第6話【夢の中で】
時刻は深夜二時、明日も休みとはいえこんなに作業することに最近特に抵抗しなくなっていた。
元々睡眠時間を削って無茶するような性格だったが、これは将来早死にするのではないのか少し不安があったが、長生きして特にやることもなく死ぬより若いうちにやれるだけのことやって死ねるならそれでもいいかと思ってしまった。
とはいえ、モデルの調整ならまだしてもさすがに久々の音楽づくりになんかくたくただな・・・仕事帰って来てもほぼ夕方は寝ているし、まともにできるのがこの休日くらいでは他とえらい切り離しされているのではないのだろうか。
「考えても仕方がないか・・・少し休憩しよう」
煮詰まったら頭を冷やす、親父の教えだ。
俺はゴーグルを取ってふと目に移ったスマホを見た。
濡れてボロボロになった緑色のお守りがついたこのスマホは翠歌のスマホだ。
今はもう動かないが、中には翠歌が生前、飛行機の中で書いてたメッセージがあった。
人助へ
世界へ送り出してくれてありがとう。
君のおかげで私は夢の舞台へ行くことができた。
本当はみんなと一緒に行きたかったけど、選ばれたのは私だけだった。
みんなには本当にわるいなって思ったけど、君が背中を押してくれた。
世界に君の声を届けてほしい、そしたら俺達もその声にむかって音を鳴らす。
その言葉を信じて私は世界へ行きます。
貴方が音があればいつだって私達は繋がっていると言ってくれた。
その言葉を信じて、世界へ向かいます。
いつか、またみんなで音楽やろうね。
天心 翠歌より
これが彼女の最後の言葉だった。
声もなく、電子のメッセージがただ一件、奇跡的に残っていた。
なにか運命を感じたが、俺は強く後悔してしまった。
なんであの時俺はアイツを世界に送ってしまったのだろう。
でも、今更後悔しても遅い。
過去はどれだけ望んでも悔やんでも変えられないから過去なんだ。
後悔しても、その時間にもどれるわけがない。
だからもし、できるとしたら今を生きてなにかするしかない。
もう一度夢を叶えたいと願うなら、生きて叶えるために。
今と戦うしかないんだ。
「・・・頑張ろう」
俺は充電が切れかけていたスマホをパソコンにつないであった充電コードにさして、少し自分の部屋のベッドで寝ることにした。
明日というより今日だが、あまりゆっくりはしていられない。
アイツの夢を叶えてやるためにとことん頑張らなくては。
目を閉じて、暗くなって考えが薄れていた時だった。
光が差し込むと、綺麗な青空とそれを映す綺麗な湖のような地面。
ここはどこだろうか、天国なのか?
どこかわからずあっちこっちを見ていた時だった。
「人助!」
「えっ?」
呼ばれた声のほうを見た時、一人の少女の姿があった。
あれは・・・翠歌!?
「待ってるよ、人助」
と、その言葉を聞いてハッと目が覚めた。
気が付けば朝8時だった。
「夢か・・・、あいつが夢に出てくるなんて」
汗びっしょり、顔を洗うついでにシャワーも浴びてきた。
「なんで、あんな夢をみたんだろうか」
待っているとは天国だろうか、まだいけそうにもないがな。
俺は少し考えながら作業する部屋へと戻っていくのだった。