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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第10話【バラバラになっていく気持ち】

真白は感情のまま涙声で、悲しみをただ吐き出した。

「私は・・・翠歌先輩や・・・人助先輩みたいに強くないんです・・・!音楽の才能だって、たまたまやってたピアノがちょっと上手かったくらいで・・・一生賭けても、翠歌先輩みたいにはできないんですから!」

「真白ちゃん・・・」

不安そうに、心配そうにする翠歌に真白は言う。

「死んでいてほしかった・・・」

「ッ!」

翠歌はその言葉を聞いた時、目は暗く、驚いた。

突き刺さる鋭い刃物を刺されたかのような言葉。

真白は俯いていた顔をゆっくりとあげた。

「こんな酷い・・・こと・・・先輩に言われる様になったのは・・・全部翠歌先輩のせいだ・・・先輩の側に誰も支える人がいなくなって、それで私が支えてあげようと思って・・・どんなことをしても、先輩の一番になれなかったけど、誰もいなくなって、やっと先輩の1番になれたんです・・・!!」

翠歌は真白の言葉をただ聞いた。

言い返しはしなかった、その時の彼女は聞くことしかできなかった。

「お弁当作って、先輩に届けて、たまに話相手になってあげて、ピアノを聴かせてあげて・・・一緒に過ごしてあげる日々に心の支えになれていたのに・・・なんで帰って来たんだ!!お前はッ!」

「・・・っ」

「翠歌先輩がいなかったから私は先輩の1番でいられたんだ・・・ッ!!翠歌先輩がいたら・・・真白はずっと2番!!真白はこんなに尽くしたのにッ!こんなに頑張ってるのに!私がどれだけ尽くしても翠歌!翠歌!翠歌!!」

真白はただ叫ぶ、その言葉に今まで自分が積み上げて来たモノが。

一瞬で崩されてしまった悲しみと絶望を精一杯込めて。

「翠歌先輩が生きてる限り・・・先輩の1番にはなれないんだ!!」

「まし・・・ろちゃん」

「全部お前のせいだ!先輩が振り向いてくれないのも、音楽の世界に戻ってしまったのも、私が1番になれないのもなにもかもお前のせいなんだーーッ!!」

声から血が出ても構わない、枯れ尽きても構わない。

喉がダメになろうと、この怒りが心から言えるなら。

それでかまわない、そういう気持ちで彼女はただひたすら叫んだ。

俺はその気持ちを聞いて、どうしたらいいかわからなかった。

自分への怒りか、それとも翠歌を理由に俺は泣いていたのか。

静に涙が一粒、流れ落ちた。

「もういいよ、真白・・・お前の気持ちが分からなかった、傷つけてごめん、今日のことで憎いと思ったなら得意の財力でお父さんに頼んで俺のこと殺してみろ、それでこの世界に住んで俺はバーチャルに移住する」

「人助ッ!!」

俺の壊れた心に突き刺すように強い怒り。

その言葉を聞いた先に振り返ると、翠歌が睨みこっちを見ていた。

「冗談でもそんなこと言わないで!君が私を理由にこれ以上争うなら・・・」

「ごめんなさい・・・」

さらなる口論にになりかけた俺達2人にボソッと告げた真白の声。

「真白・・・」

「真白ちゃん・・・」

「私、翠歌先輩みたいに綺麗な人じゃないんです・・・!!身も、心も!!」

翠歌を見つめて最後まで泣き叫んだ真白は言った。

「機械になった先輩に!!不完全な人間の私を・・・ッ!!貴方が理解できるはずがないだろ!!」

そう言って後ろ姿を見せてこの場を去った。

残された俺達に漂う重苦しい空気。

翠歌はその場で膝を抱えて悲しい顔をしていた。

そして、静かに言葉を発した。

「人助、私・・・もう一回死んだ方がいいかな」

その言葉に俺は怒ることも悲しむこともできなかった。

感情がぐちゃぐちゃに混ざり合ってしまい、もはや言う気力がわかなかった。

「本気なのか」

それに対して、翠歌は語る。

「うん、だって・・・最初は・・・ここに戻って来て、ああ、やっぱりここはいいなって思った、けど、そうだね、作られた体、老いることもない不老不死の肉体、傷つくこともない・・・心」

「心?だけどお前には感情は・・・」

「あるよ・・・あるけど・・・これって感情なのかな」

「なんだよそれ」

「わかんないだ、泣いても、怒っても実は本当にそう思ってるのかどうか・・・生きてる時の感情を頼りに・・・そうしているだけなんじゃないかなって」

「わけわかんねぇのこと言ってんじゃねぇよッ!だったらさっき俺に怒ってくれたのは?それも生きてる時ならそうしたとか・・・曖昧な感情ってことかよ!」

俺は次から次へと出てくる理不尽でやり場のない真実にただ困惑していた。

知らなかった、翠歌が今どういう心境で生きてるのかもさえ。

「・・・ないことはないの、でも本当にそれは・・・曖昧で・・・私の本当の気持ちかどうかさえわからない、不思議だったんだ、ここに来て、そういえば私、機械になったんだって、少しぐらい残念がればいいのに、なんとも思わないんだ」

「そういや・・・あの時・・・確かに」

「もう触れることもできないけど、お腹が空くこともない飛行機で死ぬこともないんだ、もしかしたら本当に顔だって昔よりいいかもしれない」

「・・・」

ニッと歪んだ笑いを見せた翠歌けれどもすぐにその微笑みの眼から涙を流し言う。

「でもね、おかしいんだ・・・君のことが・・・好きで・・・好きで・・・仕方がなかったあの気持ちは・・・今、なんでこんなあっさり切り捨てられるんだろうって・・・」

「翠歌・・・」

「なんで・・・心が消えたはずなのに・・・こんなにも涙が止まらないんだろうって・・・ッ!」

うつむいて告げていた顔がこちらへ振り向いた時。

悲しみが限界の先まで超えた、悔しさの果ての感情を見せていた。

涙が止まらないその姿は、人だった。

「人助・・・教えてよ・・・私は今生きてるの?」

俺は答えられなかった。

その質問に答えられるほど、俺の頭がいいはずがなかった。

今の翠歌に対して、生きているのか死んでいるのか。

それを答えることはできない。

彼女自身が決めることに、俺が決めていいはずがなかった。

「ごめん・・・翠歌・・・俺には答えられない」

「人助・・・ッ」

俺は、この場を去るように彼女に背を見せて歩き出した。

「少し・・・1人にさせてくれ」

その言葉を告げた後、翠歌はまた悲しい笑顔を見せて俺に言った、

「・・・うん、私も・・・そうしたい」

俺はその言葉を聞いてこのマイルームから去った。

俺が去った後、翠歌はまた泣きだしていたことを俺は知らずに・・・。

「・・・ッ!私のせいだ・・・私が・・・帰って来たから・・・二人が・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・っ」

誰もいない、静かな部屋で彼女は一人、謝っていた。

悲しみの声が響き渡る、部屋で一人泣き続けた。

そのころの俺はベッドに入って何も考えないようにしていた。

真白のことも、翠歌のことも、考えないようにしていた。

人に逃げていると言っていた俺も逃げていた。

自分のことからも、みんなのことからも。

どうしたらいいかわからず、ただ今は楽になりたかった。

布団に潜り込み、夢の中に逃げたかった。

翠歌が帰ってきて、これからきっとまたみんなで音楽ができるのだろうと思っていた。

けれども現実には違った、みんなの思いがバラバラになり。

たった一つの闇から大きな絶望が生まれ。

俺達の仲に亀裂が入り、やがてもう全員会えないのだろうかというくらい。

大きな不安と、悲しみが積もる。

どうしたらよかったんだろう。

どうすることが正解だったんだろう。

真白のことをしっかり見てあげるべきだったんだろうか。

翠歌のことを諦めるべきだったんだろうか。

音楽に戻らず、薬局で働き続け、ただなにも変わらない日々を繰り返していたほうがよかったんだろうか・・・。

何もわからない。


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