7. 何かの縁
『まもなく、No.17が発車致します』
発車まで後5分。
荷物の整理も終え、アナウンスを聞きながら足を伸ばしてくつろぐ。
『到着は明日正午頃を予定しています』
0時が近づき身体は疲れ、眠いはずだが、この先への興味と興奮で一向に眠気は来ない。
室内に用意されていた掛け布団を被り、少し暗めになった天井の照明を見上げた。
「ごめんなさい、誰か入れてくれませんか!」
乗車時に比べ静かになった車内に誰かの声が響いた。声の主は私達が使っている部屋の扉を何度か叩く。
「なんだ!?」
突然の出来事に驚いているカイヤと顔を見合わせる。
「お願いします!」
汽車は毎晩発車するため、満員だった場合は翌日乗車することが出来る。しかし、扉の向こうの少女はどうやら必死な様子で声を上げている。
このまま無視するのも心苦しいため、仕方ないと言うように頷きカイヤへ合図を送った。それを見たカイヤは、渋々と言うように立ち上がると鍵を外し、ゆっくりと扉を開ける。
「っ!」
すると、扉の前に立っていたのは、昼に出会った赤い髪の女の子だった。
「「あの時の!」」
カイヤと女の子の声が重なり、静かな廊下に声が響く。
あたふたとしている女の子とカイヤの手を掴むと、時間も時間な為とりあえず部屋の中に入れ扉を閉める。
「ご、ごめんなさい。何度も迷惑かけちゃって」
高い位置でひとつに縛ってある赤髪の毛先をキュッと握ると、眉を下げて申し訳なさそうにする。
「大丈夫ですよ」
本当に困っている様子の彼女を見てカイヤと2人で気にしないでと笑って言うと、荷物をまとめてカイヤの隣に席を移し席を譲る。
座るように促すと何度もお礼を言いながら席に着いた。
「本当にありがとう。お礼するって言ったのにまた迷惑かけちゃって」
まるで子犬のような瞳に、使い慣れてないエスペラ語で愛らしさが増している。
「気にしないで下さい。2席も空いてますし、1人増えても問題ないですよ」
「また会えたのも何かの縁だし気にすんな」
カイヤも苦手なエスペラ語で会話を続けた。その言葉を聞いて安心したのか笑顔でもう一度お礼を言うと自己紹介を始める。
「あたし、ミナカ・セレナス。コペケ生まれの幻想の民」
種族の特徴である尖った耳を指して、幻想の民であることを示す。
「俺たちはオルドリーゼから来た狩猟の民だ。俺はカイヤで、」
「私はヤヅキです」
互いに種族を伝えると挨拶を済ませる。
「狩猟の民なの?あたし初めて会うわ」
目を輝かせて私の手を取る。
「狩猟の民ってとっても運動が得意なんでしょ?ラハケ川を走って渡れるって、お師様に聞いたことがあるわ!」
幻想の民の国コペケと、大地の民の国ガイラハベルの間を流れるエスペラで最も幅が広い川、ラハケ川。幅は約15km。
普通に考えて無理だ。
「流石に走ってじゃ無理だな。泳いでなら全然いけるけど」
他の種族に比べて、狩猟の民は身体を動かすことに関しては優っている点が多い。走るスピードも持久力も、飛ぶ高さも筋力も他の種族に比べれば倍の記録を出すことは容易い。
実際、水の上を走れるほど足の速い人物がいるという話は聞いたことはある。しかし、流石に15km以上を走り切るというのは不可能だろう。足が沈み込む前に踏み出すスピードを維持しながら15kmは進めない。
噂が流れるにつれ大袈裟に伝わってしまったのだろう。
「そっか、残念ね。正直、半信半疑だったけど、船が無くてもそんなことが出来るなら楽しいだろうって思ってたのよ」
少し残念そうにするミナカに声をかける。
「ラハケ川は走れないけど、オルドリーゼからイレサスまで走った人なら知ってますよ」
この大陸の端っこである私達の故郷オルドリーゼから、コペケを過ぎた先にある結束の民の国イレサス。10万km以上ある距離を身体一つで走った人物を私達は知っている。
「ほんと?!」
また目を輝かせてこちらを見るミナカに頷くとカイヤに話を振る。
「本当だよ、俺の師匠のサノスって人なんだけど若い頃に走りきったってよく自慢されたよ。2年で行って帰って来たって聞いたけど、町の人たちも皆んな知ってるし本当だと思うぜ」
狩猟の民の基準で考えたとしても異常なスピードだ。今では無理だな、とよく笑っていたがサノスさんの持久力、スピードは今でも恐ろしいものだ。
「2年で?やっぱり狩猟の民って凄いのね!」
サノスさんの話を聞いて嬉しそうにしている彼女の姿に、こちらも嬉しくなる。
「私たちからすれば、幻想の民の方々の技術も凄いですよ」
薬から毒まで、医療や工業など様々な面で活躍する薬品の殆どは幻想の民が造り上げたものだ。
「コペケの薬はどの薬草よりも治りの速さが段違いで俺もめっちゃお世話になったよ」
普段の鍛錬で生傷を絶やさないカイヤはコペケの薬によくお世話になっていた。
狩猟の民が昔から使っている薬草の処置では数日かかるのに比べ、幻想の民の薬は塗るだけで次の日には軽い傷なら殆ど治った状態になる。
「ここの薬、他の国でも有名なのね」
カイヤの言葉にミナカが笑顔を浮かべると、同時にもう一度アナウンスが室内に響く。
『願いの塔 "ロードル" 海上汽車No.17。発車致します』
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