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野望の代償2



 程なくして私とゴルド王子の婚約の祝賀パーティーが行われる日程が決まった。

 場所は異世界のニッポンという国にあるパーティー会場で行われるそうだ。


 リンゲージ王国とダーティン王国の首脳たちはパーティーの準備で大忙しだ。

 何せ両国の威信をかけた一大イベントである。失敗は許されない。

 王宮内にピリピリした空気が漂っていて息が詰まりそうだ。


 そんなある日私はスレインと共にダーティン王国の王宮にやってきていた。


 まずは謁見の間でベルモンド王に挨拶を済ませた後王宮メイドに案内されてゴルド王子の部屋へ足を運ぶ。


「ゴルド様、リリベル様がいらっしゃいました。お開けしても宜しいでしょうか」


「……」


「?」


 返事がない。

 メイドはもう一度扉をノックして伺い立てる。


「ゴルド様、リリベル様が──」


「……聞こえている。通せ」


「は、はい。失礼致します……あっ」


 扉を開けたメイドが思わず絶句した。

 そこで私たちの目に飛び込んできたのはひとりの美しい女性を侍らせているゴルド王子の姿だった。


「どうした。もう下がっていいぞ」


「は、はい。失礼致します」


 メイドは深々とゴルド王子に頭を下げると逃げるようにその場を去っていった。


 ──メイドさんも大変ね。


 思わず同情をしてしまった。

 それにしてもゴルド王子の非常識さには驚かされる。

 今日私が来訪する事は予め手紙で連絡をしていたのでゴルド王子が知らないはずはない。

 これが婚約者を迎える態度なのだろうか。

 スレインは一瞬険しい顔をするが、直ぐに気を取り直して表情を和らげた。

 ここで感情に任せて問題を起こせばリンゲージ王国の立場が悪くなる。それが分からないスレインではない。

 そもそもこの状況は想定内だ。


 私も冷静を装いつつまずはゴルド王子に挨拶をする。


「ゴルド王子、ご機嫌麗しゅうございます」


「リリベル、わざわざ何の用だ。何度も言うがどれだけお前が俺に媚びようとも俺はお前を愛するつもりはない。分かっていると思うがお前はあくまで父上の政治の道具に過ぎん」


「それは勿論存じております。ところでそちらの女性は?」


「ふん、いい機会だ、紹介しておこう。彼女の名はユーシア。ハーメット侯爵家の令嬢で俺の最愛の女性だ」


 ゴルド王子は悪びれる素振りも見せずに言いのける。

 その隣でゴルド王子に身体を抱き寄せられているユーシアに視線を移すと勝ち誇った表情で声高に言った。


「あなたが噂のリリベルとかいう女ね。ゴルド様の婚約者になったそうだけどお生憎様、ゴルド様の寵愛を受けるのはこの私なんだから」


「ああ、俺が愛しているのはこの世でお前だけだ」


 二人は私たちが見ている事などお構いなしに、いやむしろ自分たちがどれだけ愛し合っているのかを見せつけるかのように熱い抱擁を交わす。


 私はしばしその様子を無言で眺めた後ゆっくりと呟いた。


「お可哀そうなユーシア様。私とゴルド王子との婚姻が成立した後、あなたは無事ではいられませんよ?」


「何だと!?」

「何ですって!?」


 ゴルド王子とユーシアはシンクロするように私を睨みつけた。


「貴様、私のユーシアを脅しに来たのか?」


 ゴルド王子は怒鳴りながら机の上に置かれた花瓶を私に向けて投げつけるが、咄嗟にスレインが私の前に立ち塞がり盾となる。

 花瓶はスレインの身体に当たって割れ、その衣服がずぶ濡れになった。


 ──有難うスレイン。


 私の一言で激昂したゴルド王子がこういった大人げない行動に出る事は充分に想定できていた。

 それを承知の上で私の計画に付き合ってくれているスレインに心の中で感謝の言葉を呟く。


 ──ここからが正念場だ。


 私はゴルド王子に向き直り毅然とした態度で口を開いた。


「いえ、そうではありません。ただユーシア様のこの先の事を思うと気の毒で胸が張り裂ける思いです」


「気の毒だと?」


「ええ、ゴルド様は私との結婚後にユーシア様を側室として置かれご寵愛されるおつもりでしょうが、ベルモンド陛下がそれを許すとは思えません。ゴルド様もそれは薄々感づかれているのではありませんか?」


「くっ、それは……」


 今回の政略結婚の目的はリンゲージ王国とダーティン王国が血縁関係で結ばれる事だ。

 いずれゴルド王子が次の王に即位した後、更にその後継者はリンゲージ王国の王女である私との間に生まれた子供である必要がある。

 ベルモンド陛下にとってはユーシアの存在は邪魔者以外の何物でもなく、もしゴルド王子との間に子供が生まれようものなら間違いなく人知れず排除されるだろう。

 ゴルド王子もその事実に気付かない程馬鹿ではない。

 彼の今までの苛立ちが私に対してではなく全て自分自身の無力感の裏返しである事は最初から分かっていた。


「そんな事はお前の知った事ではない。今どうするかを考えているところだ!」


 プライド高いゴルド王子はそれでも虚勢を張り続けながら声を荒げるが、その対策については特に何も思いついていないようだ。

 私はあえて焦らすように少しの間を置いた後でゆっくりと口を開く。


「そういえば私たちの婚約が決まった後、今まで交流のなかった国々から挨拶にやってきました」


「それはそうだろう。今の内から我々に媚を売り取り入ろうとする魂胆が見え見えだ」


「少し違います。彼らが本当に誼を通じたいのは私たちのリンゲージ王国ではなくあくまで貴国です」


「そんな事は百も承知だ。リンゲージ王国など我が国の軍事力から見れば吹けば飛ぶ程度の小国だからな。我が国との繋がりが無ければ誰も相手にするものか。だがそれがどうしたというのだ」


「ここからが重要なのです。現在の国王であるベルモンド陛下はお年を召されており、次期国王となられるゴルド王子はまだまだお若い」


「……何が言いたい?」


「聡明なゴルド王子でしたらもうお分かりでしょう」


 私はそう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 後は自分で考えろと言わんばかりの態度にプライドを刺激されたゴルド王子は不快感を示しながらも思考を巡らせる。

 そしてハッと目を見開いて呟いた。


「そうか……そうだな、確かに考えてみれば簡単な話だったな」




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