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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第19話【真白vs翠歌その③】

三分の時間が過ぎ、ついに幕を開ける。

2人の最後の対決、先行はじゃんけんによって決まった。

「勝負をはじめようか・・・先行はさっきもやったが翠歌からだ」

アープル様の掛け声によって翠歌は鍵盤に手を触れて音を奏で始める。

ダンッ!ダダダン!!ダンッ!ダダダン!

初手からかなり強い叩き、音を聴いた瞬間になにか響かせるような曲調。

これは・・・うっせぇわ。

いや、曲名である。

ピアノで聞くと改めてわかる独特な曲調、サビは特にそう。

怒りか憎しみかそれともそれとは違う感情か。

弾いても弾いても満たされないこの欲望をどこへ投げればいい。

そうピアノが訴えてくるかのような強い曲調。

激しい指の動かし方が、たとえ楽器を壊してでも伝えようとする決意。

人の耳に伝え、心に刻み込む鋭いビート。

聞く度にその音の世界は青く、黒く、そしてなぜかそれが素晴らしかった。

タン・・・タララ・・・タラララ・・・。

と、突然音は変わる。

それは冷たい雨が止んで、新たな天気が訪れるかのような。

ダダダダ ダダダ ダダダッ!

打打打打打打打打打打。

何度も言うが、そういう曲名だ。

夏の雨が空け、曇りの中冷えつつもわずかに感じさせる温もりを伝える熱き風。

当然、さっきの曲にだってそれはある。

だからこそこの二つは重なり合う。

叩き叫ぶピアノと打って変わって美しく怒り狂う狂戦士。

その場にいる者を魅了させる完成された殺戮の血染めショーは一見すると残酷。

しかして、芸術に残酷もクソもない、あるのはその人の見せる世界がどれほどのものか。

人に訴えかける洗礼された迷いのないピアノ裁きはもはや褒める言葉を凄いだけでかたづけたくはない。

この曲は要所要所で全く違う見せ方が求められる。

ただ激しくともただ強くも駄目だ。

雨の後、曇る空に、熱い熱気を思わせる連想感。

完成されたフィールドに心は奪われている。

だが、これは二曲目、まだ三曲目が控えている。

そう、このフィールドに射す熱い太陽が残っていた。

テンテテ、テテッテテ、テテテテッテ・・・ッ。

なんともさっきまでの二曲から想像つかない優しい手つき。

晴れ晴れした気持ちい晴れの空が光をさす。

暖かく包み込む天気の良い日差しが、見る者を魅了する。

耳に気持ちいほど爽やかな音色、間違いなくあの曲。

アスノヨゾラ哨戒班。

疾走感もあり、最後に持ってくるにはちょうどいい曲。

ここまで聞いてきた耳に癒される水色の世界。

どこまでも晴れ渡る、どこまでも続く道。

こんな音とどこまでも走っていけたならどれほど幸せなのだろう。

ピアノ音が切なく、しかして温まるような。

攻める時も、いったん止まる時も、守ってくれる時も。

決して忘れない相手への心。

そんな、素晴らしく鮮やかで眩しい演奏だった。

「・・・ありがとうございました」

パチパチパチパチパチパチパチパチ!

三曲ともに申し分ない素晴らしい演奏力。

原曲さながらの豪快さもあり、ピアノとは到底思えないほど完成された表現。

緑歌の本気っぷりが伺える。

さて、俺としては本命の真白がどこまで演奏できるか。

俺はドキドキしながら見守ることになる。

「さあ、次は真白の演奏だ」

アープル様の掛け声で真白も鍵盤に手をのせた。

だが、真白は挨拶もなく突然演奏をし始めたのだった。

タタン、タタタタタッン・・・。

いきなり優しい曲調の弾きかた。

だが、どこか楽し気でもあり悲し気な音。

雨がぽつりぽつりと窓越しから聞かせてくるかのような。

寂しさか、それとも、哀しみか。

辛い時は軽快にステップを踏んでみよう。

気持ちが悲しくても楽しさを忘れさせない。

シャルルだ。

最初の音から風を変える様に音が優しく増え始める。

心の寂しさを表しつつも、その音は不思議だ。

聞いていて楽しいという気持ちもある。

何度だって聴いてしまうような、何度だって泣くような。

記憶を消して、初めて聴く感動が味わえたならどれほど良いか。

街中を歩いて、心によぎる哀を忘れたいように走る。

雨に打たれても、いつか塗り替わると信じて。

そんなイメージを思わせるほどとても美しい弾きかた。

ダダダッダ、ダンダンダンダダン・・・ッ!

しかしてなにかを崩す様に曲は激しく入れ替わった。

清々しいほどいい天気、花は咲いて、小鳥はさえずる。

そんな日に誰かと出くわした。

いや、出くわしてしまった?

雨は止んだ、太陽も出ている。

どこかで血の雨が降るかのような予感。

最悪が訪れようとしているのではないか。

どこかで、そんな覚悟・・・いや、ケツイを抱いた者がいる。

これはそうMEGALOVANIAだ。

アンダーテー〇を知っている人は知っているだろう。

そうでなくてもこの曲の知名度はネットを潜っているものなら嫌でも目に入るはず。

ゲームで聞いた時の感じとピアノで聞いた時の曲の感じは異なる時が多い。

だが、この曲は違った。

物語の終盤、何があっても真実へ突き進む意思を見せた者と。

絶対にあきらめることをやめないエゴを体現させた勇気の道しるべ。

世界の崩壊と死守を表した両者の思いが強くぶつかる。

真白がこの曲を選び、狂いなく弾き渡らせる理由。

緑歌を好敵手と見立てて、なおかつ、自分を同じ立場だということなのだろう。

終わりに向かって、やらなくてはいけない。

立ち向かわなくてはいけない、避けて通れる戦いは存在しない。

やらなければやられるだけ、黙って見てはられない。

弾く度に伝わってくる、熱い熱量。

なにより響く度に伝わる真白の魂の叫び。

ただ、不思議だったことがある。

緑歌は真剣に弾いて勝負していた一方で、真白は楽しそうにも見えた。

実際、二曲目はピアノへ向けていた気持ちは勝負からは離れていたようにも見えた。

今もそう見えている、本当に勝負するときに選曲はかなり考えるはず。

どんな曲をメドレーにして表現したら伝わるか。

そんなときにあまり自分の気持ちのことや、楽しいという気持ちはあまりないはず。

実際これほどの曲を繋ぎ合わせるのも中々苦労するのではないだろうか。

でも、選んだのは、きっと弾いていて楽しいからなんだろう。

曲は終盤に差し掛かってフィナーレを決めるためにより一層強くなる。

デデデッデ、デンデンデンデデデッ、デデデッデ、デンデンデンデデデッデ。

チャンチャンチャッチャーチャチャ、チャンチャンチャッチャーチャチャッ!

長きに渡る二つの魂のぶつかり合いに決着をつけるように弾き終えたその時だった。

タッターン・・・トーン・・・タタタトトーン。

三曲目に入ったとたんにわかりやすく温度が下がったかのような静かな音色。

すべてが終着し、終わった世界に残ったピアノの演奏者と夜の世界。

導かれるような音使い、耳に響き渡る心地よい光のような温かさ。

この音はとても聞き覚えがあった。

「・・・月の光だ」

そう、俺は聴いた時にはわかった。

俺がクラシックで最も好きで、ピアノで聴けるならこれを聴きたいと願うほどに。

夜の世界に輝かせる、静かな月の光が聴く者に伝える。

目をつぶれば夜の風が優しく教えてくれる。

奏でる華麗な音色たちが伝えてくれる。

戦いの終わり、争いのない世界。

穏やかな気持ちで夜空の下を歩いていた気持ち。

晴れやかだった、そこに激しく戦いつづけた者達を見た者にとって。

なんて、いい音なんだろうと。

ただ強い音がすべてじゃない、ただ上手く弾くことがすべてじゃない。

なにかを表現し想像させる力を生み出す音。

真白の奏でる月の光はなにか不思議な力があった。

昔も聴いた時、俺はこの音を聴いたら不安も怒りもなくなるんじゃないだろうか。

そんな心が浄化される気持ちがあった。

辺り一面水面、雲一つない紺色の空。

月だけがあり、光が放つ先にピアノと君がいる。

そんな世界を見ているようだった。

ここにはそれ以外なにもない、だけどこの音があるだけで生きていける気がする。

芸術的と言うにはなんとももったいない、天使を超えた音。

俺はこの音を聴いて確信した。

真白は心の底からピアノが・・・キーボードが好きなんだと。

そんなただ好きなピアノを奏でて楽しむ真白が好きだと。

もし、この音を世界に響かせてやれたのなら、いいなと。

音が終わるその時、彼女の表情はとても楽し気に優しく輝いていた。


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