第3話【翠歌の気持ち、真白の気持ち?】
「253人か・・・」
改めて考えてみたが、事態はわりと深刻である。
当時、俺たちの活動の最高潮には【120万のチャンネル登録者】がいた。
あれから七年の歳月が立ち、実際にライブをしてみたら。
「復活の時、そこに俺達を知る者はいなかった」
「ちょっと・・・寂しかったね」
大々的に宣伝もやった。
あの時、できるかぎりの努力をした。
ただ、翠歌がギターとキーボードを弾けなかったら。
俺達の光はそこにはなかっただろう。
突き刺さる、かつてのファンに言われた言葉。
『貴方たちの時代は終わったんです、散々待たせた挙句の果てに意味不明な復活の告知にふたを開けてみたら魂のないロボットに歌を歌わせる』
『新時代に貴方たちの居場所はないんですよ』
あの子は、きっとずっと待っててくれたんだろう。
だから言いたかった、もし帰って来たのなら、言ってやりたかった。
そして、聞きたかったんだろう。
もし、本当に帰って来たと言うのなら。
「・・・ありがとう、翠歌」
「ふえ?」
俺はあのライブの時のことを思い出しながら、思い老けていた。
下を向いて、ソファーに座り、足を広げて両手を組んでいた。
悲し気に水歌に言ったんだ。
「もし、諦めてべつのことをやっていたら、俺は君に会えなかった、だから諦めなくてよかった、そして・・・君も、あんな状況の中で、諦めてくれなくて・・・よかった」
すると翠歌はニコッと口元を笑わせ、言った。
「君が諦めないなら、私も諦めない、君が音を奏でるなら、私も歌う」
「翠歌・・・」
いつも、コイツはどこからわいて湧いてくるかわからない自信がある。
ずっとそれに励まされてきた。
どんな壁が立ちはだかってもコイツの元気に勇気をもらった。
翠歌は本当にすごいやつだ。
「・・・何度も言ってすまないが・・・俺」
翠歌に何度も話したあの言葉を言いかけた時、割り込む様に言葉を発した。
「わかってる、世界に連れて行ってくれるんだよね」
キリッとした真剣な眼、覚悟の決まった声。
翠歌はいつだって俺に付き合ってくれる。
どんな馬鹿な願いも、デカい夢も。
お前は笑ったりしない。
絶対に今度こそ、叶えてやらなきゃならないな、これは。
「・・・とはいえ、まだ道は遠いな」
「確かにね~、でも、地道でも続けていかなきゃね」
互いに意思を確認している中でも、ため息をつく俺達。
そう、目標の世界に行くにはまず日本一を取り返さなくてはならない。
VirtualChampionLives。
現在バーチャル空間、主に日本で音楽の最高の祭典と言われている祭り。
この祭りに参加して、一番になることができれば。
俺たちは真の始まりと言えるだろう。
この祭りの参加条件は最低1万人の登録者を持つ者。
現在三月、開催は五月三十一日。
あと二か月で、一万人に届けなきゃいけない。
「足りない、圧倒的に・・・」
「むむむ・・・」
悩む、翠歌と俺。
難しそうに考えているようで腕を組んでアニメのような棒線目。
なんだろう、ボケているんだろうか。
「翠歌、考えているか?」
と、俺が口を出したところ翠歌は突然大声を出した。
「あっ!そうだ!」
「なにが!?」
翠歌はうきうきとしながらその言葉を口に出した。
「バンドアイドル!」
「へっ?」
突然の単語にきょとんとしてしまう。
ば、バンドアイドルだと?
「なんだそれは?」
翠歌は自信満々に声に出して話し出した。
「ただアイドルやるだけじゃダメ、音を奏でる人とライブをしてさらにパフォーマンス力を増幅させる!」
「なるほど、バックに音楽家を配置するのね、まあ、それもよくありそうだけど・・・問題はメンバーだ、それこそ寄せ集めじゃ意味ないだろ」
と、俺が顎に指をのせて悩ませていると翠歌はふっふっふっと笑い。
なにか怪しげ、しかしどこか楽しそうな顔をしていた。
「ま、まさか」
そして翠歌は指をビシッとさして言った。
「そう!昔のバンドメンバー再結成!!」
なんとなく、読めていた。
だが、俺はすぐさまこう返した
「それができたら最初から苦労はしねぇッッ!!」
「あうあ・・・」
思わず大声で返してしまって変な声で座り込んでしまう翠歌。
「すまん、だがお前の気持ちはわからなくはない」
突然ツッコんでしまったことに謝りながら話をつづけた。
「けどな、みんながみんなお前みたいに昔の気持ちじゃないと思うんだ、吹雪は今どこにいるかわからないし、真白は見るのは良いけど参加するのは拒絶しているし、ZINは・・・仕事でそれどころじゃないって」
「・・・そっか」
彼女は今、肉体の持たない体の中でも心はあるだろうか。
いや、当然だろう。
こんなにも感情がはっきりしている。
ならば、今翠歌が唯一傷つく場所だろう。
だとしたら、悲しませてしまった。
今後はもっと発言に気をつけなくてはならない。
俺は哀しげに顔を下に向けてしまった彼女に謝罪を述べた。
「ごめん、翠歌・・・」
すると翠歌はハッとなってすぐに明るくなり、顔を横に振った。
「ううん!君は悪くない、みんなも悪くない!だって、みんなの気持ちを強引に押しのけるのはよくないでしょ?」
「・・・ありがとう」
すこし、微笑み返した。
翠歌はいつだってみんなのことを考えているな。
昔もそうだったな。
俺はまた、元気づけられ、ソファから立ち上がりどこかへ歩き出す。
「人助?」
翠歌は不思議そうに声をかけて来たので俺は言葉を返した。
「ちょっと、真白に話して来る」
翠歌はそれを聞いて目の前にあったテーブルに両手をついて嬉しそうに言葉を出した。
「じゃあ私も・・・」
と、何か言おうとした時だった。
言葉が途切れた翠歌は何か隠すような笑顔で言った。
「・・・っ、ごめん、なんでもないや!いってらしっしゃい!」
「あ、ああ」
少し気になったが、俺は翠歌の言葉を聞き入れて一人で行くことにした。
去った後、翠歌は寂しそうに両手で足を抱えて言っていた。
「・・・真白ちゃんだって、二人っきりになりたい・・・よね」
彼女の気も知らない俺はサイバー空間を駆け抜けて真白のマイルームに急いだ。
フレンド同士なら部屋の行き来も楽だ。
フレンドが許可さえすればマイルームにはすぐに入れる。
あっという間についたピンク色に染まったふわふわした部屋。
クマのぬいぐるみ、大量のもこもこ、なにからなにまでスイートだ。
「いらっしゃい!先輩!」
白いウェーブのピアノゴスロリの真白が出迎えてくれた。
「元気そうだな、真白」
と、俺がいつも話しているのに久々みたいな言葉を発すると。
クスクスと笑ってツッコんできた。
「もー、先輩とはこの前も会いましたよ?忘れてるんですか?」
「はははっ・・・すまん」
「ふふっ、いいんですよ、別に」
なんだか、いつもこうやって他愛ない会話をしていた。
真白と話しているとなんだかとても落ち着く。
どんなくだらない会話も、真白になら話して楽しくおしゃべりしていた。
しばらくこんな会話をしていた時、真白は言った。
「先輩、そういえばこの前のライブ・・・すみませんでした」
「えっ?」
真白がこの前のライブのことを謝って来た。
真白はあのライブに顔を出してくれた一人のお客さんだった。
それなのに謝ることなんてなにもないのに。
「どうして謝るんだ、真白」
すると真白は悲しいけれども悔しいような表情で言った。
「私・・・先輩の気持ちにこたえてあげられませんでした」
「真白・・・」
「先輩は、私にもう一度音楽をやろうって誘ってくれたのに私は逃げた、怖かったんです・・・今、新しい時代が始まっている中で、私達なんかが通用するのか、先輩はどんな気持ちでまた戻ろうと決めたのか」
怖かった、その気持ちは真白だけにしかわからないはずなのに。
俺はなぜかわかってしまった気がする。
七年で変わってしまった風の流れに、今俺達が乗ることはできるのか。
俺は、何かにとりつかれてとち狂った考えでやっているんじゃないのか。
彼女の気持ちになって見ればよくわかる。
だから、俺は言った。
「謝ることはなにもない」
「先輩?」
「失敗、敗北、いろんなことに怯えるのも人だ、だからこそ、恐れていい、逃げてもいい、怖がってもいい」
「・・・」
「ただ、諦めなければいいんだ」
「・・・ッ!」
「諦めなければ、いつだって挑むことができる、死ぬその時まで諦めちゃだめなんだ」
「・・・先輩」
真白は泣きそうな顔を必死に抑え。
少し、深呼吸し心を整えて言葉を発した。
「・・・少し、付き合ってみます」
俺は、真白のその言葉に動揺し目を見開いた。
嘘を言っているようには見えなかった。
声は震えていたが、確かに彼女は口に出していた。
「私の・・・キーボードでよければ・・・」
俺は、勇気をだして言った真白に嬉しく声に出した。
「ありがとう・・・真白!」




