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電脳世界に死ンドル  作者: 幻想卿ユバール
第二章【狂奏のピアニスト】
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第4章【ラーメンカフェ】

「・・・何度見ても、まるで別人ですよね」

新しい体に入った翠歌を見て唖然としている真白。

と言っても彼女は2回目だが、なんだか見慣れていないような言い方。

「何度見ても、聞いてもちゃんと翠歌だぞ」

俺はどこか遠い目をしている真白に言い聞かせるように言った。

「ええ、ライブの時のアドリブの強さ、何に対しても動じない精神力、そっくりです」

どうやら真白の中でも認めてはいるが素直に認められないらしい。

当然と言えば当然だろうか。

一度は死んだ翠歌、だが今は奇跡が重なりここにいる。

俺さえもまともに認められないのに。

「びっくりだよねー、本当に」

「お前はもう少し同様しろ」

ケラケラ笑って済ませている翠歌に俺はオイッとツッコむ様に言った。

当の本人はクッソ悠長に構えているしよ。

こんなんだからあんまり深刻に感じないんだよな・・・。

俺は思わず、はぁとため息をついた。

「お前は嫌じゃないのか?生身失ったんだぞ」

俺のどうしたらいいもんかというような態度に翠歌は人差し指を顎に乗せて空を見上げるようなポーズで考えていた。

「うーん・・・少なくとも私はいいかな」

そのあっさりとした回答に真白は驚いて反応した。

「えっ?でも・・・翠歌先輩は自由を奪われたもんですよ!?食べることも寝ること・・・外の世界に行くことだって!」

すると翠歌はニコッと微笑み返した。

「お腹が空いて苦しむことも、寝なきゃ疲れがとれないこともなくなったんでしょ?外はその・・・しょうがないとしてさ、楽しみが減ろうが、私は生きてるならなんでも構わない」

肝が据わりすぎている答えに俺は唖然としていた。

真白も両手で目を開いて開いた口を隠していた。

翠歌は俺たちの驚きを他所に平然と笑っていた。

「私にはみんながいる、私の好きな音楽を聞かせてくれる仲間がいる、それだけで十分、生きる以上の幸せをもう神様に十分もらったんだよ、私は」

コイツの言う言葉は、なんでこう暖かいんだろう。

本当に天使になったからだろうか。

生きている時ももちろん、天使みたいなやつだったけどな。

微笑みにっこり笑っていた翠歌に俺はこう言った。

「世界に行くまでが、本当の幸せだろう?」

「あー・・・それもそうかな・・・?」

「お前の夢だろう」

ほわっとした返しにクスっと笑ってしまった。

翠歌の言う通り生きているだけでも幸せなんだろうけど。

この世界に帰って来れた以上コイツの願いは聞いてやりたい。

「(・・・一番はやっぱり)・・・なんですね」

「えっ?」

なにか今声がした気がする。

真白だろうか?

「真白、なにか言ったか?」

「えっ?ああ、なんでもないですよ!」

ハッと気が付いて慌ててなにか誤魔化すようなそぶりを見せる真白。

気のせいだったんだろうか。

「体調とか悪かったら言えよ?バーチャル空間じゃ何もわかんねぇだから」

「はい!わかりました!」

真白は昔ら大人しい時もあれば騒がしい時もある感情の波が激しいタイプだ。

ただ、なんだろうなにか引っかかるような。

そう思っていたら翠歌が声をかけて来た。

「ねぇねぇ!真白ちゃんがいるなら久々にセッションしようよ!」

「キーボードとか?」

「楽器は関係ないよ、音楽は心で通じるんだから!」

ものすごい感情論だ・・・。

ただまあ、コイツのこの論は今に始まったことじゃないからな。

「いいですよ、私は、今目の前にもキーボード用意してあったので」

と、俺と翠歌が会話していると真白は乗り気を見せた。

最初こそ消極的だったが、やはり最近は目覚めてきてくれたっぽいな。

なんだかんだ不安こそあったが、とりあえずの心配は解消された。

しかし、それでもやはり雷神と吹雪の存在は欠かせないな。

ここはやはり、あそこに行くか。

「真白、翠歌、俺ちょっと用事で席外すから、二人で練習しといてくれ」

「ヴェッ!?」

「いいよ、いってらしっしゃいー!」

今。真白がものすごい驚き方をしていたような・・・。

ていうか、翠歌は翠歌であっさりしすぎだし。

「・・・わかりました、いってらしゃぃ・・・」

そして、露骨に残念がる真白。

「ごめんな、すぐに戻るから、待っててくれ」

残念そうにしている真白に謝る。

すると真白は気を取り戻して、少しまだ哀しそうな眼をしていたが優しく言ってくれた。

「はい、すぐに戻って来なかったら許しませんよ」

「ああ、わかってるよ

俺は2人の許可がとれたのでゴーグルを取ってこの場を後にする。

急いで家を出てまた自転車を走らせる。

俺が今から向かうのは遠くはない、つまり文字に描き起こす必要もない。

※全力で手抜きしたい言い訳。

「着いた、ここはまだあったか・・・この前も見たけど」

【ラーメンカフェ】、胃もたれを起こしそうな店の名前だが。

ここは吹雪の親父とお母さんが経営しているお店。

中はレトロな雰囲気のカフェ主体だが、テーブル席が2つ。

そしてカウンターの椅子が7つ、奥には古めかしいゲームの機体があったな確か。

なんで置いてあるのか知らんけど。

俺はこの店のドアを開けて中に入る。

カランカランと音がなり、中に見えたカウンターに立っているのは。

吹雪と同じ明るい紫から始まり青から水色へとグラデーションになっているウェーブヘアーの若々しい白肌の女性。

今日もセーターに青いジーパンを履いてエプロンをかけている。

あの人が【紫 伊吹】。

「あら、人助君じゃない」

ニコッと微笑み、こちらに挨拶してくれた伊吹さん。

素敵な微笑みにおもわず、かっこつけて挨拶をする。

「こんにちは、あいからわずお美しいですね」

カウンターの椅子に向かい静かに座りながらお世辞を言う俺に。

伊吹さんはクスクスと笑いこう言った。

「いやね、口説きに来たの?」

カウンターに両肘をくませて顔を近づけてそう言った。

俺は伊吹さんに続けて言葉を発した。

「誰もがあなたのここr」

ズダァァンッ!!

突然包丁が目の前の座っていたカウンターテーブルに突き刺さる。

投げられたほうへ顔を向けると・・・。

「娘ならずも、妻にまで手を出しに来たか・・・小童ァ」

丸坊主のグラサンをつけている筋肉男こそ【紫 嵐】。

おっかない、ことで有名だそうだ。

この店は元々ラーメン屋だったが、嵐さんが趣味で行っていたカフェのマスターが伊吹さんで、話しているうちに仲良くなって結婚したそうだ。

その時、どちらの店をつづけるか悩んだ末、どっちもくっつければいいと思い。

この店ができたそうだ。

昼や朝はコーヒーを飲むお客さんが多く、夜はラーメンを食いに来る人がいるそうだ。

しかめっ面で鬼のような視線を送っていたが、途端に何かに気づいてやめた。

「・・・なんだ、人助坊主じゃねぇか」

「す、すみません・・・ややこしいようで」

「いや、すまねぇ・・・俺はてっきりもう一人のクソガキかと思ってよ」

嵐さんはいきなり落ち着いた顔つきになった。

いや、この落ち着いている形相もそうとう怖いけどなッ!

ちなみに、嵐さんが言うクソガキとは俺ではなく雷神だ。

雷神は中学に入ってできた友達だが、吹雪もそう。

雷神とは同級生で、二年生になった時に新入生として入って来た吹雪に一目惚れ。

その一目惚れで何度も告白したが、7年間一切実ったことはない。

吹雪も親に話していたらしく、伊吹さんはあらあらと済ませていたが。

嵐さんがこれに激怒、殴り合いに発展したが。

当時からやたら強いことで有名だった雷神はもちろん。

ボロ負けしました。

『ゴリラに殴られても傷つかないお前がなんで負けるんだよ』

当時、病院に搬送された彼に言った言葉だ。

なんでやつは負けたのだろう。

何はともあれ、こういう一件から嵐さんと雷神の仲は良くない。

娘が困っているから近づけさせたくないんだろうな、きっと。

と、俺が思い老けていたらまたドアからカランカランなる音がした。

誰か入店したみたいだ。

「あれっ!?人助じゃん!?」

「雷神ッ!?」

「テメェえぇぇッッ!!クルァァァッ!!」

突然現れた、雷神に向かって木の椅子を持ち上げた嵐さん。

だったが・・・。

「およしなさいッ!」

「はい」

伊吹さんに静かな怒りをぶつけられてすぐに止まった。

ひやひやしながら見ていたがなんとかなった・・・。

雷神が突然のことでぼんやりしていたら、伊吹さんは優しい声で言った。

「雷ちゃん、いつものかしら?」

「あ・・・はい、いつものです」

そう言って雷神も俺の隣の席に座るのだった。



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