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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第20話【最後の結果】

パチパチ・・・。

曲の終わり、最初は拍手が少なかった。

俺は少し「えっ?」と困惑してしまったけれど。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!

徐々に響いた多くの拍手を聞いて一安心。

真白の曲はみんなに届いたんだ。

「・・・以上をもってすべての曲が出そろった、さあ、運命の三回戦、これですべてを決める!」

アープル様がマイクをくるくると回して握りしめ止め声を響かせる。

高らかに、この運命を見定めるために力強く。

泣いても笑ってもいよいよこの結果ですべてが決まる。

「真白はできることを尽くしました・・・負けても悔いはありません」

この勝負に独自で磨いた経験にものを言わせた戦慄の演奏者。

後半は自ら楽しむことを思い出すように無我夢中で弾き続けていた。

勝負の中で楽しいとさえ思ってしまう熱意、あれは本物。

「勝つ・・・この戦いに勝つ!」

ただ、翠歌だって負けてはいない。

真白以上じゃなくても翠歌自身が身に着けている天性の才能。

この世に使えない楽器は存在せず、その我が道を行く鬼才は孤高にして王者。

彼女と並び立つ者は二人といないだろう、真白を除けば。

2人とも強い、だが選ばれるのは一人。

この戦いに勝ってほしい・・・。

「さあ、票が出そろった・・・運命の・・・ッ!?」

アープル様が結果を見て、この会場全体に伝えようとしたその時だった。

様子がおかしい、さきほどからパネルを見たまま目を震わせているだけで。

まったく読もうとしなかったのである。

「(こんなことがあるのか・・・?いや・・・彼女達は・・・)」

なにかを確認する様に真白と翠歌のほうを見て再びパネルを見つめ。

悟るように目を閉じて言葉を発した。

「ただ今の試合は・・・DRAWッ!この試合、600対600で引き分けだッ!!」

『えッ!?』

「(当然か・・・二人は・・・蠱毒ではないものな)」

アープル様が静かに微笑み、その結果を確信した。

会場全体が驚くその結果はまさかのDRAW。

疑いようのない、その奇跡の票の分かれ。

1200人ぴったりの数字と、会場の人数。

それらが合わさったからこその結果ともいえるがそれだけじゃない。

2人の届きたいと決意する者と置いていくと覚悟した者の物語。

真白は翠歌に誰よりも近づきたかった。

走っても走っても届かない先にいると思っていたから。

一番にはなれないと、でも違った。

真白のその揺るぎない思いが、最後に届かせてくれたんだと。

翠歌だってそうだ、この戦いで負けるくらいならピアノをしてほしくない。

もう音楽にいないでほしい、そういう気持ちを込めて。

鬼のような心でも、内心やめてほしくないからだ。

真白には音楽に残ってほしいから全力で答えた。

2人の思いが重なり、一つの物語を作った。

「ちょ、ちょっとまってください!」

と、内心で考え事をしていた時だった。

真白が慌ててアープル様に近寄り、何か言いたそうにしていた。

「これ決着つけなきゃいけない勝負なんですよね!?」

「嗚呼、そうだったな」

「だったら、なぜもう一戦やらないんですか!私達の戦いはまだ決着が・・・」

この結果にどこか納得しきれない真白にアープル様は言った。

「真白、これも結果だ、貴様らが全力の全力の果ての戦いがこの結果なんだ」

「だったら・・・私は・・・翠歌先輩はどうすれば・・・」

真白は不安げにどうしたらいいかわからない、そんな真白に。

アープル様はにっこりと微笑み、こう言った。

「だったら、こうだろう、【二人ともまた同じ道に戻る】だけだ」

「ふえ・・・?」

「今は決着がつけられないほどに2人の実力は離れていない、このまま戦い続けてもそれは実力ではなく消耗から生まれた単なるその場の慢心でしかない」

「それは・・・」

「今は・・・どちらも折れる必要がないということだ、どちらも貴様ら仲間たちにとって必要な力、だったら、また一緒に歩き出せばいい、歩き続けた先でもしまた同じようなことが起きたら、その時またぶつかれ」

「・・・アープル様」

「それに、少なくとも、真白・・・楽しかっただろう、思うがままピアノを弾いて」

アープル様に言われたその一言でハッと気づき。

少し、ずるいとそんな感じに微笑みを見せて真白は言った。

「・・・はい、とても」

「ははは!だったらよいのだ!魂の叫びは無事放たれたようだな!」

甲高い声をあげて喜ぶアープル様。

と、その時。

「・・・おや、お呼び出しかな?」

アープル様の目の前に透明なパネルがシュッと現れる。

タターンタターン・・・タターンタターン。

クリアな音が鳴りひびくこれは着信音、つまりアープル様を呼び出している人がいるということだ。

アープル様はそのパネルに優しく触れて声を聴いた。

「ごきげんよう、こちらアープ・・・」

『どこ行ってんだよ~!アープルゥ!』

「おやおや、メンマ・・・どうしたそんな荒げた声で」

『どうしたもこうしたもないよ~、明日の予定話すからそろそろ戻ってこないと』

「嗚呼、アンちゃんまでいるのか、ということはなっちゃんも?」

『います』

「嗚呼、みなすまないな、いますぐ戻るさ、しばらく待っていてくれ」

なにやら三人くらい別々の女性の声が聞こえて来たが。

まあ、そんなに気にすることでもないだろう。

おそらく彼女の関係者だ、それ以上でもそれ以下でもない。

と、アープル様が会場全体に話しかける様にマイクを持つ。

「さて、皆の者、お集まりいただきありがとう、礼を言おう、貴様らのおかげでまた一つ彼女達の運命が決まった、この票はおそらく未来を決める最高の出来事となるだろう、だからこそ、彼らの活躍をどうか見届けてほしい、我からは以上だ」

パチパチパチパチパチパチパチパチ!

会場全体に響き渡る拍手の音、満足した会場の人々。

熾烈な戦いになるかと思われたが、終わってみれば二人の演奏者による。

素晴らしい演奏会とも言えただろう、無論引き分けでなかったらそうはいかないが。

「さて、では皆々様、解散しよう、我も予定があるゆえな」

アープル様の掛け声とともにキビキビとこの場を去っていく人たち。

そんな中、アープル様もすぐにこの場を去ると思われていたが。

こちらへ・・・いや、真白の方へと向かっていった。

「真白、お前は一番になりたいと言ってたらしいな」

「・・・はい」

「慣れたか?」

アープル様の問いに真白は哀し気に答えた。

「・・・なれませんでした、同点ということは・・・まだ、たった一人の一番ではなくあくまで、翠歌先輩と同格ということ、嬉しくはありますが、私はたった一人の一番でありたい」

その言葉にアープル様はニッと笑い告げた。

「なら、なればいいだけの話だ」

「えっ?」

真白はアープル様の言葉に動揺していたが。

アープル様はただ真白に答え続けていた真剣な目でただ言い放つ。

「全部の一番にはなれなくても1つのことに集中すれば、絶対に一番になれるはずだ」

「一つのことを・・・」

「そうだ、真白、多彩の友に嫉妬するのも別に悪いことではない、ただ、それを逆恨みに変えるな、目指すべきはそいつを超えるという気持ちだ、多くはできなくとも一つは取れる、一つ取ったら、またそれを極める。そうやって一つの一番になることならできるんじゃないか?」

「アープル様・・・っ」

「真白、どんなに頑張っても一番になれないと思う前にやることがあるだろう?」

真白はアープル様の真剣な眼差しをただ見つめていた。

その見つめていたアープル様もただ真剣に語っていた。

「死ぬまで頑張ることだ、死んでダメだったら初めてその言葉は成立するんだから」

「・・・なれますか?」

「なれるさ」

「ピアノしかできない、心も綺麗じゃない、翠歌先輩みたいに優しくない私でも・・・」

真白はアープル様の言葉に涙がこぼれ始めていた。

スーッとそんな音が聞こえるような静かな涙。

「先輩の一番になることは・・・できますか!?」

涙ながら叫ぶ問いに、迷いなき即答が帰って来る。

「なれる、一番は誰にでもなる権利がある」

「・・・ッ!!」

「上がってこい、復活の猛者達」

ゆっくりとその場を後にするアープル様の背中はどこまで遠く感じた。

俺達はこの人によってこの場救ってもらったようなもの。

もし、この人がいなかったら、この関係はどうなっていたんだろう。

本当に感謝しかない。


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