14. 自分勝手
「君はこれで神に選ばれた者だ」
肩から手を離すと今までの行動からは想像もできないほどの優しい笑みを浮かべ、カイヤに告げる。
「この印を手に入れた君は、昨日までとは比べ物にならないほど険しい道を歩むことになるだろう。それでも、君の願いが揺らぐことがないと僕は信じてるよ」
そう言うと、まるで自分の仕事はこれで終わりだと言わんばかりに、服を整えて帰り支度をし始める。
「ちょっと待て、それってどういう......」
カイヤは焦って呼び止めようとするが、使者は振り返るとにこやかに返答する。
「そのままの意味だよ。君はアラクトウィンド様に認められた。君は君の願いのために頑張ればいい」
自分の腕に現れた印と使者の顔を交互に覗きながら、琥珀色の瞳がぱちぱちと瞬く。
「そ、そんなあっさりでいいのかよ」
そんなカイヤに目もくれず、使者は淡々と話をした。
「我らの神はいわゆる"自分勝手"な面がある。彼女のようにそれが負の影響となることもあるし、君のように良い影響を受けることもある。こればっかりは運次第だ」
「いや。でも、そんなの、」
カイヤは納得していない様子で口を挟むが使者によって言葉は遮られる。
「あんまり、うだうだ言ってるとせっかく与えられたチャンスを失う羽目になるよ」
それ以上は細かい説明を省くように会話を終了させると忘れ物がないか確認をする。
本当に帰ってしまいそうなその様子に、私も慌てて声をかけた。
「私もまだ聞きたいことが沢山残っているんですが」
焦る私に視線を落とすと、使者はにやりと笑いながら天井、いや、もっと高い場所を指差しながら笑った。
「君が知りたいことは僕じゃなく、君が合わなければならない人に聞くといい。僕のような下っ端には君にとっての最善の道を照らすことしかできないからね」
その言葉は、ロードルへ挑戦するしか全ての答えを得る方法はないと伝えているようだった。小さくため息をつくと「わかりました」と返事をする。
それならば仕方ない。誰のためでもなく自分の為に、自分が知りたい答えを自分で探そう。
「それじゃ、もう聞くまでもないだろうけど、2人でロードルに挑戦するということで間違いないかな」
玄関の方へ歩くと最後の確認だと言うように私とカイヤに質問した。
カイヤが一緒に来てくれるのなら、困難な道だって歩いていける気がする。勿論不安は残るが、自分の運命は自分で変えねばならない。
カイヤと目を合わせ互いに意思を確認すると使者の質問に答える。
「「はい。」」
他人の願いのためなんかじゃなく、自分自身のために。
「ロードルで、"願い"を見つけてきます」
使者はカイヤと私の前に立つと、ぽんぽんと優しく頭に手を乗せる。
「願いを知らない少女と、神をも認めさせた少年。想像を遥かに超える素晴らしい物語を楽しみにしてるよ」
満足げに笑うと、ひとり椅子に残るリアムさんを振り返った。
「リアム。前にも言ったが、彼らの運命は君のせいなんかじゃない。形が違ってもロードルへの旅路は誇らしいものだ」
少し沈んだように見えるリアムさんの表情を見て、少し言葉を選ぶように微笑む。
「胸を張れ。君の子供達は、皆が目指す光へ進むんだから。何も後悔することはない。」
そう言うとリアムさんに背を向け、もう一度私たち2人と目を合わせる。
「君たちの結末、期待してるよ」




