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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第6話【真白のために】

ラーメンカフェ屋、あそこにもしかしたらいるのではないだろうか。

そんな淡い期待を抱いていた俺だったが、失敗に終わる。

とりあえずは家に帰ることにして、もう一度ほかに当てがないか確かめることにした。

とは言っても、帰っても当てがあるとすれば真白くらいだから。

実際はなにもないんだがな・・・。

俺は鍵をそそくさと開けて、すぐさま部屋に戻り、またゴーグルをつける。

「ログイン開始」

気が付いたらまたここに戻ってきている。

とりあえずの帰還、二人を置いて来てまで外に出たのに。

なんの成果も得られなかった。

悔しい思いを必死に押し殺して、二人に帰ってきた挨拶をすることにした。

「よう、いまもど・・・」

「認めませんわァァァァアーーーーーッッ!!」

思わずつけていたゴーグルを外してしまいたくるなるような大声にびっくりした。

なにがあったのだろうか、今叫んだのは・・・真白?

俺は状況を確認してみると、両腕を下にぐっと怒りを向けているような姿をみせていた。

すると真白はそのまま腕をぶんぶん振りながら思いのまま言葉を出した。

「翠歌先輩がどんな楽器を弾くのはご存じでしたがッ!私の癖や音まで真似できるなんて聞いてませんよッ!」

どうやら、完コピできる翠歌に対して真白は怒っていたらしい。

それに対して翠歌はとても困った顔をしていた。

「だ、だって・・・真白ちゃんの弾くキーボードはとっても綺麗だったから・・・ずっと聴いてたんだ・・・よ?いつか、驚かせようと思って・・・」

「私の存在価値が消えるじゃないですか!私が唯一あのメンバーの中で誇れる取り柄なんですよ!私からキーボードを取り上げたら、家事ができる財閥のプライドもない、ただの女の人なんですから!」

「で、でも即興で創作した音とかクラシックの世界観の良さを感じさせるのは真白ちゃんにしかできないから・・・私も、真似できるだけで、真白ちゃんほど上手くないし・・・」

「嫌味かァ!」

「い、イピィ・・・」

目を不等号みたいにさせて手をあげていた翠歌。

なんか聞きなれない声まであげている。

頭をポリポリとかきながら真白の怒りをおさめることにした。

「やめろ、真白・・・翠歌だって悪気があるわけじゃないし、お前に憧れて練習したんだぞ」

と、俺が声をかけると少し涙目になりながらこちらを向いた。

「だって~!翠歌先輩が月の光私よりも上手く弾くんだもん!」

真白がぐすぐす言いながら指をさして言っていたのを他所に俺は少しその言葉に衝撃を受けていた。

「月の光・・・ッ」

頭によぎるのは、あの時の記憶。

小学校の頃、真白が音楽室で弾いていた美しく完璧な演奏。

そういえばあの時の夢を俺は見ていた気がする。

最後のほうまで見れなかったけど。

「・・・人助先輩?」

「えっ?」

「聞いてなかったんですか!?」

と、どうやら俺が夢の中のことを思い出そうとしていたらどうやら真白がその間に言っていたことになにも気が付かなったらしい。

真白はとうとう「う~・・・ッ!」と唸り声をあげて怒りの一言を放った。

「失礼いたします!!」

そういうと一瞬にしてこの場から消えてしまった。

怒らせてしまった・・・。

「人助、真白ちゃんのこともっとかばってあげなきゃダメだよ」

「そう言われてもな・・・」

困った顔の果てに寂しげな顔で翠歌に説教されてしまう。

まあ、翠歌は悪くないし、俺が確かに真白の気持ちを理解してあげるべきだったか。

話の途中で別のこと考えていたのもよくなかったな。

俺は翠歌に少し言葉を告げた。

「まあ、俺が途中で考えごとしていたのも悪かったし、誰も真白のことを考えずに行動したのがよくなかったのかもな」

その言葉に翠歌も思い当たる節があったのか悲しげな顔で言った。

「・・・そうかもね、私も真白ちゃんのキーボードの演奏を聴いて、とっても嬉しそうに『月の光は先輩が好きな曲なんです!』ってニコニコしながら演奏してね、私・・・あんなに綺麗で美しい演奏やっぱりほかにないと思って・・・聴いた音や演奏を真似しちゃって・・・」

翠歌は、真白の才能に思わず悔しいとか、いいなとかの感情で行動してしまったんだろう。

気持ちはとてもわかる。

翠歌は続けて言葉を出した。

「私、真白ちゃんよりずっと先に死んじゃったから・・・真白ちゃんの音を真似していたことを披露することもなく死んじゃってね、またここに戻って来たら前より上手くなっていて・・・私の知らないくらい、遠い世界に言っていて・・・生きてる人ってずるいな~って・・・思っちゃった」

「ずるい・・・か」

「ずるいよ、だって私の知らないくらいずっと頑張ってたんだもん・・・死んだら頑張ることもできないんだから・・・ずるいよ」

哀しい感情を微笑み誤魔化す翠歌。

でも、翠歌の言葉もなんとなくわかる気がする。

俺がもし、先に死んでいて、ここに生き返って、みんな昔よりも上手くなっていたら。

俺も、みんなに嫉妬しているかもしれない。

俺は昔のままで、みんなは昔よりも先にいる。

翠歌の悩みは、人の何倍も重い事情だ。

俺は、思わず翠歌に声に出してしまう。

「なんか・・・ごめんな・・・翠歌」

すると、翠歌はハッとなってまた明るさを取り戻す。

「ううん!何回も何回も謝らないで!こっちこそ、わがままな言葉吐いちゃってごめんね!」

翠歌は両手を振って大丈夫と俺に伝えてくれた。

そのまま次にこう言った。

「でも、不思議だね」

「なにがだ?」

「私、生きている以上の幸せをもらったって言ってたのに、あの時だけなにか・・・求めてしまった気がする、不思議なんだ、あんなこと言ったばかりなのに」

翠歌は自分が生き返ったこと以上のことを求めてしまったことに不思議そうに考えていた。

俺から見たら、そう言ってもなにかを求め続けてしまうのは人間なら普通なこと。

電子の体になってしまったとしてもそれは同じだろう。

だから、俺は翠歌に言った。

「そんなに不思議そうにすることもないよ、もし、本当になにか求めていたら、遠慮なく俺に言ってくれよ?」

「人助・・・」

すると、翠歌はとても目を開いてニコッと目を閉じて言った。

「うん!君がそういうのなら遠慮なく!」

翠歌とはまだこうやって電子の中で触れることもできず。

今まで以上にどうやったら彼女の幸せは叶えられるのかわからない。

だからこそ、話すことでも、歌うことでも構わない。

俺が叶えられるのなら、どんな願いも聞いてあげたい。

そんな思いを抱きながら、俺はギターを取り出して翠歌に言った。

「練習、しよう」

「練習・・・でも、真白ちゃんが・・・」

「考えがあるんだ、今は真白しか戻ってきてないけど、真白の為に歌を作るんだ」

翠歌は俺の唐突な言葉に嬉しそうに手のひらを合わせた。

「真白ちゃんの為に!?すごい!」

「そうだろう?まずは俺達の作った曲をどんどん日本に発信していって、この曲に気づいた仲間をどんどん集めるんだ」

「そのためにも、真白ちゃんが帰って来たっていうことをアピールするのと、今でも仲間と一緒だというのをアピールするのね!」

「そう!日本中の人にも、仲間にも熱い気持ちを伝えたい、その為に、まず真白の祝いの音を奏でてやりたいんだ」

すると翠歌はキリッと表情を変えて告げた。

「わかった!そのためにたくさん練習しよう!」

「ああ、次も最高のライブにしよう!」

真白の為に練習に励むことにした俺達。

まだまだ参加までには遠いが、いずれは近づく。

そのためにまずは仲間との息を合わせるべく。

この祝い曲、必ず最高のモノにしてみせる。


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