11. 洗礼
『まもなくNo.17、ロードルへ到着致します』
どこまでも続くかのように感じていた青い水平線の向こう。アナウンスと共に窓の外に目を向けると、青い境界から顔を覗かせる神の領域の姿が目に入った。
「あれが"ロードル"......」
山の頂きにも見えるような巨大な塔は、神が創造したと言うに相応しい荘厳な佇まいでこちらを見ている。
遠目からでも伝わる存在感。近づいてはならないと誰かに警告されているようにも、こちらへおいでと迎えられているようにも感じる。
「ようやくだな」
列車がガタンと音を立て、何かを跨いだような振動が伝わる。
『只今、ロードルの神域へ入りました』
振動と同時に車内にアナウンスが響いた。
"神域"ってなんだ、今の振動と関係があるのだろうか。神の領域と呼ばれるロードルだが、目に見える境界があるということなのだろうか。
そうして少し疑問を感じていると、朝の騒ぎをおさめていた茶髪の駅員の女性の声が扉の向こうから聞こえてくる。
「神域内は神力の濃度が高いため、体調不良等がありましたら速やかに駅員へと申し出て下さーい。無理はしないよーに」
廊下を歩きながら皆に呼びかけている。
神力の濃度...?普通の空気とは異なるものがこの空間を満たしていると言うことか。
女性が部屋を通り過ぎる気配を感じながら思考を巡らしていたが、その瞬間、今まで感じたことのない空気の重さが私の身体を襲った。
エスペラに漂っているものは違う、重たく、まるで蜜のような空気。肺に入ってくると身体中を巡り、呼吸することも辛くなる。
「......っはぁ、はぁ...」
気を抜けば内臓を吐き出してしまいそうだ。呼吸すると同時に入ってくるものと、外に出ようとするもの。自分では抑えられない異質な感覚に必死に抵抗する。
なんなんだこの感覚は。
駅員を呼ぶべきか、そう思い口を開くが出てくるのは言葉にならない音のみ。それと同時に酷い吐き気が襲ってくる。
数分間、違和感に耐え、深く呼吸していると段々と慣れてきたのか、少し身体が怠い程度に治まった。
「カイヤ、ミナカ、体調は?」
何とか呼吸を整えながら、2人の安全を確かめる。
「俺は大丈夫」
「あたしも平気よ」
2人共大分キツそうではあるが、問題ないという返事にとりあえずは安心する。
「ヤヅキは大丈夫か?」
一呼吸、深く息を吸い込むと短く吐き出した。
「大丈夫」
返事をしながら周囲の音に耳を澄ませる。咳き込む声や大丈夫かと確認し合う声、何か液状のものが床に叩きつけられる音。
皆似たような状況であることを感じ、少し緊張を緩める。
「この気持ち悪ぃのが"神力"なのか?」
胸元を抑えながらカイヤが顔を上げ言う。
「そうみたいだね」
境界を越えた途端に襲ってきた感覚、あの女性の呼びかけ。神力は身体に負担が掛かるものであり、ロードル内にはその神力が満ちている、そう考えられる。
まだ少し気分が悪そうなミナカの隣に移動すると彼女の背中をさすりながら、未知の力について思考を巡らせる。
『お待たせ致しました、この列車は間もなく停車致します。お忘れ物が無いよう、十分にご確認下さい』
アナウンスが流れしばらくすると、列車が甲高いブレーキ音を立てながら停車した。
終点に到着したようだ。
「止まったな」
カイヤが背伸びをして立ち上がる。
「最高の気分ってわけじゃねぇけど、目指してた場所、ようやく着いたな」
荷物を整え席を立つと3人で顔を見合わせる。
「行こうぜ」
ようやく着いたのだと実感しながら頷き合うと、列車を降り神の領域を踏み締める。
ここが神の領域、世界の中心、皆が目指す場所。
願いの塔『ロードル』だ。




