4. 望むもの
「美味しかったよ、いつもありがとうな」
食べ終えた夕食を眺めながら、満足そうに自分のお腹をさするリアムさん。
「これで、もう一踏ん張り頑張れそうだ。あと少しでまだ見ぬエンディングを迎えられそうだぞ」
もともと執筆中はなかなか食事を取らないが、ここ数日まともに食事を取っていないこともあって、今日の夕食はカイヤに無理やり引きずられるようにダイニングに顔を出した。
しっかりと食事をとり、モチベーションも上がった姿に少し安心する。
「完成、楽しみにしてますね。でももっと身体を気遣わないとダメですよ。カイヤと私に心配して欲しいなら別ですけど」
少し皮肉を効かせ自分の身体を労るように促す。カイヤもうんうんと頷き、言われた本人は少し気まずそうに笑った。
「ヤヅキも言うようになったなぁ。わかったよ、気をつけるさ」
そういうと大きな欠伸をひとつして、食器を片付けながら席を立つ。
「もう少し書いたら今日は寝るとするよ。健康にうるさい2人の可愛い子供のためにもな」
いつも通り軽い冗談を言いながら、おやすみと挨拶をすると自室へと戻っていく。
「健康にうるさい2人の可愛い子供だってさ」
カイヤと2人、夕食の片付けをしながらこれといって中身のない楽しい雑談をした。
今週末に近くのパン屋でセールがあるからリアムさんの為に2人で買いに行こうという約束や、カイヤの女の子絡みの苦労話、今年の狩猟大会への意気込みなど、他愛もない話ばかりだ。
「そろそろ寝るか」
それぞれ好きなことをしていると22時を知らせる時計の鐘が鳴る。
弓の手入れをしていたカイヤは顔を上げ、私に声をかけた。
気がつけば、いつの間にか夜も深くなっていた。暖炉のパチパチと弾ける音と共に、外から梟の鳴き声が聞こえてくる。
読んでいた本を閉じて頷くと、椅子から立ち上がり大きく背伸びをした。
「また明日ね。おやすみ、カイヤ」
カイヤも立ち上がると欠伸をしながらひらひらと手を振り挨拶する。
「おう、おやすみ。また明日な」
階段を登り自室の扉を閉めるとラベンダーの香りのするベッドへと寝転がる。
明日にはリアムさんの新刊が読めるかな。
校閲も兼ね、いつも一番最初に読むことが出来るその瞬間が最高の楽しみであり、まだ見ぬ新たな物語へと思いを馳せる。
今日も一日が終わる。いつもと変わらないけど毎日が違う世界。
明日のことを考え、布団を被ると重たくなった瞼が閉じた。
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「........だ」
深い眠りの霧の中。
「....なぜだ」
誰か知らない男の人の声。
「望んだのはこんなことじゃ無い」
「俺が望んだのは、俺の願いは......」
どこか遠くの暗闇の中、ぼそぼそと低く呟く声が聞こえる。
「違う」
蹲っているのか、くぐもった声は冷たく不審な印象を受ける。
「違う、違う違う違う違う違う」
小さな呟きは段々と早くなっていく。
「何故。どうして。俺は何を」
声量は一言ずつ力強く大きく変化する。
「あんなにも幸せだったのに」
「なんでこんな結末を迎えなくてはいけないんだっ!」
耳慣れない声は、立ち上がり少しずつ此方に近づいてくる。不安を掻き立てるようなその声は苦しそうに次々と言葉を発する。
「誰がこんな世界にしたんだ!!」
息も絶え絶えになりながら乱暴に言葉を吐き続ける。
「俺が望んだのは....!」
「俺が望んでいるのは....!」
言葉を詰まらせながら叫ぶ。その声は逃げ場のない此方に向かって吐き捨てられている。
「俺が望むのは...」
一呼吸置き、切迫詰まった声で続ける。
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