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なろうラジオ大賞

和菓子屋の孫のおやつ事情

作者: 真鶴 黎

 小さい頃からおやつと言えば和菓子。正確に言えば、訳ありの和菓子。消費期限が近いとか、形が悪いとか、整形のときに切り落とされた切れ端などなど。

 それが和菓子屋の祖父母を持つ孫のおやつ事情だ。


「……」


 今日も今日とて、おやつは栗蒸し羊羹の切れ端。棹の形にするときに切り落とされたときにできる。ぺろんとした薄い板状のもの。

 和菓子は季節の表象。だから、私のおやつは一定の時間が過ぎるまで同じ物が続く。秋の今は栗蒸し羊羹の季節。もうずっと栗蒸し羊羹の切れ端がおやつとして続いている。


「食べないのか?」


 おじいちゃんが訊ねる。お店も兼ねている家が近いため、こうして呼ばれては訳ありや切れ端の和菓子を食べるということがよくある。


「おじいちゃん、たまには別のも食べたい」


 ずっと栗蒸し羊羹。正直なことを言えば、ポテチとか食べたい。我が家にとって、スナック菓子はごちそうなのだ。餡子ばかり食べているとあの塩っけが恋しくなる。


「そうか。最近はずっと羊羹ばかりだし、飽きるか」


 よいしょ、とおじいちゃんは机に手をつきながら立ち上がり、ゆっくりと歩き出す。こうして見ると歳をとったと思う。昔のおじいちゃんはもっと背筋がしゃきっとしていたのに、今はもう猫背が染みついている。

 そんなおじいちゃんを一人で行かせる訳にもいかず(元はと言えば私の我儘だし)、急ぎ足で後を追う。おじいちゃんは作業場の前の廊下を通り過ぎ、暖簾をくぐり、店に出る。

 追いついた私におじいちゃんはしーっと指を立て、ショーケースをカラカラと開ける。


「何が食べたい?」


「え?」


「ばあちゃんには内緒だ」


 早くとおじいちゃんの目が急かしている。


「紅葉の練り切り」


 私は咄嗟に視界に入った紅の和菓子を答える。おじいちゃんはさっと箸で練り切りを取り出すと私の手を取る。


「大きくなったな」


 おじいちゃんはそうぼやくと私の掌に乗せる。

 紅と黄色のグラデーションが綺麗な練り切り。露を現した小さな琥珀糖が美しさを引き立たせるけど、ちょっと丸みを帯びた紅葉は赤ちゃんの手みたいで可愛い。

 いつもショーケース越しに見ていたお菓子が掌に収まっている。形が歪なものではなく、綺麗に整形された和菓子に嬉しくなる。


「食べるの勿体ないな」


「また栗蒸し羊羹に飽きたら、この中の選んでいいぞ」


「いや、栗蒸し羊羹は飽きたんだってば!」


 むっとしながら言う私におじいちゃんはちょっとしゃがれた声でからからと笑った。

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