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RORDOL -願いの塔ロードル-  作者: 神山
第3節 選ばれし者達
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5. 己の願い


「その願いは誰のものですか」


 皆んなで集まっていた場所から離れ、声が届かない会場の端へ移動すると、腕を組み首元にある願いの印を見て問うモノさん。前置きなど無く、単刀直入な質問は確信を持っているからこその行動。


「貴方のものではないですよね」


 私の目を逃さないように合わせる真っ直ぐな視線。願いを持たぬ者がなぜこの場にいるのかと責め立てるような口調に思わず言葉を詰まらせる。


「先程の会場での祝福の件、自覚しているでしょう」


 会場の中で私1人が影響を受けなかったこと、薄々感じてはいたがやはり非凡なことだったようだ。


「私が神と契約し授かった力は "誓約統制" 。簡単に言えば、私の声を聞いた者を一定の条件で縛り、指示に従わせるというものです。しかし、貴方は私の指示に従わなかった」


 言葉を区切ると一歩此方へと近づく。


「あの時集団に与えた条件は "自ら願いを持ち、この場に立つ者"。ここロードルに来る者は当然ながら自分自身の願いを持っている」


 だが私は自分の願いを持っていないため、彼女が提示した条件に当てはまらなかった。だからあの時私は彼女の影響を受けなかったということか。


 私が状況を理解したのを悟ると、次の質問を重ねるモノさん。


「しかし貴方は自分の願いを持っていない。間違いありませんか」


 想定通りの問いに、短く息を吸い込む。

 隠すつもりは無かったが周りに引け目を感じて今まで言い出せずにいた事実。だがモノさんは使者であり、使者の役目は、より多くの人がロードルに挑戦して願いを叶えられるように導くこと。ならば正直に話す方が得策だろう、隠す必要はない。

 そう自分に言い聞かせると静かに口を開いた。


「はい、違いありません」


 簡潔に肯定の答えを返す。モノさんは、その言葉に初めて私から目を逸らすと少し悩むような間が空いた。


「では、その願いは誰のものですか」


 最初の質問がもう一度繰り返えされるが、自分自身が知らないことは答えようが無い。


「この願いは.....」


 首元の印に触れ答えを探すが、

「私にも、誰のものなのか分かりません」

 そう答える他無かった。


 私の返答に暫く沈黙が流れる。


「願いの塔ロードルは人々が命懸けで己の願いを叶える場です。貴方は他人の願いを叶えるために挑むというのですか」


 静かに、だが僅かな熱を帯びた言葉は、自分が今まで見ないふりをしていた問題に鋭く突き刺さった。

 自分でも分かっている。周りの人間に引け目を感じているのも、自信を持ってロードルに挑むことができないのも自分の願いを持っていないから。皆が憧れる場所に立つ資格がないから。私にロードルに挑む権利はないのだと分かっている。


「状況は粗方把握しました。心苦しいですが、クリーションに接続できない以上これより先に行くことは許可できません。ここは自らの願いを叶える場、恩返しや罪滅ぼし、ましてや偶然手に入れた印で挑めるような場ではありません」


 使者の役目は、より多くの人がロードルに挑戦して願いを叶えられるように導くこと。願いを持たない私は導く必要がないと判断されたか。


 なんとなく感じてはいたが、彼女は私の状況に強い不満を感じているのだろう。自分の願いを持たない人間が神聖なロードルに足を踏み入れたことが許せないとでも言うような高圧的な目。明日の列車で帰るように伝えると話はこれで終わりだと言わんばかりに背を向けられた。


「確かに私は自分の願いを持っていません」


 そんな彼女に向かって言葉を吐く。自分が今まで感じて来た精一杯の答えを伝えるために。


「ですが......」


 ここで引き下がるわけにはいかない。

 私はここで自分に託された願いを叶えなければならない。たとえロードルに見合う願いではないとしても、私には私の望むものがあるから。


「この印が発現し続ける限り、私が手にしている平穏で幸せな日常を失うことになると言われました」


 強く握りしめた拳には自身の爪が刺さり痛みを覚えるが、構わず言葉を続ける。私だって望んでここに来たわけじゃない、願いから自由になりたいだけだと、そんな思いは全部捨て去り心の底から湧き出た本音をぶつける。


「誰のものかも分からない願いのために失われる、私の幸せを守ることは願いにならないのですか」


 一方的に奪われるのを待つなんて到底納得できない。


「私は私の願いを守るためにここに来ました。自分の結末は自分で決めたいと望むことは罪ですか」


 持てる限りの言葉を、自分の思いを投げつける。どう思われたって構わない。

 カイヤやリアムさん、レイナや町のみんなと同じように歳をとり、穏やかな日常を死ぬまで過ごす未来を守るためならば。私が幸せと感じる未来を手にするためならば。


 モノさんは私の言葉にゆっくりと振り返る。


「願い、持っているではないですか」


 若干荒くなった呼吸を整えると、僅かに口角の上がった彼女の視線を辿る。一体何を言っているのか、一瞬理解が追いつかなかったが、強く握りしめた右の手のひらをそっと開く。


 壊れてしまうほどに強く握っていたクリーション、願いを込めることで輝きを得る神物。

 それは、私の手の中で黒く輝いていた。


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