1. 日常の景色
唯一神アラクトウィンド。
願いの神であり、我々が暮らすこの世界を創り上げた神。彼は13の生命を創り出し、それらは自身の国を築き上げた。
この物語の舞台となるのはどの国にも属さない、神が直接生成した巨大な建築物。
"ロードル"
選ばれし者にのみ開かれる扉は、どんな願いをも叶える塔への最初の道。エスペラに住む者なら誰であれ、一度は夢に見るであろう頂上からの景色。
そこには何があるのか......
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「ヤヅキー、そろそろ買い物行くぞー」
"願いの塔『ロードルへの道』"
どんな願いでも叶うなら、一体何を願うのだろうか。後悔しない選択肢はあるのか。
先程まで読んでいた本の表紙を眺め、重い腰をあげる。
「はーい、今行きまーす」
下の階にいる声の主に返事をすると肌寒くなってきた窓の外に目をやった。
もう冬が近いのか......。
外に出るのを億劫に感じながらもローブに袖を通し、階段を降りる。
「また読んでたのか?」
琥珀色の瞳を細めながらお見通しだというように此方を見据える幼馴染。
「そう。面白いよ、カイヤも読む?」
活字嫌いな彼の心の内を知りながらも聞き返す。
「あんな文字しかないのの何が面白いんだよ」
上着のボタンを留めながら、めんどくさそうに答える。
「まぁ、感性は人それぞれだし否定はしねぇけど」
私よりも少し身長の高い彼は、もう10年以上一緒に過ごしている幼馴染。買い物用のかごを手に取ると、店の裏にいる自身の父に声をかける。
「親父、行ってくるよー。店の扉開いてるから気ぃつけろよー」
少し声を張り呼びかけると、奥の方から返答がある。
「おぉ、ありがとーな。行ってこーい」
声が聞こえると扉を開けると、外の冷たい空気に触れた。
「さむっ」
2人して外に出て店の扉を閉めると両手で自身の腕を摩り、上着の首元に顔を埋める。
いつのまにか消えた夏の香りは、もう冬を知らせる風へと変わっていた。室内との温度差に思わず身震いし、冷たい空気が肺に充満する。
「もうすぐ冬だね」
まだ白くない息を吐くとカイヤの方を見た。
「今年は気温下がるの早いな。まぁ夏の暑さよりはマシか......」
手を擦りながら、体温の高い彼は渋々といった感じで溜息をつく。
この国の民の大半を占める"狩猟の民"は、その名の通り、長い間狩猟を中心に生活していた種族だ。見通しが良い狩りシーズンの冬場に長時間狩りが出来るよう、基本体温が他の種族に比べ少し高い。
常に身体が温まっているため身体能力も高いことが特徴だが、それ故に夏場は体温の発散が困難であり、苦手な季節となっている。
現在では狩りをする機会は減っているが、種族の特徴は受け継がれ、彼のように夏が苦手な者が多い。
「さみぃし、とっとと買い出し終わらせて帰ろうぜ」
先程まで縮こまっていた背中を伸ばすと此方を見てニカっと笑う。どうやら体温調節が済んだようだ。
「うん。早く帰ってあったかいココアでも飲もう」
私はまだ冷たい指先を服の袖で隠しながら、帰宅後の有意義な時間を提案する。
いつもと同じ道を2人で歩きながら。




