか?」

「当たり前だ。[魔力総量無限]の恐ろしさを教えてやるよ。」


俺はそういうが、1つ気がかりがあった。

それは、必殺技のことではない。

多分、魔王の必殺技は受けきれるだろう。

しかし、魔王が必殺技を撃った後、瞬時に勝てないと判断し、逃げる可能性があったのだ。

俺は、相手を逃がさない結界魔法の作り方を知らない。

その上、自分に速度上昇のバフをつけることは出来ない。


どうするべきなのだろうか。

………


「くらえ!勇者よ!」

「…これしかないか」

「[言呪隕石(闇)(メテオロスト)]!」

魔王がそう言った時、俺は上にあるであろう[何か]の影に隠れさせられる。

俺は上を向いた。

隕石が降ってきていた。

おそらく、これがこの世界に落ちたりでもしたら、崩壊するのではないのか…

それほどまでに、戦いへの執着が凄いというわけか。

俺は死剣で隕石をみじん切りにした。

何とか衝突して国が崩壊するのは避けた。

しかし、そこには魔王の姿はなかった。

───────

「ふっ、この我の最大奥義をいとも容易く…これは作戦を立てねば行けないな…」


我は隕石に意識を集中させて、空へ逃げたのだ。


「とりあえず、一旦魔王城に帰還して…」


そう考えたその時、我の体には、死剣が刺さっていた。

何故、我の体に刺さっているのだ…いつからだ…

いや、今刺さったのか…?

でも、どうやって…

そう思い、勇者の方を見る。

勇者は、何かを投げたような体勢であった。

まさか、投擲上昇(フル・スロー)を付与したと言うのか…


「まさか、この我が手も足も出ずにやられるとは…見事だ。」


我の最後は、空中で塵と化したのだ。

───────

投擲が成功した。

そう。俺はこっそりと死剣に[投擲上昇(∞)(フル・スロー)]を付与したのだ。

空中に逃げるか、地上から走って逃げるのか…

それは予想であったが、何とか成功して一安心した。

俺の真上から、塵が降ってきた。

あぁ、これで終わったんだな。

すると、後ろから大歓声が聞こえた。


「兄ちゃん!よく魔王を倒した!」

「キャー!かっこいい!」

「白熱した戦いであった…」


俺は、観衆の方を向いて腕を上に上げ、言った。


「魔王を倒したぞー!」


───祝勝会(城にて)───


俺は祝勝会に招待された。

俺は正直行きたくはなかった。

それは、俺のことを見捨てた王によって開かれたパーティであったからだ。

しかし、零夏さんに「行こう優樹!」と言われてしまったので、仕方なく行くことになった。

行くと、予想通りクラスメイトからの質問攻めにあった。


「ねぇ!どうやってそんなに強くなったの?」

「いや、魔力総量が無限で…」

「どうして、そんなに魔力使ってても魔力が切れないんだ?」

「いや、魔力総量が無限で…」

「さっき優樹君と零夏さん、呼び捨てで呼びあっていたけど、2人はどういう関係なの?」

「いや、魔力総量が」

「魔力関係ないでしょ」


零夏がいきなり話しかけてきた。

クラスメイトは零夏に話しかける。


「零夏さん!優樹君とはどんな関係なの?」

「付き合ってるだけだよ」

「あーなんだ。付き合ってるだけ…え?」

「えー!」


クラスメイトが一斉に声を出してそう言う。

男達は俺の方を見てくる。


「い、いや、零夏(あっち)から告白してきたんだよ!」


俺は必死に弁明する。

もちろん、言っていることは嘘ではない。2週間ほど前、俺は突然零夏に告白された。

あの日、俺に着いて来たのも、2人で冒険してみたかったなどという理由らしい。

まぁ、結果的に冒険はしなかったが、先代勇者と剣士さんと共にであるが同棲できたということで、良かったらしい。

本当にそれで良いのか。俺はそう思っていた。


「そんな、俺達の零夏さんが優樹の手に、」

「でも、零夏さんが幸せなら、それで良いのかもしれないな!」

「みんな、わかってくれてありがとう。」


男達は、話がまとまったみたいだった。しかし、会場の端で静かに食事をとっていた徹哉だけは、何か言いたげな表情をしているように見えた。


王が現れた。俺は憎しみの表情を浮かべる。

王はこちらを見てきたが、すぐに全員の方を見た。

「勇者達よ。よく魔王を打ち倒してくれた。報酬は明日渡そう。そして明日には、全員元の世界に戻そう。今日は最初で最後の祝勝会だ。楽しんでくれ!」


とりあえず、最後だし色々食べるとするか。

うん。美味い。


───明日となって───

俺達は、この世界とあの世界を繋ぐ門の前に集合させられた。

その場所で、俺達は報酬をもらった。

1000万円が30人分、3億円の報酬であった。

侍女は、クラスメイトに言う。


「勇者様方、魔王を倒していただき、本当にありがとうございました!もし何かご縁があり、この世界に来た場合は、またこの城へお越しください。いつでもお待ちしております!」


クラスメイトは頷く。すると、侍女はこちらを見てきた。


「優樹様、王様は演じていたんだと思います。」


俺は黙って聞いていた。


「あの日、自分で追放した勇者が、昨日、魔王を倒しました。本当は、感謝をしたかったんだと思います。しかし、自分で追放しておいて、勝手に優樹様の顔を立てるような行為をするのは、あなたに申しわけないし、自分の正義に許せなかったんだと思います。だから、わざと嫌な奴になり続けて、優樹様の気分を損ねないようにしたのだと思います。」


……気にしなくて良かったのにな。


「最後に、王様から優樹(あなた)への伝言です。[本当に、ありがとうございました!]と」


俺はため息をしてから、言う。


「俺からも王様に伝言があります。[気にしないでくれ]と」


侍女は礼をした。

すると、先代勇者が俺の元まで来た。そして俺に話しかけた。


「よく魔王を倒したな。お前はこの世界で、語り継がれる存在となるだろう。お前の世界でも、胸を張って生きていけよ!」

「はい!」


そして、今度は零夏の方を見だした。


「こいつを、よろしく頼む!」

「もちろんです!彼女なんで」


そして、俺達は元の世界へ帰ったのであった。

その後、俺の日常は少し変化した。

俺は学校のマドンナである零夏さんと付き合ってるという噂が学校中に広まり、影の有名人となっていた。

そして、いじめもいつの間にか無くなっていた。

異世界転移以来、徹哉が学校に来なくなったこともあるのだろう。

変わったことといえば、それくらいだろう。

そういえば、前よりもクラスの人に話しかけられるようになった。

それくらいだ。本当に。


しばらくすると、俺達の異世界転移事件は伝説のようになっていった。

しかし、俺は忘れないだろう。あの経験を…

俺が[劣等勇者]であったことを。

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