12. 一本道
ロードルはエスペラに住む者が一度は憧れる場所。その認識は間違いない。
しかし、憧れと同時に恐ろしさも兼ね備えている場所でもあるということを忘れてはならない。
『夢を持つ者が手を伸ばし、見上げている場所だが、それは実際に手が届くことがないからこそ輝きを保っていられる。
ロードルを登りきり神の御前に立った者の功績は光り輝き、多くの者の目を引くが、願いを手にできなかった者の姿は風が吹けば忘れ去られる。
危険と隣り合わせの世界で、自分の願いのために全てを捧げること。それだけの覚悟を持つ者には、この世とは思えぬほど残酷かつ美しい景色が待っているだろう。
それこそ、我らの世界の中心。願いの神アラクトウィンドが眠る、ロードルの姿だ。』
頭をよぎったのは、よく読んでいた本。"願いの塔『ロードルへの道』"の内容だった。
残酷かつ美しい世界。自分の願いも知らないような私には、その世界を見る覚悟はない。
しかし、ロードルへの道を進まなければ、家族と共に同じ歩幅で歩む未来は無い。彼が口にしたのはそんな事だった。
「まぁ、これはあくまで可能性の話であって確定事項じゃない。でも、君の願いはそれくらい異例なものということなんだ」
使者は人差し指をさらに右へ滑らせる。
「この先もその願いが残り続ける確証は無いが、消えるという保証もない。事実、10年前にも君に印は発現しているが、現在まで願いは消えていない」
10年前、ということは6歳頃のこと。そのときにはすでにラックルス家に来ていた。リアムさんの方を見ると、静かに頷き事実であるということを知らされる。
ロードルに挑戦すれば願いも分からず危険と隣り合わせの試練に立ち向かうことになり、断ればこの先何十、何百年と誰のものかも分からない願いに振り回されることになる。
なんて酷い選択肢だ。隣の家の犬にでも運命を託した方がマシかと思うほど。
「不老不死に興味があるなら拒否という選択も悪くはないと思うけど、経験者の意見としてはおすすめはしないね。一生願いに追いかけ回される人生は楽しくないだろうし、友との別れも多すぎる」
叡智の民ならではの悩みだろうか。他の民との接触は最低限にして、使者としての仕事は表面的な関係だけで済ませている。そうやって生きることで自身のことを守ってきたのだろう。
そんな生き方が私に出来るのだろうか。一般的な幸せのみを望んできた私にとって家族との別れ、友との別れをそんな形で迎える勇気はない。それならば。
ビクトルさんが言う道しか残されていない、ということなのだろう。
「つまり、私に選択肢は残されてないということですよね」
深く息を吐き、膝の上に乗せていた手をぎゅっと握る。
「そう解釈するのが妥当だろうね」
僅かに期待していた他の道は存在していないと告げられ、暗い一本道に取り残された気分になる。
なぜ、自分がこんな事に巻き込まれなくてはいけないんだろうか。
実は全部夢なんじゃないか。たった一日で起こる問題にしては多すぎる。
こんなの受け止めきれるはずないに決まってるじゃないか。きっとこれは目が覚めれば内容も忘れてしまうようなどうでも良い夢なんだ。
きっと......。きっとそうなんだ。
しかし、爪が肉に食い込むほど拳を握ってもこの悪夢は消えてくれないようだった。私の願いは聞いてくれないのに、こんな道しか示してくれないなんて現実はなんて残酷なんだろうか。




