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グレープフルーツジュース

作者: 榊 瑠一

3月25日。桜が咲く頃。いつも通りに着替え、いつも通りに学校へ向かう。

いつもと違うのは今日、転校生が来るということだ。

かわいい娘だといいなぁと、まだ男か女かも分からないのに想像してしまう。

7:45分の電車に乗り8:13分には余裕で学校に着く。

電車に乗るとはいえそんなに遠い距離では無い。8:30のホームルームにはかなり余裕だ。

今のところ無遅刻無欠席の皆勤賞であることや授業を毎回真面目に受けていることが少ない自慢のひとつかもしれない。


その少女は確か柿崎詩織と、そう紹介されていた気がする。

柿崎さんは東京から転勤してきたらしい。

ちょうど降りる駅が一緒で、僕の家と、駅の途中に彼女の家があった。相性も良かったのかもしれない。

ぼくらは自然と一緒に過ごすようになっていた。

こんな狭い街に女子も男子もそういない。

そうすると当然、振るサイコロの目の数はお互いに減ってしまう。

そこに彼女が来たことで、僕のサイコロの目は歪にひとつ増えたのだった。

僕は決してぼっちというわけではなかった。

普通に友達がいたし、かなり親しい友人だっていた。だからそこまで酷い嫉妬は受けなかった。


柿崎さんが来て2、3日たったころだろうか。

相性の良さは日に日にその才覚を開花させて、僕と彼女はいつも一緒にいるようになっていた。

さらに僕たちに触発されたようにほかのクラスメイトたちもサイコロを振るようになったみたいだった。

そんな頃になるとクラスは色付き始め、なんとなくそういう雰囲気が出来上がっていたように思える。


柿崎さんと出会って2週間がたったころだった。

彼女に、夜にちょっと森に入ったところにあるかわに遊びに行かないかと誘われた。

なんとしてでも行きたかった。彼女がなぜそんなことを言い出したのか分からないが、ふしぎとその背徳感に惹かれたのだろう。

僕は見事に両親の目をすり抜けて彼女の元へ行った。

彼女はまさにその背徳感が好きならしかった。

次第に夜に行くのは公園から学校に忍び込むまで進んでいき、ついに僕は彼女の家に泊まることまでした。


そうしてちょうど1ヶ月が経つか経たないかという頃だった。僕は彼女が転勤族で、たった1年間に7回も転勤していたことも知っていた。

僕はいつものように彼女の家に行き、しばらくしてから、例の川に行くことにした。


僕達は水遊びをした。

まだ夏至にすらなっていない晩春の川は冷たかった。

僕らはびしょ濡れになって遊んだ。水着なんてありもしない。

僕達は濡れた服のまま家に帰り、僕はそこで一晩寝込んだ。当然と言えば当然だった。


次の日目が覚めた頃には彼女はもう居なかった。

彼女の家の前を通り過ぎ、表札がないのに気づいたころにはもう悟っていた。

いつも以上に急いで学校へ向かう。当然そこに彼女も彼女の席もない。

誰かに聞くまでもなかった。


彼女と出会って30日がたった頃だった。いつも通りに着替え、いつも通りに学校へ向かう。すっかり緑色になった木を見ながら歩く。

8:15の電車に乗り、8:43に学校に着く。

周りの男女は仲睦まじく話している。

ぼくはただ彼らを眺めながら眠りに落ちていった。

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