1. 夕焼けの声援
ロードルの使者ビクトル・コロブネフが家を訪れてから、あっという間に1週間の時が経った。
いよいよ、明日はこの町を離れる日。
「まさか2人揃って印が発現するなんてね」
今日は友人に別れの挨拶をして回っている。彼女はレイナ・リクリス。カイヤの追っかけをしていた、所謂 "一軍女子" のリーダーだ。
幼い頃は嫉妬心からか、いつも一緒にいる私に対して強く当たっていたが、今ではそれなりに仲の良い友人だ。
「カイヤと一緒に行くために小細工でもしたんじゃないの?」
腕を組みぷりぷりしながら言う彼女の姿に昔を思い出して少しおかしくなった。口元を少し緩めながら、本気で言っているのか?と言うように見ると、レイナは組んでいた腕を解いて笑い出す。
「冗談よ、冗談。貴女がそんなことしないのなんて分かってるわ」
そう言うと、私に腕を絡めながら少し声のトーンを落とした。
「でも、羨ましいのは事実ね。私も一緒に行きたかったわ」
しょんぼりした様子は、まるで子犬のように愛らしい。最近はお互いに家のことが忙しく会えていなかったのに、久々の会話が別れ話とは、申し訳なく感じる。
「帰りに通る街でレイナに似合いそうな装飾品があったら買って帰ってくるよ」
そう言うと、レイナは楽しみしてると笑って返答した。
「分かってるでしょうけど、ロードルは素晴らしいと同時に恐ろしい場所よ。怪我して帰ってきた人は少なくないわ」
両親が医者であるレイナは、夢を諦めて帰ってきた人達のことを今までよく見てきたのだろう。
「まぁ、カイヤがちゃんと守ってくれるでしょうけど、5体満足で帰ってこなかったら一生許さないわよ」わかった?と念を押すレイナに「わかったよ」と返事をした。
そんな会話をしていると後方から耳慣れた声が聞こえてくる。
「ヤヅキ〜! レイナ〜!」
どうやらカイヤも友人への挨拶が済んだようだ。一緒に狩りをしている仲間から、市場のおばあちゃん、ファンの女の子達まで、多くの人々に囲まれたカイヤがやっとのこと抜け出して、こちらに小走りで駆け寄って来る。
「あら、私の為に抜け出してきたの?」
揶揄うように言ったレイナだったが、カイヤは至って真面目に返事をした。
「当たり前だろ、大事な友達にはちゃんと挨拶しねぇと」
その言葉に喜びと悲しみを感じているレイナには気づく様子もなく、カイヤはその笑顔のまま彼女の手を取る。
「俺たち願い叶えてまた帰って来るから、それまで元気にしてろよ。一人残ってる親父にもたまには声掛けてやってくれ」
何年も一緒に過ごしているが、カイヤに弱いのは相変わらずなようで、レイナは耳を真っ赤にして目を逸らすと「わかったわよ......」と小さく答えた。
レイナだからこんな程度で済んでいるが、カイヤは男女関係なくこんな距離感で相手に接する。故に同性と仲良くなるスピードは素晴らしく、異性、または同性でさえも勘違いさせてしまう頻度は言うまでもない。
実力重視の世界で圧倒的な好成績を残し、誰であれ気さくに接してくれる。正義感も強く優しい。極め付けは輝く琥珀色の瞳と、太陽のような笑顔だ。年頃の女の子が夢を見るのも無理はない。
「ほら、カイヤ。レイナを虐めるのはこのくらいにして」
今にも沸騰しそうなレイナを解放すると、彼女は私にお礼を言う。
「いじめてなんか」と不満を示すかいやを横目に、咳払いをしてなんとか調子を取り戻したレイナが口を開いた。
「と、とにかく。この町のことは心配しないで。みんなリアムさんのお世話になってるし、貴方達が帰って来るまで何も問題は起こさせないわ」
若者の中でもそれなりに影響力のあるレイナが心配ないと言ってくれるのであれば心強い。
「ありがとう、レイナ」
胸を張って答えるレイナに、私とカイヤは感謝を示した。
「2人共、頑張って願いを掴んで来なさいよ。ボロボロになって帰ってきたら町に入れてあげないからね」
腕を腰に当て、唇を少し尖らせて言うレイナ。怪我せず帰って来いと言うことだろう。
彼女らしい見送りの言葉に思わず笑みが溢れた。
「無事に帰ってきたら、自慢の友達だって見せびらかす為に沢山連れ回すんだからね。覚悟してなさいよ」
はいはい、と2人で返事すると「またね」と笑って手を振った。
「レイナが自慢に思えるような人になって帰って来るよ」
少し潤んだ笑顔を浮かべると、彼女も安心したように手を振りかえす。
「応援してるわよ」
そんな彼女の言葉を背に、私達はこの町で最後の夕日を浴びた。




