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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第16話【真白vs翠歌】

「これよりピアノ対決を開始するッ!!」

・・・俺は虹橋人助、今バーチャル空間のK区噴水広場前にいるの。

「どうしてこうなった」

噴水の前に置かれた大きなピアノが二大、その二大の前に座るのは真白と翠歌。

俺は正直どうしたらいいのかわからなかった。

ベッドで休んでいたところ、ジンに呼び出されてどうしても来てほしいと。

言われたので、来てみたらなんかよくわからない対決が始まった。

翠歌には事情は後で説明するから引っ張り出してきたが。

なんとなく、状況が呑み込めず困惑している様子。

そりゃそうじゃ。

真白のほうはギロッと目を睨ませなにかに燃えている。

いったい何がどうなってんの。

最もよくわからないのは開始宣言をしたのはあの有名なアープル様。

どうしてあなたのような方がここにいるのか・・・。

そして急に始まった対決に1200人もの人たちが集まる始末・・・ッ。

「どこからツッコめばいいんだッ!」

俺はやり場のない思いをジンに打ち明ける。

ジンはとても申し訳なさそうに答えた。

「いやまあ・・・お前の気持ちはわかる」

「長くなってもいいからこうなった経緯を聞かせてくれ」

「わかった、あれは確か36万年・・・いや、1万4000年前だったか」

「エルシャダ〇の話じゃなくて」

「真白がキーボードで自信をつかせる為だってアープル様は言っていたけど・・・真白がさっきここでお前となんかあったからどっちがキーボードが上手いか直接確かめたほうがいいって」

なるほど、俺達の事情を把握してこうなったわけね。

それにしたって急すぎる。

アープル様のあの目はマジで実力を図ろうとしてるんだろうけどよ。

俺の心が不安でいっぱいなのを置いてアープル様はマイクを握りしめ。

キリッとした瞳に力強い声を発する。

「お集まりの貴様らに問おう、蟲毒を知っているか?」

蠱毒、それは虫を集め最後の一匹になるまで共食いさせるなんともゲロい話。

アープル様は今それを集まっている人にむけて話していた。

「かつてこんな話を聞いたことはないか、よりその人らしく生きた者をそいつと認める話、十二人の同じ顔、十二人がみな強きもの、だからこそ誰が一番かはっきりさせなくてはならない、どれだけ残酷でもだ」

と、その言葉を聞いた翠歌は声を出す。

「それで、私はなんで真白ちゃんとピアノ勝負をしなくてはいけないの?」

その質問に大してアープル様はキッと睨み返した。

「貴様が負ければ今後キーボードに手を出すな、勝てば真白はキーボードもピアノもやめてもらおう」

その言葉に会場は凍り付く。

確かに勝負とは言っていたが、そんな残酷な戦いが許されるのか?

「待ってくれよ!なにもそんなことしなくたって・・・」

と、俺が口を挟もうとするとアープル様は指をビシッとこちらへ向けて宣言する。

「そんなことをしないでどうやって今後、お前たちは自分たちの役目を決める」

「そ、それは・・・」

「曖昧な言葉で相手を迷わせ、ハッキリとしない真実を飲み込み、勘違いの中で生まれた認識を本当だと思い込む、誰がどうであるべきか、どう生きていくのか、そいつは必要なのか不必要なのか」

「・・・ッ」

「多くの中から一つを選べなくてはならない、もし貴様らが目指すべき場所が頂上ならばなおさらだ」

その通り、本当にその通りだと思った。

曖昧で迷い続けていた自分にとってその言葉以上に返す言葉が見つからない。

真白は今、キーボードとして必要だ。

だが、翠歌だっている。

どちらのキーボードもチームにとってとても強い味方。

だが、それ以上にどちらが凄いのか、俺には決めれない。

決めれないのならいっそ、この場で決めてしまった方がいいのかもしれない。

ただ、俺は二人の気持ちが知りたい。

「真白はどうなんだ、この戦い・・・やるのか」

「やります、ここで証明できないのら、私の音に価値はないッ!」

ギラギラと目を燃やして、いかつい声を上げる真白。

「翠歌は?急にここに連れてきて、まだ心の準備が整わないのなら俺すすめないが?」

心配して声をかけてみたが、翠歌の答えはこうだった。

「・・・やるよ」

「翠歌・・・」

翠歌は一瞬にして覚悟を決めていた。

さっきまで悲しい気持ちでいっぱいだったヤツと同じとは思えない。

「真白ちゃんと気持ちは同じ、私も・・・真白ちゃんの音を信じている、信じているから、ここで全力で潰しにいく、嫌だけど、やりたくない気持ちのほうが強いけど、真白ちゃんに音の世界で生きてほしい、だから私も答えるッ!」

翠歌の眼には不安や悲しみも見えた。

けれどもアイツの割り切る強さと決断しなにを求められているかの切り替え。

そういうことに長けてのその場の判断力は誰よりも優れている。

2人の覚悟は決まっていた。

「ジン・・・俺もこの戦いを見届けるよ」

俺はジンにこの戦いに賭ける2人の気持ちを知り。

見届けると決めることをジンに伝えた。

「ああ、俺もだ、俺も二人の戦いを見届けるぜ」

ジンも同じだ、今はまだチームじゃないが。

昔共に生きた二つの伝説の勝負を見届ける。

2人の気合が入ったところでアープル様が確認し声を発する。

「さて、二人の覚悟が決まったところで勝負についてだが・・・私がお題を出すからそれに対して2人は答えてもらう、シンプルなルール、審査は会場の貴様らにしてもらう!」

伝わってくる、始まる前の二人の緊張感。

一瞬の油断もできない、今後の活動を決める大きな一戦。

今、幕を開ける・・・ッ。

「最初のお題はクラシック曲を一曲弾いてくれ、かぶりも許す、先行は真白からだ」

「・・・では、私が弾くのは・・・【月光】」

真白は静まり返る会場と共にピアノの鍵盤に手をゆっくり置き。

そのまま、激しく指を動かし始める。

デュロデュロデュロ・・・。

「(この速さ・・・ッ)」

始まりから強烈に走る激流の川の様に強く激しい音の動き。

耳に響き渡る狂いなきスピード感。

速く、速く、風なんかよりももっと速く。

強く、強く、相手の心に残すには豪快な音の時により力強く。

現れたのは剛腕な戦士かいや戦いの流れを正確に読む騎士か。

眼を閉じればもっと見えてくる月光で見せる戦場を。

見方を変えるのなら、激しい曲に合わせてホールを舞う踊り子。

滑らかな強さと速さ、間違いなくこれは・・・。

「第三楽章・・・」

月光と言えば有名なのは第一楽章だろう。

にもかかわらずこっちを選んで来たのはおそらく真白なりの決意表明。

目の前の鍵盤すら見ずに音を正確に奏でる様はさすがはこの道の天才。

やはり、真白のピアノは凄い。

「・・・以上です」

パチパチパチパチパチパチ。

会場全体から響き渡る拍手の音。

ほぼ全員が満足げに評価している、これは勝負あったか・・・。

真白が真剣な眼差しで見つめる先に翠歌。

「(翠歌先輩・・・あなたの番です、見せてください・・・貴方の音を)」

翠歌はその眼を見た後、目を閉じ鍵盤に手をのせた。

「・・・月光、第一楽章」

「ッ!?」

タタタ~タタタ~タタタ~・・・。

どこまでも青い空を映す辺り一面水の世界。

その世界でただ一人、ピアノを弾いて音を響かせる演奏者。

そんな姿が見えるほど、とても優しく、とても美しい。

なんて、綺麗で鮮やかな弾きかたなんだろう。

冷たさの中に、どこか気持ちの良い清々しいほどの冷えた音。

耳に伝わり、心は冷たい海の中に沈むよう。

だけど、どこかそこが居心地がいいと捕らわれてしまったかのような気持ち。

不思議と心は悲しくなかった、むしろずっとこの冷たい海の中にいたいと。

そう思ってしまうくらいなにも恐れる気持ちがなかった。

月光が照らす、夜の海に心は深く深く沈んでいく。

とても重く、とても綺麗な音に引き寄せられて。

演奏が終わると翠歌は目を開き両手をゆっくり上にあげた。

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!

拍手の音はさっきよりも大きく、会場全員がとても満足そうにしていた。

その時真白は、動揺を隠せなかった。

「(あまりにも凄すぎる・・・これが・・・楽器の天使ッ!)」


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