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RORDOL -願いの塔ロードル-  作者: 神山
第3節 選ばれし者達
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6. 分岐点


 本来光を吸収するはずの"黒"は、私の手の中で輝いていた。願いを聞き入れ、神秘的な光を放つその姿は、己が神物であると主張しているかのようで、その美しさに思わず目を奪われる。


"自分の願いを守るために、託された願いを叶えること"


 これが願いだと、言葉に出して初めて自覚した。ここに立つまでずっと悩んできたのに、ロードルに挑むと決めた時にはもうすでに持っていたのだ。胸を張って主張できる自分の願いを。


 接続が完了し輝いているクリーションを眺めながら喜びを噛み締め、そんなことを考えていると、何事もなかったかのようにモノさんから声がかかった。


「接続は完了したようなので次の方に声をかけて来て下さい」


 先程上がった口角はもう既に元の位置に戻っており、相変わらずの無表情で告げる彼女。まるでこうなることは分かっていたというような素振りに、私は思わず呼び止めた。


「全て想定内だったんですか」


 先程までの言動は追求せずに、クリーションが輝いたから問題ないと済ませるのか。全部私に発破を掛けるために演技したというのか。彼女の意図が読めず言葉を投げる。


「想定内であり、想定外です」


 クリーションを握りしめる私と目を合わせると、質問の回答に少し悩みながらも静かに口を開いた。

 どういう意味だと視線を向ける私に対して向き直ると淡々と説明を始める。


「そもそも貴方の存在はロードルにとって最大の想定外。自分の願いを持たない、ルールに反した存在です。ですが、それと同時に特例であるということは神に認められた特別な存在でもあるということ。そんな存在が塔に挑む資格を持っていないはずが無い、故に想定内でもありました」


 私の存在は想定外だが、私がロードルに挑む資格を持つことは想定内であった。彼女の言葉通り解釈するとこういう事だろう。


「モノさんは私がロードルに挑むことを快く思っていないですよね」


 彼女の言葉を理解すると、もうひとつ質問を重ねる。先程より直球の質問に若干眉を顰めたように見えたが、構わずに答えを待つ。

クリーションに接続する前に彼女が言っていた言葉や視線は間違いなく本心だった。私を歓迎しないという意思は、手のひらを返した言葉の奥にも若干感じられる。


「そうですね。確かに私は、貴方がロードルに挑むことを止めようとしていました」


 そう言うと、こちらに一歩近づき私の目を覗き込む。


 やはり彼女から感じた感情は本物だ。この場に来ることを歓迎しないという視線は今も紫の瞳の奥に眠っている。

 何も言わず続く言葉を待つ私に向け、モノさんは話し始めた。


「ロードルは美しく残酷な場所です。願いを手に入れた者の足元には常に絶望に打ちひしがれた多くの人々がいました。自らの願いであったとしても苦しむ道のりを、他人の願いで歩むことなど到底許容できません」


 そう言うと小さくため息をついた。


「これは使者としてではなく私個人としての考えです。ロードルの巓は想像より高く、得るものより失うものの方が多い。この先の道を進み後悔する人々を少しでも減らすためにも、貴方のような状況の人間を認めることは出来ません」


 強い意志が感じられる彼女の言葉は、どこか哀しみさえも感じるものだった。


「しかし、貴方自身の願いを守るために人の願いを叶えるというのなら、私に止める権利はありません」


 一旦言葉を区切ると、少し視線を外しクリーションを見る。


「それは貴方の願いだから」


 私を歓迎しないという視線は、私の身を案じた上で引き留めようとしてくれていたモノさんの意思だった。苦しい道を歩まなくて済むよう事前に防ごうとしていた。使者としてではなく、彼女個人の意思で。


「ありがとうございます」


 止めようとしてくれたこと、そして私の願いを認めてくれたことに対して感謝を示す。クリーションが輝いた時に彼女が浮かべた笑顔は、願いを見つけロードルに挑むことのできる者であると認めた表情だったのだろう。


 彼女はロードルに挑んだことのある人間だと言っていた。過去に何があったのかは分からないが神聖なこの場に対して、上を目指す私達とは違う感情を抱いている。それでも、願いを持つ者を支える使者として助言を残してくれたのだ。


「感謝することはありません、私の勝手な行動ですから」


 少し口角を上げると、初めて優しい笑顔向けてくれたモノさん。


「私は使者ですが、貴方に限らず全ての人間がロードルに挑むことを快く思っていません。"自らの願いは自らで掴むもの" だからこそ私は貴方の願いを応援したいと感じました」


 彼女の真っ直ぐな視線は、ロードルという場所に迎え入れたく無いという意思、この先の道を進む者達を案じる意思、そして、願いを叶えるために挑む者を支えるという意思を抱いていた。


「貴方が願いを守れるよう祈っています」


 願いを守るための私の選択。

 暖かい彼女の言葉に背中を押されながら、改めて前に進むことを堅く心に決めた。

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