第15話【ぶつけあうのさ】
「真白、お前は諦められるのか？」
「なにがですか？」
「割り切れるのか、1番の席を誰かにとられたと」
「認められませんよ・・・認められないけど・・・事実じゃないですか」
真白は視線をそらした、アープル様の眼から逃れる様にそっぽを向いた。
その行動にアープル様は突き刺す鋭い言葉を投げかけた。
「逃げて、楽になりたいだけじゃないのか、自分が」
「ッ！？」
その言葉にスイッチが入る様に目線をアープル様に合した真白。
「貴方に私の気持ちのなにがわかるんですか！？天才で、恵まれた才能と地位を持つ私達をそうやって上から目線で先輩風吹かしたいだけじゃないんですか！？」
真白の強烈な怒りと狂気の瞳、ギラギラと目を開き睨む。
だが、アープル様は屈しない、冷静な感情と鋭い目はなにも変わらない。
仁王立ち、腕を組み、両足をガッと開き立たせ、勇ましい姿はまさに主君。
我らの王とも呼べる姿だ・・・。
アープル様はその変わらぬ威厳で声を発する。
「貴様の気持ちなんぞ知るかァーーーッ！！」
「ッ！？？」
「(え゛ー゛ッ゛！！)」
喝を入れるかのような大きな怒鳴り声。
困惑のあまり声にならない真白。
内心でとても驚いている俺。
アープル様ご乱心かな。
だけど、迷いのない眼を見ればわかる。
あれは、なにも考えてない眼じゃない。
続けて言葉を発したアープル様。
「真白、人はみんな違う生き物だ、だから誰も誰かの心を理解できるはずがないんだ、だからこそ、我は貴様の気持ちなんぞ知らん、存ぜぬ」
「そ・・・それはそうですけど」
「知りはしないが・・・お前は知っているはずだろう」
「・・・ッ」
「眼を見ればわかる、認められない気持ち、諦めたくない心、自分が1番を取るために誰のために努力し何のために頑張って来たのか、その眼を見ればわかる」
「それは・・・」
「たった一時、辛い、やめたい、だから楽になりたい、その楽になりたいの為にお前は諦められるのか？」
「・・・」
「お前にとって一番はそんな簡単に切り捨てられるのか？そこでまの気持ち、そこまでのお前の努力、全部を泡に消して・・・全部諦められるんだな！？」
その次々と出る言葉の数にすべてを聞いて、真白はグスグスと泣き。
震えた声とさっきまで暗かった目にうるうると少し、光を灯して言い放つ。
「諦められる・・・わけないじゃないですか！！」
俺は真白のここまで見てこれなかった真剣な瞳にびっくりしていた。
「真白・・・」
「諦められないですよ！だって翠歌先輩が死んでもずっと私は側にいたんですよ！私がついこの間まで一緒にいたのに・・・翠歌先輩にとられて黙って見てられるわけないじゃないですか！」
叫ぶ、真白は思いに秘めていた言葉を吐き出す。
それに対してアープル様も答える。
「それだけか！お前の気持ちは！」
「真白は・・・ッ！先輩の為に尽くしてきました！でも、翠歌先輩のことをそれでも気にかけて・・・」
「なぜ、好きなんだ！」
「真っすぐで、一途で、いつも馬鹿みたいに夢を信じて、自分の貫いた意思を曲げないで、こんな・・・私にも・・・お金しかいいところがなくて、泣き虫で、イジメられて、小学校の頃、ピアノしか取り柄のなかった私に・・・言ってくれたんです」
「なにをだッ！」
「お前は優しいからみんなに何も言わない・・・本当の気持ちも、臆病なのは誰も傷つけたくないくらい優しいからだって・・・私、その言葉が嬉しくて・・・小学校の付き合いだけど、翠歌先輩と違って・・・真白は幼馴染じゃないけど・・・ッ！それがすごい嬉しかったんです・・・」
「それでッ！？」
「人助先輩のことは大好きですよ！イジメられている私を助けてくれたのも・・・人助先輩で・・・」
「翠歌から奪うのがそんなに嫌か！お前の気持ちはいいのか！」
ぶつかり合う2つの言葉に一つの間が生まれた。
真白はなにかを言うのをためらっていた。
だが、今の真白はただ正直に言葉を発する。
「奪いたくても・・・奪えないですよ・・・ッ！イジメから守ってくれたのは・・・人助先輩と翠歌先輩なんですから！！」
「それがなんだってだァッ！！」
「そんな二人の仲を引き裂いたら・・・ッ！私クソダサいじゃないですかァァーーッ！」
「・・・そうか」
吐き出せ、吐き出せと叫ぶアープル様の気持ちに。
真白は泣き叫び、答えた。
「これ以上・・・私が邪魔したくない・・・わかってるんです、諦めたくないのも、気持ちはあるんです・・・けど、私の気持ちを・・・せっかく想いが叶った人助先輩の邪魔になってしまったら・・・真白は・・・」
「だから、奪えない、だから譲ったんだな？」
「・・・はい、真白は・・・いないほうがいいんですよ・・・この物語は私がお姫様じゃなくて、悪い魔法使いなんですから・・・あの二人の物語・・・真白は先輩達の幸せを叶えてあげたいんです」
分かった気がした。
真白の気持ち、真白が抱えていた闇。
中学校の頃から、なんとなく、なにか一歩引くような気持ちをしていたけど。
彼女は自分の気持ちを殺しながら、二人の仲を守っていたんだ。
「だから・・・私を恨んで・・・憎んでもらえたら・・・もう、先輩の気持ちは・・・」
「翠歌に行く、そう思ったんだな」
「はい・・・」
真白はあふれ出した気持ちを沈ませゆっくりと落ち着きを取り戻した。
アープル様もキリッとした表情とオーラが消え、落ち着いている。
しかし、アープル様はニッと笑い答えた。
「不器用な奴だな、貴様」
「えっ」
「相手の幸せを思いやるあまり自分の不幸を顧みず、自分ならどうなってもいい、だから周りに何も言わず、ただ、他人のことを思う気持ち」
「・・・」
「不器用だ、貴様は不器用すぎる、それで悲しむ人間のことを考えられんほどにな」
「ふえっ？」
思わず変な声をあげる真白。
「貴様の知り合いのZINもそうだが、貴様のその愛すべき先輩はそれを聞いたらどう思う、貴様の気持ちに答えて、翠歌と添い遂げるか？」
「・・・わかりません、でも先輩なら」
「答えはNoだ」
「えっ？」
「誰かを犠牲にした愛と恋に幸せはない、結果的に二人の仲を悪化させるだけだ」
震える真白の眼、その言葉にどうしたらいいのかわからずただ悩む。
「で、でも・・・それ以外に道はあるんですか？」
「・・・貴様の気持ちをぶつけることだ」
「ええっ？！」
「もし、場所を取り戻したいのなら、二人の仲を引き裂かず、君が想いを伝えるのなら、君が真っ向から勝負をしかければいい」
アープル様が真っすぐ語るその言葉はあまりにも単純かつ率直。
そう、たしかに簡単であり、わかりやすい。
だが、できるのだろうか、今の真白に・・・。
「ぶつける・・・私の気持ちを・・・」
「隠していても、逃げていても、ずっと貴様ら3人の仲はこじれていくだけだ、だったら好きな奴の気持ちを好きにさせろ、負けたくない女に伝えろ、私は正々堂々と戦うと」
「・・・っ」
真白は心の中で何か覚悟を決めていた。
想いを決して、言葉に出した。
「私・・・戦います、音楽で！」
「・・・ああ、やってみろ」
真白の肩をパンと叩き気持ちに火をつける。
2人の言葉のぶつかり合いの果てに、意思は固まったようだ。
しかし、俺は少し気になったので口をはさむことに。
「あー、お熱い友情のところ俺なんかが介入して悪いけどよ・・・」
「どうしたんですか、ZIN先輩」
「勝負って言っても、なにで勝負するんだ？」
その言葉に対して、アープル様が真白に言った。
「真白、お前キーボードはまだ続けているんだよな」
「はい・・・練習もやってました」
と、アープル様がにやりと笑い、こちらを見て宣言する。
「奏でて、ぶつけあうのさ、二つの気持ちを」
