4. 街
「すげぇ! 海だー!」
揺れる寝床で目が覚めると、窓の外に広がるのは見慣れない美しい街だった。
険しい山々に囲まれた故郷とは違い、青く輝く海が見渡せる国『コペケ』。
大きな山も少なく平地となっている港町は、沢山の人で賑わっていた。
「これが都会ってやつか」
薬学について詳しい知識を持つ幻想の民。
工業から医療まで、様々な場面で役立てられる技術は商売の道具として申し分ない。
海沿いで平地であるコペケは運送の点でも恵まれており、国土から考えても人口が多いと有名だ。
そんな条件が揃っている街は、カイヤが言うように"都会"の景色を作り出している。
「あれが駅だね」
窓から見える一際大きな建物を指差した。
一般的な領主の城よりも大きい駅舎は、願いの塔への道に相応しい荘厳さを感じさせる。
この街は"ファリス"と呼ばれており、海上汽車の駅があることからコペケの中でも最も栄えている場所だ。
「でっけぇな、城みたいだ」
少し高台を走る馬車からの景色は、街を見渡すことができ、駅舎の美しさを際立たせている。
2人して感嘆の声を漏らしていたが、暫くすると細道に入り、見下ろしていた街の中に入った。
「やっとついたな!」
馬車が止まると同時に、カイヤはその場から飛び降りて大きく背伸びする。
途中途中で休憩を挟んだとはいえ、1週間も馬車にこもっていた身体への負担は大きい。
「流石にこの距離の移動は疲れるね」
カイヤに並んで私も固まった筋肉をほぐすと爽やかに吹く、感じたことのない海風の香りに思わず頬が緩んだ。
「すげぇな、今度親父も連れて来ないと」
カラフルな看板で溢れかえる通りは、故郷のオルドリーゼでは見た事の無い景色だった。
ロードルに挑む者たちが集まるファリスには多くの宿屋が集まっており、宿に泊まる人々が利用する食事処や娯楽施設、酒場、お土産屋など、思いつくものは全て揃っている。
そんな景色をひとつひとつ忘れないよう、大切に記憶に刻んだ。
帰ったらリアムさんに話せるように。
「次は3人で来よう」
そう言うとカイヤは笑って答える。
「だな!」
2人で積んできた荷物を馬車から下ろし終えると、説明書を読みながらハグル馬の背中にあるレバーを引き、目的地を切り替える。
「お前らのお陰で、ここまで楽に来られたよ」
カイヤが首元を撫でると生きている馬と変わらない反応で気持ち良さげに声をあげる馬達。2人で感謝と別れを伝えると、発車準備のレバーを引いた。
ハグル馬は機械らしいエンジン音を立てると小さく身震いし、こちらへ合図を送る。馬車から離れると、ハグル馬達はまるで別れを告げるかのように首を下げ会釈した。
次に彼らに会えるとしたら、ロードルを出た後になるだろう。
その頃には今よりずっと成長した自分がいることを想像し、エンジンが温まり準備が整った馬車を見る。
カイヤが車体を叩き出発の合図を送ると、ハグル馬達はゆっくりとスピードを上げ、私たちの故郷オルドリーゼへと駆け出していった。
「ここからは親父の助け無しだな」
段々と小さくなっていく馬車を見送りながら、カイヤが気合を入れるように呟く。
「そうだね」
16年間住み慣れた故郷を離れ、親元を離れ、まだ見ぬ神の領域へ足を踏み入れようとしている。
「これからは自分の物語は自分で切り開かないと」
カイヤと目が合うと2人して笑い、頑張ろうと言葉を交わす。
「それじゃ旅の第一歩は昼飯だ!」
ここ1週間、簡単な食事しか食べていないカイヤの腹はどうやら限界のようだった。
「荷物、預けてからね」
両脇にある荷物を抱え、この先の旅路に期待を膨らませながら私達は歩き出した。




