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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第9話【わかってます】

真白はすっかり怒りと狂気にのまれていた。

その口はなにも恐れていない。

「翠歌先輩に全部やってもらえばいいんです、顔も声も不変することのない翠歌先輩なら人助先輩の夢も容易く叶えられるでしょう」

「言葉を選べ、真白・・・そろそろお前身分関係なしに俺も言葉を選ばないぞ」

俺も怒りにとらわれていた。

俺自身も、真白の狂気に流されていた。

「真白ちゃん・・・人助・・・いやだ・・・二人が喧嘩しているところ・・・みてられないよ・・・」

その横で翠歌がおびえていたことなんて知りもしなかった。

「真白、なぜそこまで翠歌に投げる・・・俺は」

「翠歌先輩と人助先輩は生まれた時から一緒、それは言いましたね」

「ああ・・・」

「先輩は生まれた時から翠歌先輩のことが好きなんですよ、好きで好きでずっと今も思いづけて、そのおかげで翠歌先輩がバーチャル空間にも帰ってこれた・・・」

真白は言った、自分自身に眠っていた不満を。

「だったら、もう私はいりませんよね、音楽だって事前に作ったモノを流すなら尚更・・・もうアイツ一人でいいんじゃないかなって思ってます」

真白は言った、我慢していた思いを。

「どうせ・・・音楽作って本番は口パクで踊るんだったら・・・全部、翠歌先輩でいいんじゃないですか?」

俺は、必死に否定しようとした。

「真白・・・それは違う」

だが、真白は止まらない。

「違う?なにが違うんですか?あ、お金は確かに私のほうがありますよ、現実でおいしいご飯を食べさせてあげさせます!」

真白は不気味な笑顔を見せた。

言葉も気狂いの語り部のようなしゃべりを見せた。

「なんなら、二人をいますぐ世界へ連れて行ってさしあげましょうか?」

「やめてよ・・・やめてよッ!こんなの真白ちゃんじゃないよ!」

翠歌の必死な訴えにもなにも届かない。

「美味しいご飯も食べさせてあげられますし、先輩のことを愛してあげられます、望むなら翠歌先輩にはできない良いことでもしましょうよ、夜にパソコンでもつけながら」

俺はこのケラケラと笑う真白に耐えられず声を荒げる。

「いい加減にしろよ真白ッ!本当に・・・ッ」

「いいんですか!?あれれ、私が必要なのにそういう態度とるんですねー?必要じゃないんですか?そうですもんね、翠歌先輩いるなら別にねー?」

「真白・・・ッ」

火はどんどん熱くなる争いに翠歌は泣きながら訴えるしかなかった。

「二人とも・・・怖いよ・・・落ち着いてよ・・・」

「なにを今更」

「私は・・・みんながまた集まって演奏して・・・それに合わせて私も歌いたい・・・踊りたい・・・だから・・・」

その言葉を聞いた真白は、怒りの声が頂点に達した。

「みんなもうッ!昔の気持ちのままじゃないって言ってんだよッッ!!」

「ッ!?」

「昔の私達は凄かったかもしれないッ!でも、もう終わったんですよ!私たちの時代は全部、全部終わったんです!今更みんな戻って来るんですか!?今更また音楽やりたいと思うんですか?このまえのライブを見て・・・誰がそんなこと思うんですか?」

「・・・」

「あんたらが勝手に盛り上がってもこっちの気持ちはもうとっくに冷めてるんだよッ!」

「真白・・・ちゃん」

真白の言葉が胸の奥に突き刺さる。

俺が翠歌が帰ってきてぬか喜びやその場の勢いでみんなを戻そうとしているのは。

やはり、ただ、俺が翠歌の夢を叶えてやりたいという身勝手な思いなのか?

「何度も・・・何度も何度も言わせないでください、私は音楽に戻りたくないんです!先輩には現実が見えないんですか!?昔は120万人の人達がいた、けれどもう今は時代に忘れられた古い人達なんです!!現に・・・253人が物語ってじゃないですか!!」

どんどん出てくる真白の泣きの言葉に俺の心はなにか壊れていた。

「たった7年で私達は過去の人なんです!そんな時代遅れの人達が今更帰ってきてなにができるんですか!?企業にはインペリアルレコードが・・・個人勢だって私達なんかじゃ相手にもならない人ばかりッ!すでにこれだけの上位が誕生して、独占状態なのに!今更下層から這い上がれるわけないじゃないですか!・・・遅すぎたんですよ・・・!なにもかも!!」

「・・・」

俺はその言葉にただ、言い返すことはできなかった。

「遅すぎたんですよ・・・!なにもかも!私達を知っている人たちは・・・もう誰もいない!」

だが、俺も精一杯の考えを述べた。

「真白、誰も知らないから何もしない、無理だからやらないってのは言い訳だ」

「人助・・・先輩」

「やらなきゃ、なにも変わらない、変えようする気持ちでやらなきゃダメだ、変わろうとしない人に何も変えることはできない」

「感情論で語るなッッ!」

「ッ!?」

その言葉は届くことはなかった。

「いっつも、いっつも、いっつもそう!先輩ってなんですぐに感情論出すんですか!?冷静に理論的な考えになれないからそうやって突発的な行動で周囲を巻き込んで困らせるんですよね!?迷惑をかけることをなんとも思ってないから感情的に行動して、私や翠歌先輩やみんなに甘えるんですよね!?」

「違う・・・迷惑をかけることは・・・」

「悪いとは思っている?思っていて、なお迷惑をかけるんですか?凄いですね、人に迷惑をかけることがなんとも思わない人の考えって・・・甘えていい、迷惑をかけろ、そういう人ほどそういう考えなんですよね、お母さまも言ってました、先輩ってメンヘラですよね!」

「真白・・・言葉に気をつけろよ、君が傷つかないように俺は言葉を選んでいる・・・ここはいったん落ち着くために・・・」

「逃げるんだァ!?」

「ッッ!?」

2人の争いは止まらない、もう誰がなんと言おうと止まらない。

とめることはできなかった。

最後の一言で完全に炎上の中に包まれた心は完全にキレてしまった。

「人助ッ!だめだよ!落ち着いて!真白ちゃんも・・・お願いだからやめてよ!」

「逃げるならどうぞ、私の好きな先輩はそんなメンヘラじゃないんですよ」

「お前は自分のことから逃げるくせに偉そうに言うな」

真白は目を見開いて硬直していた。

その一言で、場の空気は完全に凍り付いた。

「・・・せん・・ぱい・・・ほ、ほらそうやって・・・真白のせいにするんだ・・・」

「翠歌に対して悪口言ったりくだらないマウントとろうとしたりして、生きてる人間として恥ずかしくないのか!?」

「悪いのは全部真白だって言いたいんですよね!?」

「そうだッ!」

「自分は真白のこと思って言ってるのにわかってもらえない自分可哀想、悲劇のヒロインだって・・・アハハハハッ!音楽やりたいなら貴方たちだけでやればいいじゃないですか!今もなおそんな馬鹿なこと言ってるのは貴方達だけなんですよ!」

「そうだな、真白がその気でもないのに誘って悪かった、別にお前がいなくてもキーボードは翠歌ができる。才能はあるくせにやる気のないやつは嫌いだ」

「すぐそれだ・・・」

真白は俺の言葉を受けて、怒りがだんだん静まっていた。

いや、怒りは悲しみへと変わっていた。

「翠歌は死んだのに今もこうやって夢叶えようとしてるんだぞ!俺達は諦めてないのに、お前は諦めんのかよ!!無駄に生きて時間潰すくらいなら、なんで生きてるのがお前で、死んだのが翠歌なんだ!」

俺はとうとう真白が涙を流して黙って聞いていたことに気づかず。

何も見えていなかった状況でただ暴走した。

「メンヘラ、メンヘラ、口を開けば飾りをつける様に言いたい放題言いやがって、お前は自分の立場わかってんのか!?俺にそんな利口な口が開けるんだな!?なんとか言ったらどうだ金と権力者のクソ女ァッ!!」

そして、真白は顔を俯き言葉をぼそぼそと出した。

「・・・てます」

「聞こえねーよ」

「わか・・・てます」

俺は怒りで見えていなかった真白の顔がようやく見えた。

そこには、涙で顔をぐしゃぐしゃにして。

心から流れ出た感情の血を流して、悔しさと悲しさを混ぜ合わせてあらわにした。

スカートを両手で握りしめ、泣くことしかできなくなった、真白の姿。

「わかってますよ・・・!そんなの!!真白が一番・・・わかってますよ!!」


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