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翠の世界~the alteration game~  作者: 猫宮めめ


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14「攻略会議」

 拠点はどこか沈んだ空気に包まれていた。集まったメンバーたちは各々、神妙な面持ちで話が始まるのを待っている。事情を把握していない菊理もまた空気に呑まれ、静かに場を見守っている。

 重さのある空気は菊理がMaveRickに来てから初めて味わうものだ。


 蛇が怒った先日の一件のときとも違う緊張感が身を包み、妙な緊張感がある。

 いつもなら適度に場を解してくれる蛇がこの空気を作り出している元凶であることが一番の理由だろう。

 昨日の任務で何かあったらしいことだけは知っている菊理はただ黙って蛇が口を開くのを待つ。


「……昨日の任務中――しろ、行方不明だったメンバーが接触してきた」


 感情を抑えるよう、平坦に努めた声で蛇は話し始めた。


 MaveRickの創設者の一人がずっと前から行方不明になっている、この話は菊理が組織に所属してすぐに聞かされた話だ。探しても手掛かりすら掴めなかった相手が見つかった。

 それはとても喜ばしい事実のはずなのに蛇の表情はとても喜んでいるように見えない。苦しげで、戸惑いもあって、必死に感情を殺そうとしているのが伝わってくる。


 蛇の言葉を受けて、同じ創設者の一人である猫の様子を窺う。

 行方不明になっているメンバーを友達だと言っていた。会えなくて寂しいと。

 何か思うところがあるのではと横目で見た猫の表情に変化はない。いつもの眠たげな顔でぼうっと蛇を見ている。


「しろはうちら、MaveRickを巻き込んだゲームを仕組んでるみたいや。そのために……MaveRickを作ったみたいやな」


 表情に苦々しいものを混ぜる蛇の言葉に菊理は首を傾げた。

 ゲームとは楽しいものだ。MaveRickに来てから、ロゼを中心にいろんなゲームを教えてもらった。

 そのどれも楽しいものばかりで、菊理には蛇がそんな顔をする理由が分からない。


 菊理の知らない怖いゲームがあるのかもしれない。そういえば璃尤がホラーゲームというものがあると言っていた。

 しろという人物が持ちかけたゲームはそのホラーゲームという奴なのだろうか。


「〈不明(レムレース)〉とハローワーカー。しろは他にも二つの組織を作ったと言っとった。この中で生き残った者の願いを叶えると」


「それだけですの? 抽象的な説明ですわね……。戦って勝てばいいということですの?」


 それ以上の詳細は蛇にも分からないようで、困ったように眉根を寄せている。

 結局、菊理には状況が不鮮明なままだ。あんまりよくないゲームなことだけは蛇や周りの雰囲気で察した。


「勝者の望みを叶える詳細不明のゲーム、か」


「璃尤さんは何か知っているんですか?」


 後ろの方から聞こえた微かな声に顔を向ければ、璃尤は驚いたような表情を見せた。

 もしかすると独り言だったのかもしれない。菊理は耳が良すぎるせいで、会話の声と独り言を区別するのが苦手なのだ。

 突然、話の中心に持ち上げられて驚く璃尤を見て、ちょっと申し訳ない気持ちになった。


「いや。自分は何も知らないよ」


「本当ですの?」


「ここで嘘を言ってどうするんだい?」


 驚いていたのは少しの間だけで、すぐにいつもの調子で肩を竦める璃尤。あまり気にしていないその態度に安心する。でも、申し訳ないので軽く頭を下げる。

 気にしないで、と手振りで示した璃尤は見慣れた笑顔を見せている。大きく感情を動かすことのないその姿はすごく大人っぽくてかっこいい。


「正直分からんことだらけや。ただ、しろはMaveRickを守りたいなら戦えと言った。その上で、自分らのスタンスを聞かせてほしい」


「舞台があるなら踊るまで。……楽しませてくれる子も見つけたし、ね」


 迷いなく答えたのはクラウンだ。離れた位置で話だけを聞いていたクラウンは、聞かれるよりも先に答えを決めていたようだった。

 クラウンは戦闘狂だとロゼが言っていた。戦うことが好きな人なのだと。

 声からも分かる。クラウンは揺るぎなく、己を満たすことだけを求めているのだ。


「わたくしは戦いますわ。売られた喧嘩は買う主義ですの」


「ボクも……MaveRickを守りたいから」


「お役に立てるか分かりませんけど、私も戦いますっ。MaveRickを守るためにできることをがんばりますっ!」


 ロゼは高慢に、小雛は真摯に、菊理は純真に決意を示す。クラウン同様、迷いはなかった。

 その中で迷いを映し出したのは先生だ。色濃い隈が縁取る紫の目が憂いを帯びる。


「お姉さんは心配だわ。でも、ここで反対して、みんなの気持ちを蔑ろにもしたくない。……だから、貴方たちの怪我は全部消し去る。それだけしかお姉さんにはできないから」


 瞳を震わせん柄も、決意を映し出す先生の言葉はとても頼もしい。

 先生の力は怪我を消すことができる。大きな怪我が大丈夫になる頼もしい力だ。


「しかし、その問いに意味はあるのかい? 聞いた限りだと反対したいところで参加せざるを得ないんじゃないのかい? 棄権して命の保証ががあるとも思えない」


「分かっとる。どうなるか分からん以上、棄権する気はあらへん。参加するにしても、反対しとるメンバーに無理強いするわけにはいかへんやろ」


「なるほどね。そういうことなら自分も参戦するよ。異能者相手にどれほど役に立つか分からないがね」


 相変わらず璃尤の言うことは難しくて分からない。一緒に戦ってくれるとことだけは理解して、頼もしさをさらに加算する。


「私も参加を希望します。MaveRickの力になること、それが今の私の望みですから」


 アンネも参加を表明し、残すメンバーはあと一人となった。

 全員の視線を一身に受ける最後の一人は状況を理解しているのか分からない眠たげな目で見返す。


「私は蛇の意見に賛成」


 迷いのない、最初から決めていたような答えはクラウンと同じだ。

 新米の菊理にもこの答えはなんとなく予想できていた。猫はいつも同じ返答をするから。

 しかし、今回ばかりはそれでは納得できない者もいる。


「今回くらいは自分の意見を言ったらどうですの? 貴方の友人が関わっているんですのよ」


「私は私の意見を言ってる」


 詰問するようなロゼの言葉、その意味が分からないと猫は首を傾げる。


「……私は、蛇の言葉だから従ってるんじゃない。私が納得したから従ってる。それだけ」


 暗い黄色の目は揺るぎなく、逆にロゼの赤目が怯むように揺れた。

 猫の中には簡単に揺るがないものがあるようだ。本能に従うように導き出された答えが、菊理も何度か聞いたことがあるあの答えなのだ。


「友人と戦うことになってもいいんですの?」


「そうなったら仕方ない」


 猫の答えには迷いがない。何も考えていないようにすら思える速度で、すべてを悟ったような声音で淡々と紡いでいく。

 ロゼもこれ以上食い下がることはできなかったようで、吐息で諦めを示した。


「……さて、全員の参加を確認したところで、対策を話そか」


「確か、昨日の任務にも〈不明(レムレース)〉のメンバーが絡んできていたんだったね」


 ロゼが突っ走った先日の件に引き続き、昨日の任務にも〈不明(レムレース)〉のメンバーが現れたという。この話自体は事前に全員へ情報共有されている。

 現れたのは菊理たちが会った二人とはまた別の人たちだったと。

 実際に顔を合わせたメンバーへ、話の主導権が与えられる。


「私と猫さんが遭遇したのは魔女を名乗る少女でした。装いは『魔法少女ミラクルベリー』の木苺みのりのもの。名は眞伊花芳と名乗っていました」


 アンネの言葉に小雛がガラス玉のような目を丸くする。

 それもそのはずで、話の中に出てきた『魔法少女ミラクルベリー』とは小雛が好きなアニメのタイトルなのである。菊理も一緒に見ており、同じ年頃の女の子が怪人と戦って世界を救う姿はいつもハラハラドキドキする。

 菊理もあの『ミラベリ』の名前がここで出てくるとは思っていなかったのでびっくりだ。


「目的、能力の詳細、共に不明です。目的に関しては挨拶と口にしていましたが、どこまで信用できるものかは分かりません」


「ターゲットと一緒に消えた。転移系の力だと思う」


「アニメキャラの格好をしているなら、能力もそれに寄っているんじゃないかい?」


 尋ねる璃尤の視線が小雛へ注がれる。『ミラベリ』のキャラクターの能力ならば、毎週欠かさず熱心に見ている小雛に聞くのが一番早い。

 注目を受けて肩を震わせる小雛は緊張した面持ちで口を開く。


「……みのりちゃんは、短い距離なら瞬間移動できるよ」


「短い距離なら、か。何とも言えへんけど、強化版って考えたらしっくりくるか」


「情報が少ない以上、攻略の足掛かりとして参考にするのは悪くないはずだよ」


 菊理は最近見始めたばかりのなので小雛ほど詳しくはないが、『ミラベリ』のことなら少しは役に立てるはずだ。

 みのりの能力の他に、怪人たちが立てた対策なんかも参考になるかもしれない。


「それなら私と小雛さんでみのりちゃんの力についてまとめますよ!」


「ん。特別版とかのも全部、まとめる。……でも」


 ぎこちなく、仄かな笑みを浮かべる小雛。


「同じ『ミラベリ』好きなら……仲良くなりたいな」


 相手は敵。きっと無理だと理解しながら紡がれた願いは健気なものだ。

 できれば叶えてあげたいと思っても、絶対に叶うとは簡単に言えない状況。ならば、と菊理は拳を握って奮起する。


「私がその人とおんなじくらい『ミラベリ』を大大大大大好きになりますっ」


 驚く小雛の顔はやがて破顔し、嬉しそうに大きく頷いた。


「もう一人はくー様が対峙したんだったね」


「堕天使、佐汰ルシー。〈不明(レムレース)〉のリーダーと名乗っていたわ」


「あの方がリーダーですか」


 もう一人の方は蛇とアンネも一瞬だけ目にしたらしい。白黒の女性だったとか。

 直接戦ったクラウンは珍しく楽しそうな顔で言葉を続ける。


「実力は私と同じ……いえ、それ以上ね」


「くー様がそないなこと言うなんて珍しいな」


 赤い目を丸くした蛇にクラウンは妖しい微笑で応える。

 クラウンはとても強いと聞いている。実際戦っている姿を見たときもすごかった。

 それよりも強いということはとてもすごい人なのだ。


「私が対峙したのは悪魔の方。ベルゼブブは吸収、マモンは引き寄せ。武器は鋭い爪。後は、炎の攻撃があるわね。私が知り得た情報はこれくらいよ」


「悪魔……別の力もあるとクラウンさんは考えておられるのですか?」


「ないと考える方が危険じゃないかしら。……ちゃんと根拠もあるわよ」


 もったいぶるように言葉を紡ぐクラウンはなんとなく楽しそうだ。

 クラウンの声はいつも少し不思議だ。感情的に紡がれた声でも同じ感情が聞き取れなかったりもする。でも、今回は本当に楽しそうな声をしている。

 胸の辺りを示し、美しさを感じさせる所作とともに話は続けられる。


「彼女が胸に下げていたコイン、表は天使、裏は悪魔が描かれていたわ。私と対峙したとき、悪魔の方が表面に描かれていた」


「なるほど。天使が表にくれば、また別の能力になると。充分考えられる話だね」


「ベルゼブブは暴食の悪魔、マモンは強欲の悪魔。天使も由来した能力を持っている可能性もありますね。こちらで改めて調べておきましょう」


「じゃ、魔女については小雛と菊理に、堕天使についてはアンネに任せるとして――」


 それぞれに視線を向けながら、すっかり元の調子に戻った蛇は正面を向いた。


「問題はまだ姿を現していないメンバーのことやな」


「ハローワーカーと、〈不明(レムレース)〉にもまだ隠れたメンバーがいる可能性もある。一応、自分の方でも調べてみるよ。あまり期待しないでくれると助けるけどね」


 まだまだ知らない人がたくさんいるかもしれなくて、今はまだまだ始まりに過ぎない。

 これからもっといろんなことが起こって、いろんな経験ができる。それはとても楽しみなことだ。

 クラウンが楽しみそうな理由が、菊理にも理解できる。予想できない出来事は胸をわくわくさせる。


「情報収集はいつも通り龍に任せるとして……何があるか分からへんから自分らも気をつけえよ。オフのときでも狙われるか分からへん」


 今までは拠点にいるときと、任務のときだけがMaveRickだった。これからは買い物に出掛けているときだって狙われるかもしれない。相手には買い物中だとか関係ないのだ。

 改めて状況を理解した菊理はわくわくの中に緊張感を宿らせる。

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