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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第7話【真白の狂気】

翠歌と練習をしていた時、ふと思ったので俺は言う。

「なあ、さっき真白がピアノを弾いてたって聞いたけど・・・そんなに上手かったのか?」

その問いかけに対して翠歌は首ふった。

「ううん、私はどんな楽器も扱えるけど・・・私自身、全部が全部完璧じゃないんだ、だから人の音の感じとかを真似して演奏することはできても、それがそっくりってだけで、そこに私自身の上手さはなにもないんだ」

なるほど、相手の音を聴いて真似することはできても。

それを自分の音として演奏することはできないのか。

翠歌のなんでもできるというのは強さでもあるが弱さの側面もある。

上村さんも言っていたが『モノには裏と表がある、良いことは悪いことにもなるし、悪いことは良いことになることもなる』という言葉と似ている。

「まあ、でも・・・実際にはお前のそういうところは凄いんだし、素直に認めてもいいんじゃないか?」

俺は翠歌が露骨に残念そうにしょげてしまっていたのでフォローした。

すると翠歌の気持ちは少しだけ明るくなった。

「ふふっ、ありがとう、人助!」

「あ、なんなら聴かせてくれよ、さっき演奏したって言ったやつ・・・」

俺が翠歌にそう言った直後のことだった。

「そんなに翠歌先輩の演奏が好きですか?」

「ッ!?」

背後から迫るように圧の感じる強い静かな怒りの声。

思わずビクッとなってしまうほど冷たい視線。

その気配に恐る恐る振り返るとそこに立っていたのは・・・。

「人助先輩って・・・いつも翠歌先輩のことばかりですよね、今日もいまこの時も・・・」

「ま、真白・・・ッ!」

「バンドのメンバーも結局求めているのは音だけ、私達が必要なんじゃない、翠歌先輩を引き立てる踏み台が欲しいだけなんじゃないですか?」

次から次へと出て来た真白の言葉に俺は驚いていた。

目は完全に恨みや憎しみの憎悪を固めたかのような光のない目を向けて。

こちらへ、猛吹雪のような言葉を出していくのだった。

「私、ダメダメな先輩の時もずっと献身的に尽くしてきました、花嫁修業もしました、私が財閥の身分などを捨ててそんなことしてきた理由がわかりますか?」

「ど、どうしてだ?」

「貴方に好きになってほしいからです!私は翠歌先輩の様に生まれて運命のような出会いもなければ、特別優れたことをしてあげられるような人間でもないんです!私はどんなに頑張っても、翠歌先輩の才能に勝てなかった!だからそれ以外のことで尽くしてあげたんじゃないんですか!」

そこにいないのに、どこか近くで話しているような熱量。

真白のその言葉の重さはとても重く、心を締め付けた。

熱くなる真白に翠歌は声を震わせて必死に止めようとしていた。

「ま、真白ちゃん・・・落ち着こうよ・・・いつもの真白ちゃんじゃないよ?」

「お前に私の気持ちがわかってたまるかッ!!」

「ッ!!」

止めようとした翠歌に真白は強く当たる。

翠歌はその言葉に思わず何も言えなくなった。

「先輩、私は生きているんでなんだってしてあげられますよ」

「えっ・・・あっ・・・そう・・だな」

「お弁当を差し入れしているのも私で、翠歌先輩がいない時は私がずっとお話してました!ピアノだって聴かせてあげたじゃないですか!」

真白は今までなかったくらいの声を出していた。

そこにはなにかに怯えるような感じもあった。

恐怖と怒りが混ざったかのような真白は止まること忘れていた。

「お世話できるのって生きてる人の特権ですよね!」

俺は、その言葉を皮切りになにか切れかけていた。

目を睨ませ俺も怒りをすこしずつ出していた。

「真白、やめよう・・・そういうのは」

だが、俺の言葉に不安を感じた翠歌は声をかけた。

「で、でもその通りだよ」

「翠歌?」

「要するに、真白ちゃん、アピールしてるんだよ?こんなに人助のこと好きだって!」

焦り、悲しみ、なにか笑っていても心の中でぐちゃぐちゃになった感情が誤魔化しきれていない翠歌に、俺は自分の気持ちを殺して伝えた。

「・・・そりゃ、そうだけど」

翠歌は続けざまに真白にも言った。

「真白ちゃん、私が死んでいる間もずっとそばにいて人助のこと助けてくれたんだから、人助の好きな気持ちで真白ちゃんには敵わないよ!」

「・・・翠歌先輩」

少しずつ、だんだんと空気の流れは変わっていた。

みんな冷静になろうとしていた。

「真白ちゃんのピアノが人助に必要なんだから!」

その発言があるまでは。

「ぴ・・・ぴあの・・・わたしの・・・」

真白は目を見開いて震わせていた。

真白の感情はその言葉を聞いた時。

なにもかも混ざってしまい、狂気へと変わった。

「今度、新しい曲をやろうってね、人助と話してたんだ、だから真白ちゃんの・・・」

「翠歌先輩でよくないですか?」

「えっ・・・?」

その時、真白の心は大きな闇に染まっていた。

黒く、どこまでも深く、目は完全に光を失っていた。

その吸い込まれそうな暗い目でこちらを見て言って来た。

「先輩は・・・私のこと必要と思ってますか?」

俺は死を感じるかのような冷たい言葉に再び心が凍り付いた。

それでも、俺は真白の気持ちに負けずと言った。

「なに言ってるんだよ、あたりまえだろ?そんなの・・・お前のキーボードが俺は好きだよ」

「・・・さっきから自分が何言ってるかわかってないんですね」

「えっ・・・?」

瞬間、真白はなにもない空間で大きな蹴りを繰り出した。

ガンッ!ガラガラ・・・。

どこかでなにか倒れる音、真白は自分の家の物に蹴ったようだ。

そして、うつむいた顔をあげて、涙を流して言った。

「先輩は・・・ッ!私じゃなく、私のキーボードしか求めてないんじゃないですかッ!」

「ッ!??」

その言葉は、俺のそれまでの発言すべてに深く突き刺さった。

図星だったのだろう、考えないようにしていたのだろうか。

もし、本当のことだったら、俺は彼女を【都合のいいキーボード】とみていた。

そういう気持ちをどこか持っていたことを認めたくないから。

いままで、包み隠していたのか・・・?

「ちが・・う、ちがうんだ真白ッ!」

必死に言葉を探そうと否定するが真白は続けた。

「違わない!だって先輩は真白のキーボード以外のことを褒めてくれたことありましたか!?ごはんだった作っても美味しかった以外なにも言わない、話してあげても興味すらもたれない、でもキーボードは違った、貴方は私のことをキーボード・・・ピアノ以外のことで認識してなかったんだ!だから、今までとってつけたような言葉で私を騙していたんだろッ!」

「・・・ッ」

言い返したい、そうじゃないと言いたい。

だが、言えるのか?

俺にそれを言う権利はあるのか?

本当にその通りなんじゃないのか?

思い出を振り返れば、真白を都合の良い使い方をしていたんじゃないのかずっと。

翠歌が帰ってきたら、真白に戻ってほしいと言いだしたのも。

アイツのキーボードが近くにあっただけだからじゃないのか?

「おれは・・・おれは・・・」

混乱してしまった俺はその場で頭を抱えてしまう。

この様子が見てられなかった翠歌は必死に訴えた。

「やめてよ真白ちゃん!!」

「どうしてですか?彼氏が傷つけられのが嫌なんですか?」

どんどん狂気が加速する真白に翠歌はおびえながらも止めようとした。

「こんなの・・・間違ってるよ・・・真白ちゃん・・・」

「なにも違わない・・・私はずっと我慢していたことを言ったんですよ!」

「人助は真白ちゃんのこともちゃんと見てるよ!キーボード以外のことだって・・・」

「だったらなんで私の話を聞いていなかったんですか!」

「・・・ッ」

「あの時、私の話を聞いていなかったのも・・・翠歌先輩のこと考えてたんでしょう、それか興味がなかったか・・・」

翠歌も涙を抑えきれず泣きながら手で顔をおさえ、崩れた。

真白は俺達2人に言った。

「この際はっきり言います、全部・・・翠歌先輩がやればいいんですよ」


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