第8話【変わらない君】
「さて、なにから話そうか」
改めて見てみたが、やはり見た目は俺の作った仮想アバター・・・。
だが、中身はなにかいる状態、そしてその声といい・・・。
「好きな食べ物」
「たこやき!」
「嫌いなモノ」
「モラルのかけらもない人」
「好きな音楽家」
「ドヴォルザーク!」
元気よく手を上げたり、両腕をぐっと構えたり。
元気な奴だよ本当に。
こんな情報を入れた覚えはないし、そもそも俺の本名やこいつの家族のことまで知ってたらほぼ確定だな。
「本当に帰って来たみたいだな」
「それはその・・・なんていうか、びっくりだよね、私死んだはずなのに」
そう、彼女は数年前の事故で確実に亡くなった。
遺体も発見され、葬式も出た。
生きていたら22歳で俺と同い年だったんだが。
死んでいるからか、声がそのまんまだな。
「一見すると完全に生き返った感じもするが、実際のところこれだ」
俺は彼女の手を触れようとしたが、その瞬間、粒子の様にぼわぼわ透き通ってしまい、何も触れなかった。
「残念だなー・・・せっかくならもうちょっと便利な生き返らせ方させてほしかったなー・・・」
「ま、神様もそこまで万能じゃなかった・・・あるいは、俺のわがままを聞くかわりに色々ルール決めてたのかもな」
「そうだね、天国や今もなおさまよい続けている人達は生き返ることもできないんだもんね、わがままはよくないね!」
哀しげ顔はだんだんと明るくにっこり笑う。
彼女の感情豊かなところまで、本当に・・・かえって来たんだと、俺は実感した。
ただ、不思議なもんだ。
転生なんて、なろう小説やファンタジーだけの話かと思っていたが。
まさか、生でそんな体験することになるとは俺も生きてみるもんだ。
「真白も知ったら驚くだろうな」
「真白ちゃんもいるの?」
「わけあって半同居だな」
「えっ!じゃあ結婚!?それとも付き合ってるの!?」
目をキラキラさせてこちらに近づいて問いかけるその姿。
あまりにもまぶしい。
「お、落ちつけ、アイツとはとくに特別な関係じゃねぇよ、ちょっと生活がままならなくなって、助けてもらったていうか」
「そうなんだ、それにしても、そんなことになるまで真白ちゃんを困らせたりするなんて、なんかあった?」
「・・・まあ、お前がいなくなった後も色々な」
「・・・?」
俺は思わず、目をそらした。
語りたくない、思い出したくないことを考えてしまったからだ。
「一度、音楽やめたんだ、俺は」
「えっ・・・」
驚きのあまり、開いた口が塞がらない翠歌。
そうだろうな、約束をまもれなかったんだから。