悪人が賞賛される世の中で
56人の小中学生が殺された。
その関係者も含めれば、被害者は更に増大する。
この事件は世の中を震撼させた。
確かにこれだけの人数が殺されれば騒がれるだろう。
しかも、わずか一ヶ月の間にだ。
しかし、この事件が本当に騒がれたのは人数が理由では無い。
ネットに公表された殺害理由によってである。
書き込んだのは加害者。
いや、被害者である。
56人の殺害理由は犯罪によるものだった。
金銭の恐喝、万引きなどの犯罪強要。
日常的な暴力による暴行・障害。
いじめと称される刑事犯罪。
子供の悪戯の範疇におさめてはいけない、明確な犯罪がそこで行われていた。
この事については少なからず問題として話題にはなった。
犯罪被害者の一人が勇気を出して告発したからだ。
それを告発者はネットにも掲載した。
しかし、これらが事件として扱われる事もなく。
加害者達は少年少女という事もあって厳重注意で処分終了。
告発者は更なる被害を受ける事になった。
当然ながら、その被害状況をネットに掲載。
たまさか目にした者達にその状況が伝わった。
しかし、それが世間を賑わす事もなかった。
あくまで局地的に行われてる出来事、小さな事件でしかなかった。
加害者達は被害者への犯行を更に増大。
周りの大人も全く止めることはなかった。
加害者の親は、
「俺の子を犯罪者扱いしやがって!」
「私の子供がどうしてこんな扱い受けなくちゃいけないの!」
と開き直っていた。
被害者の親も、
「どうしてこんな騒ぎにするの!」
と被害者を糾弾。
こうして被害者は周囲に誰も味方がいない状況になった。
だが、ここからが本番となった。
被害者の少年は糾弾する親を殺害。
「何で殴られてる俺が我慢しなくちゃなんねえんだよ」
悪い方に追求する事なく、被害を受けてる方を糾弾する。
最も身近にいた犯罪者の味方であるそんな親を、被害者は決して許さなかった。
続いて、加害者を次々と襲撃していった。
本人だけでなくその親兄弟も。
その際、金銭なども奪っていった。
「回収だ。
今まで奪われてた分のな。
全然足りないけど」
その後も犯罪を助長していた教師とその家族。
駆け付けた警察官。
更には教育委員会や役所の教育関係者なども襲撃。
何も対策を施さなかった者達を軒並み処分していった。
この行動を止めようとするもの、遮る者達も含めて。
死亡者の数は莫大なものになった。
ここにきて捜査関係者だけでなく多くの者が疑問を抱いた。
これだけの事を一人でやってるのかと。
短期間で膨大な人間を殺しているのだ。
単独でやってるとは思えなかった。
後々、その真相が判明する事になる。
被害者に協力者がいたと。
それも大量に。
「当たり前だろ」
後に被害者は語る。
「俺だけがやられてると思ってたのか?」
加害者に甚振られていたのは一人だけでは無い。
何人もの犠牲者がいた。
それらが、反撃や復讐に協力していたという。
詳しい人数は分からない。
誰が協力していたのかも。
ただ、犯罪に加担していた加害者である56人の小中学生。
これらを一網打尽にするだけの人数がいたのは確かだ。
だとすれば、それはとてつもない人数になるだろう。
あるいは、高度に組織化され、効率よく動いていたかだ。
この部分の真相は不明である。
しかし、最低でも20人から30人。
多ければ100人はいるだろうと見つめられた。
それだけの人間が殺害に協力していた。
その事が世間を驚かせた。
しかし、それについて被害者はこう語る。
「なに言ってんだ?」
「今まで暴力を認めてきたのに、何を驚いてる。
殺して何が悪い?
人を殴って金を奪って、悪口いうのは大丈夫ってことか?
殺しだけは駄目なのか?
なに言ってんだ」
「どれも悪い事だろうが。
それを許して認めてるのがお前らだろ。
俺たちがやって何が悪い」
「お前らが暴力を認めてるんだろ。
だからあの悪党共を許したんだろ。
警察も注意しかしない、だからまた俺は狙われた。
注意だけで終わるんだから、何をしてもかまわないって事だろ」
「俺たちはお前らが認めた暴力を使った。
暴力を使って暴力を止めた。
殺したからもう二度とあいつらの暴力は起こらない」
「それを、殴って痛め付けるだけで終わり?
怪我がなおったらまた悪さをするのに?
なんでそこまで悪い事をひろめるんだ?」
「どう考えてもおかしいだろ。
悪い事を止めた俺たちが文句言われて。
悪い事をひろめてる、あいつら悪党が許されてる。
そんなのあるかよ」
「悪い事を止めるのが駄目だってんならそれでもいい。
だったら、俺たちも悪い事をしていく。
いいな?」
ネットにそう書き残して被害者は姿を消した。
被害者と共に何人かの人間も消えた。
おそらくそれが犠牲者達だったのだろう。
そして、その日から様々なところで殺害が多発するようになった。
行方不明者も増大した。
どれもこれも、学校で問題を起こしてる者達ばかりだった。
それをかばってる者達ばかりだった。
その家族や関係者ばかりだった。
この動きは日本全国にひろがっていった。
あちこちで殺害が発生していった。
それは反撃に出た被害者によるものだったり。
被害者の報復を恐れた加害者によるものだったり。
状況は混迷を深めていった。
「悪い事を野放しにしてきたからだろ」
久方ぶりにネットにあらわれた被害者はそう語る。
「悪い事をする奴等を認めて。
悪い事をしても許して。
そうして悪さを広めてきた。
俺たちはそれを手助けしただけだ」
当然と言えば当然の言葉だった。
何一つ間違ってない。
悪者を礼賛する社会。
悪人を賞賛する社会。
それが人類の作り出してきた社会というものだ。
悪事を許し、悪人を許し、悪者がのさばる社会。
虐げられた者は我慢を強いられ、償いなどされない社会。
それを作ってきたのは人類だ。
被害者はそんな社会のあり方を正しく用いただけである。
何もおかしな事はしていない。
強いて問題を上げるなら、悪人や悪者を殺した事。
社会が認めた悪事を消していった事。
この部分だろう。
社会が認めていた悪人や悪者を倒していった。
だから警察は被害者を追いかけている。
そもそもの問題を起こした加害者達を野放しにして。
「そんな社会、壊れた方がいいだろ。
さっさと滅亡しちまえ」
もっともな話だ。
悪事とは誰かに危害を加えることだろう。
有形無形様々な形で。
それを当然としてるのがこの社会である。
そんなものが存在し続ける理由があるのだろうか?
平穏や安全、安息に平和。
これらは悪事を切り離したところにしかない。
しかし多くの人間は暴力や暴動、悪辣さを求めた。
被害者はそれに対抗してるだけである。
争いは今日も続いている。
終わる事無く騒動が起こっていく。
加害者達が危害を加える事をやめれば終わるのだが。
そういう気配は全くない。
仕方なく被害者とその仲間達は今日も活動していく。
平和を手に入れるために、悪事を働いてる者達を処分していく。
そうして彼らは少しだけ落ち着いた場所を手に入れる。
以前のように暴行を加えられない。
金を奪われる事もない。
暴言を叩きつけられる事もない。
そんな幸せな空間を。
その為に今日も問題を見つけていく。
見つけた問題を破壊していく。
問題を起こしてる者達ごと。
安心して暮らせる場所を手に入れるためだ。
これ以外に方法は無い
それを被害者は嫌になるほど悟っていた。
「問題を起こす奴が消えれば、静かになるのにねえ」
この事実がなぜか理解されない事に首をかしげる。
それでも今日もやるべき事をやっていく。
いつか危害を加える悪人悪者が根絶やしになる日を夢見ながら。
気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を
面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい