第11話【ハイブリット?】
時は変わり、話す人も一度変わろう。
俺の名は【蒼井雷神】、元伝説のバンド【ファイブライブズ】だ。
俺は今、インペリアルレコードにいる。
あのあと大学でも俺はひっそりと音楽は続けていた。
友達とは全く別の進路に行くことになったが。
なんとなく、俺だけもやもやした気持ちが払えず。
1人、子供の気持ちのまま大人になってしまった。
音楽をつづけていた時、俺はその実力を高く評価されインペリアルレコードにスカウトされた。
俺は最初はほかのメンツも誘いたかったが、そのころには人助とは話してもきっと音楽に帰ってきてはくれない気がした。
真白は元々人助のことが好きで、アイツを追って音楽を始めたから当然来るわけないし。
吹雪は・・・俺のことを遠ざけていた。
俺はみんなには内緒という形でインペリアルレコードに就職した。
1人で生きていくには十分すぎるほどの金が入り。
俺が作曲を担当した曲が何枚も売れた。
最初はなんとなく今まで見たことなかった地位がそこで手に入って。
なんとなく満足していた気がした。
趣味でバンドやって時よりもきっと何倍も人生楽しいんじゃないか。
そう思っていた。
だが、なんとなく最近は違う。
この流行り出した音楽ブームやバーチャルブームは次第に凍える氷河期に突入しようとしていた。
理由はなんとなくわかっていた。
近年では企業の黒いうわさや、炎上騒動が明るみになり。
その裏で綺麗な面よりも汚い大人のやり取りが注目され始めた。
この経緯を得て、インペリアルレコードは常に上にいた。
黒いうわさもなく、まるで周囲を汚すことで相対的に自分達を輝かしているんじゃないかという気持ちで俺は見ていた。
個人勢がこのインペリアルレコードに吸収され、個性を失っていき。
やがてどこにでもいる替えのある没個性になっていたり。
俺は表向きにないだけでインペリアルレコードにだって十分黒い部分はあると思った。
個人も企業も潰して、最後に立っているのはこの会社なのか。
それはもう、こいつらの陰謀ではないのか。
考えたくはなかった。
考えたくはなかったが、つい最近はなにかおかしいと感じた。
この会社にいる連中は時折血眼になって気が狂うほど曲に追い詰められているやつがいる。
そうまでして音楽を作る理由があるのか、嫌ならやめればいいのにと。
だが、彼らはここ以外に生きるすべはないと。
なにか、ここの環境はおかしい気がした。
上も下も、どいつもこいつもとても音楽を楽しいと思っているやつは一人もいない。
俺は、だんだんそういう人の見たくない闇を見て。
次第に、人助に知ってほしくないと思ってしまった。
アイツや、翠歌はこのインペリアルレコードの輝かしい部分だけを見ていたから。
最後まで、音楽に吐き気を覚えずに済んだ。
だが、現実は違った。
趣味でやってたことを仕事にすればいずれ闇にのまれてしまう。
知りたくなかった、音楽が金に絡み利用されていること。
若い才能が大人の手によってつまれていくこと。
作っても作っても渇く欲望。
こんな世界知ってほしくない。
だから、言えるわけがなかった。
インペリアルレコードに着いた俺は今、楽しくないなんて。
アイツらに言ってしまったら、きっと、嫌いになってしまった音楽が大嫌いになる。
俺はそんなことを考えては、虚無に浸り曲を作る。
そして、退社してはベッドに横たわり、スマホを見ていた。
こんな日が続けば、俺はこの企業に洗脳されてしまう。
決断しなくてはならない、戻ってきた人助の言葉を信じるか。
それとも、友よりもこれからを信じてこのおかしい企業を信じるか。
だが、今の俺にはどちらも選ぶことはできなかった。
俺は少し考えた後、インペリアルレコードの廊下を一人静かに歩いていた。
うつむいて、ため息をついていた時だった。
ドンッ!
誰かにぶつかった。
「・・・っ、すみません・・・だいじょうぶ・・・でしたか?」
「嗚呼、平気だとも、ははは!・・・貴様こそ怪我はないか?」
高飛車しかしてどこか下々の気持ちに寄り添うような優しい暖かい声・・・。
ぶつかった人の顔をゆっくりと見ていた。
鋭い瞳にどこか可愛いさがある美しさ。
気品あふれる白いワンピース。
お嬢様と言わしめてもいい丸くて白い帽子。
美しい金髪のロングヘアーの女性・・・。
「・・・神ですか?」
俺は思わず口を開けてはとても敬意もクソもない言葉を発してしまったが。
目の前にいた女性はニヤッと笑いこちらへ言った。
「貴様が神というなら私は神だろうな?貴様にとつて私は神か?」
俺はその言葉に対してドギマギして答えた。
「あ・・・いや、その・・・なんていうか・・・神に見えるほど麗しいというかめっちゃ可愛いというか!」
手をぶんぶん振って正座しながら説明していた俺に彼女はクスクス笑い答えた。
「可愛いか、軽いがまあ、悪くはないな」
俺は思わずそのまま土下座して言葉を発した。
「ありがとうございます!!」
と、言うと彼女は少し困った顔をして言う。
「あー、よせよせ、私は人に頭を下げられるほどの者ではない、顔を上げて貴様が友と接する様に同じようにしてもよい」
なんという寛容的な心なんだ。
懐の広さに俺はついつい改まってしまう。
「あ、ありがとうございます・・・」
俺がお礼を言うと、彼女はまたクスりと笑い言った。
「ああ、こちらこそ礼を言おう・・・君は実におもしろい・・・」
俺はその素敵な微笑みにこう言った。
「素敵なあなたは・・・何者なんですか?」
すると、彼女は手を心臓の位置に当てて高らかに言った。
「私の名前は【番豪林五】だ、努努忘れることなかれ」
ガラスの壁のほうへ向かい、クルリと一回転しターンを決めるこの芸術性の高さ。
品性あふれるしゃべり方に、その名乗り・・・。
ああ、どうして気づかなかったんだろう。
「アープル・・・アープル・ナインですよね!」
と、俺が答えると林五様は指で口をシーっとしてこちらへ伝えた。
「No、私は林五、彼女とは無関係だ」
俺はその発言にハッと気づき、すぐに頭を下げた。
「もももも、申し訳ございません!とんだご無礼を・・・いやというかタブーに触れてしまい・・・」
と慌てて言うとまたクスクスと笑い林五様は言った。
「ははは!そういうな、まあ遠からず近からず貴様の言いたいことはわかる、だけどそれを答えてしまって許してくれる者もいれば許さない者もいる、だからこそ、そこは割り切らなくてはな?」
思わずおお・・・っとなてしまうほどの威厳の高さ。
彼女は間違いなく今、バーチャル世界を騒がせている一人。
【アープル・ナイン】だ。
この特徴的で個性あふれる声の良さ。
何度も聞いたから間違いなくわかる。
でも、この人の所属って確か違う事務所だったはず・・・。
なぜ、こんなところに?
「アー・・・林五様はなぜここに?まさか、インレコに所属になったとか?」
と、俺が聞くと彼女は首を横に振った。
「いや、私はもう所属は決まっている、ここへは新しい仕事の確認をな、インペリアルレコードと連携して今度やる仕事が一つあってな」
「へえ・・・なんか大がかりですね・・・どんな仕事ですか?」
というと、俺には近づいて耳打ちでこっそりと囁いた。
「ここでは言えんが・・・サイバー・ファンタジアで私よりも詳しい者を手配しよう・・・貴様も名の知れている者ならあまり外ではないほうがよかろう・・・ベースのZIN」
「えっ!?知ってんの!?」
「知っているとも、私は音楽が好きだ、今回の仕事もまさか我・・・あ、私に来るとは思っていなかったからな、そんな我が貴様らの伝説も把握してなかったではあまりにも遅れているだろう?」
「・・・さすがっスね」
「ははは、まあ、詳しいことはサイバー・ファンタジアで話す、そのフレンドコード、無くすなよ?」
「えっ?」
俺はジャケットのポケットを探ってみると紙で書かれていたフレンドコードが入れられていたのを確認した。
そのまま去ってしまっていた林五様・・・。
七年前の俺達のことも知っていた。
たしかにあの時は凄かったけど、今でも覚えている人。
俺は緊張が解けて、自分の手を確認すると汗がびっしょりになっていた。
これが・・・今を生きている者の凄さなんだと・・・。




